明院の逆襲

第71話 明院の思案

 明院の所へ届いた書状には、朱雀が西寧王を正統なる白虎の血脈と認め、西寧王の統治を承認したのだと書かれていた。


 西寧を連れ帰るように命じた化け狸からは、まだ連絡はない。

 こうも何もかもが上手くいかないことには、腹立たしい限りだ。


 西寧を傘下に入れたい。だが、従わないと言うのなら、今後の目障りにならないように存在を消し去りたい。その意志は変わらない。


 さて、どうやってそれをなすべきか。

 あの化け狸め。どうやら裏切ったという話は聞かないが、どうも失敗しているようだ。どこで何をしているのかは知らないが、長い時を待つだけで過ごせば、事態は悪くなる一方だ。


「お呼びでございましょうか?」


 そう言って、明院の前で恭しく頭を下げるのは、女郎蜘蛛の妖。

 じっと床に伏せて、明院の言葉を待っている。


「おお。牡丹よ。すまんな。其方まで呼ばなけばならない事態になって」


 明院は、この忠実な部下に目を細める。


「いえ。明院様のためとあらば、この牡丹は、いつでもはせ参じます」

「首尾は?」

「青虎の国の玉蓮は、すでに我がとりこにございます。私が命じれば、西寧の茶に毒を混ぜることも容易でございましょう」

 

 一を聞けば聞きたいことがすべて返ってくる牡丹の返事に、明院は喉をゴロゴロと鳴らして喜ぶ。やはり、有能な者と話すのは心地よい。


 さて、どうしようか……。いっそもう、正妃玉蓮に西寧に毒を盛らせて、その罪は太政大臣に擦り付けようか。


 しかし、そのためには、ぜひ、玉蓮に西寧の子を産んでいて欲しかったのだが。

 それであった方が、外戚となりたい太政大臣の仕業だという筋書きが成り立ちやすい。

 

 牡丹の報告によれば、西寧と玉蓮の仲はあまり芳しくない。稲荷神の元から来た九尾狐の常盤ばかりを可愛がっているようだ。

 それに嫉妬した玉蓮が、西寧に毒を盛ったという筋書きにしようか? いや? それならば、先に、常盤に毒を盛るだろう。

 万一にも、こちらに火の粉が飛んで来れば、朱雀、烏天狗、稲荷神と、数々の後ろ盾を得ている西寧を暗殺したことにより、たちまち、この明院は失脚してしまうだろう。事は慎重それでは、計画が狂う。事は慎重に運びたい。


「迷っておられますか?」

「いや、西寧を殺すことに迷いはないが、時期が難しい」

「厄介な後ろ盾がついたものですね」

「全くだ」


 聡い牡丹と話しながら、明院は苦笑いする。


「牡丹。では、頼まれてくれるか?」


 明院は、しばらく考え込んだ上で、一つの結論に至った。

 

「はい。この牡丹でお役に立てることがございましたら、何なりとお申し付け下さい」


 牡丹は、明院の命令を静かに聞いていた。


 

 

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