第13話 国王の崩御

 明院が、西寧が帳簿の管理をする店に顔を出した。


「青虎の国の国王が亡くなったらしい」


挨拶に行った西寧に、明院は、いきなりそう言った。西寧も、そのことは、店の仲間から聞いて知っていた。だから、動揺せず、明院に、ニコリと笑いながら対応した。


「そのようでございますね。王様が亡くなれば、きっと国は混乱しているでしょう。商売の余地が産まれそうですね」


西寧は、商売人らしい感想を、できるだけ動揺しないように注意しながら明院に述べた。明院は、鋭い視線で、西寧を観察していた。


 この男は、俺のことを、どれほど気づいているのだろう。

 西寧は、緊張する。

 最悪、首を刎ねられる。あるいは、青虎の国との交渉材料としてとらえられ、俺を暗殺しようとしている連中のいる中に放り込まれる。


「西寧君は、知っているかい? 黒い虎は、白虎の血脈の中からしか産まれない。不吉の象徴でありながら、その血に、王族の物が混じっている証拠でもあるんだ」


明院が、西寧にじりじりと言葉で追い込んでくる。


「左様でございますか。では、私の先祖にも、王族がいたのかもしれませんね。貧乏人の私には、夢のような話でございます。どこの国のどんな方は、知りませんが、どこかで血がつながっていると思えば、王様も、少し、近く感じられます」


知らぬ存ぜぬで、通さねばなるまい。俺に、今聞いてくるということは、本人も確証がないということだ。だから、俺を試すようなことを言って、確証を得ようとしているのだ。

「知っているかい? 亡くなった青虎の国の王は、西凱王と言ってね。西寧君と同じ西の字がついている」


「左様でしたか。それは、似た名前の王様が亡くなったとなれば、少し寂しい気がします」


 しまった。偽名を使うべきだったか。だが、六歳の俺に、そんな知恵はなかった。

 西寧の手が、嫌な汗でじっとりとしてくる。

 形式で西の字を使ったのだろうが、何も捨てる予定の黒い毛並みの子にも、同じ字を付けなくても。王族の考えることは分からない。お陰で、俺は、こんなにも誤魔化すのに苦労している。


「西寧君。君は、歳はいくつだね?」


「ご存じの通りの捨て子ですので、産まれた日も定かではありません。歳も曖昧です。ですが、少なくとも十四歳には、なるはずです。栄養状態も悪く、発育は悪いですが。」


少し誤魔化した。誤魔化しが効くだろうギリギリで、歳を上に言った。


 本当は、十二歳。

 それを素直に言えば、西寧の正体がバレてしまう。心臓が、破裂しそうにドキドキしている。

そうか。と、明院は、西寧を見つめる。普段の大人びた西寧の様子から、信じてくれたならいいのだが。


「明院様は、今日は、どのような品をお求めでしょうか」


西寧は、話題を変えてみる。声が上ずらないように、細心の注意を払う。ここで、動揺してしまえば、終わりだ。

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