第69話 朱雀の認証
迦陵頻伽の歌声の響く朱雀の居城。
朱雀は玉座で胡坐をかいて頬杖をついてニコニコと微笑みながら西寧の話を聞いている。
「……ということで、朱雀様には、この西寧を白虎の子孫、青虎の国の正統な王として認めていただきたく……って、朱雀様? 聞いておられますか?」
先ほどから朱雀は、ニコニコしながら壮羽を見ている気がする。
よほど気に入ったのだろうか?
「分かっておる。この朱雀、約束は守る。翼もないくせに無謀にもこの国の雲を踏んだアホ虎精。そんな面白い物を認めない訳がないだろう? 四神獣朱雀として、西寧王が白虎王の子孫であり、正統な権利を持って青虎の国を引き継いだことを正式に認めよう。他のどの虎精の国の王が何と申しても、それに変わりはない。その証拠として、書状も渡そう」
わ、分かっているようだ。良かった。
「しかし、可愛いのう。烏天狗! 壮羽と申したか?」
「か、可愛い? 左様でございますか?」
朱雀の言葉に、壮羽は怯む。
「そう。この国においておきたいものだが、残念がら、西寧王と帰るのだろう? 烏天狗は融通が利かん堅物だらけ。残念じゃ……そうじゃ、せめて、月に一度は、この国を訪れて西寧王の様子を聞かせてくれるのはどうじゃ?」
「月に一度もですか? それは無茶でしょう。この国は遠い。それでは主君の仕事をすることが叶わなくなります」
「困ったのう。じゃあ、ふた月に一度」
「無理でございます」
壮羽は、朱雀の言葉を取り合わない。
「じゃあ、こちらか行こうか?」
四神獣朱雀が青虎の国へ……大騒ぎになりそうだ。それこそ、何事が起こっているのかと、他の虎精の国々が警戒しそうだ。
「それは、こちらが困ります」
西寧が慌てて朱雀を止める。
そんなことをすれば、何が起こるか分からない。
「だろう? では、やはりそちらから来てもらわねば困る」
にこやかな朱雀。
「仕方ありませんね……では、年に一度……」
「壮羽が来るか!」
朱雀の目が輝く。
「いえ、兄上に頼んで烏天狗の他の者を使いに」
壮羽の言葉に、朱雀が目に見えてがっかりしている。
「つれない! どうしてじゃ!」
「時間が掛かりますでしょう? この国に行くためには、まず緑虎の国から烏天狗の里まで登り、そこから金の雲を目指して飛ぶのです。そうしなければ、妖力が足りません」
「迦陵頻伽を一羽連れていけばいい。それならば、青虎の国から妖力が切れることもなくこの国まで一気に昇れる」
確かに朱雀の言う通り、妖力を歌声で回復させることが出来る迦陵頻伽が一緒ならば、それほど時間を掛けずにこの国まで登れるだろう。
「しかし、共に青虎の国へ行く迦陵頻伽などいるのでしょうか? 強制するのはいかがなものかと思います」
西寧が反論する。
この国にいれば、仲間と楽しく過ごすことができるのに、見ず知らずの虎精の国へ行こうというのは、よほどの変わり者だろう。
「大丈夫じゃ。もう見つけた! 胡蝶!」
朱雀に呼ばれて出てきた一羽の迦陵頻伽は、先ほどの少女。
「お兄ちゃん!!」
西寧に抱きついてくる胡蝶を西寧は抱きとめる。
「えっと? これはどういう?」
こんな幼い子に見ず知らずの国へ行けというのだろうか?
「この子は、自分で志願したのだ。青虎の国へ行ってみたいと。大丈夫じゃ。無理そうならすぐ朱雀の国へ戻せばよいし、年に一度は、壮羽と一緒に朱雀の国へ里帰りするのだろう?」
「歓迎してくれると言っていたでしょ? お兄ちゃんの国を見てみたい!」
胡蝶の言う通り、確かに、そう言ったが、それは観光に来るとかその程度のことであったのだが……。
「うん……まあ、仕方ない。嫌になったら、遠慮なく言うんだぞ?」
西寧達は、朱雀の認証を得て、迦陵頻伽の胡蝶を連れて帰ることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます