第14話 不思議な薬
「ふふ。今日は、君に会いに来たのだよ」
明院は、そう言って、西寧の手のひらに小さな瓶を置いた。
「これは? 何でございましょう」
「化け狸の幻術の入った珍しい薬だ。肌につけると、幻術で毛色が変わる。子どものおもちゃなのだがね。我が家には、これを使って遊ぶような小さな子はいない。西寧君が使うのも楽しいかと思って。ちょっと、使ってみてくれないか?」
これで、何が見たいのだろう。まずい。明院の意図が分からないと、対応のしようがない。
西寧が、恐る恐る、薬を少し付けてみる。
西寧の毛色が変わり、ありきたりの虎精の色になる。
「いかがでしょうか?」
西寧は、明院を、不安を隠しきれない顔で見つめる。
「うん。かわいいね。可愛さが、普段より強調されるね」
明院が、ニコリと笑う。西寧の頬をさする。
「は?」
さっぱり分からない。まさか、ただの変態だったか? いや、違うだろ。何か意図があるはずだ。ここで気を抜いたら駄目だ。西寧は、グルグル考え込む。
「まあ、時々、その姿もみせてくれ」
キョトンとする西寧を置き去りにして、明院は、店から出て行った。
店では、毛色の変わった西寧に、店員が驚いていた。皆、可愛いだの、黒い毛並みでなければ良かったのになどと、口々に勝手なことを言っている。
そんなことは、西寧には、どうでも良かった。
だが、驚き騒ぐ同僚を見て、一つ分かったことがある。
子どものおもちゃに関しては、西寧は詳しくないが、こんな薬、誰も聞いたことがない。
だから、明院は、この薬を、西寧に使うためにわざわざ用意したと考えた方が正解だろう。
何のために?
そこが分からないから、明院の行動が不気味でしかたなかった。
西寧の身元が、隣国の王子であることを、確信したのだろう。
今後、この店を出て逃げることも視野に入れた方が良いかも知れない。西寧は、逃げるための算段を始めることにした。
明院の自室。
明院が考え込んでいた。西寧のことだ。
毛色を変える薬を使ってみたが、やはり西凱王には似ていなかった。他国の王妃の顔は、流石に知らない。年齢も、不確かだった。
明院は、考え込んでいた。確信が得られたら、捕らえてしまうつもりだった。捕らえて、交渉の材料に使うつもりだった。だが、あんな幼い子供が、離れているとはいえ、実の父の死に、冷静でいられるのだろうか。分からない。分からない者を、不確かな確信で交渉の材料に使えば、相手に足元を見られてしまうことになりかねない。
どうしても二の足を踏んでしまう。損はしたくない。
西寧は優秀な子だ。王子でないならば、出来れば将来役立つ年齢になれば手の内に入れたい。優秀な人材は、喉から手が出るほど欲しい。だが、ずいぶんと警戒させた。今すぐに、引き取ると言っても、首を縦には振らないだろう。まあ、また機会はある。王子の件に関しても、もう少し、調査が必要だ。
明院は、配下に、青虎の国の行方不明の王子について情報を得るように命じた。
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