第5話 商人

 八歳になる頃には、西寧は帳簿の計算が分かるようになった。

 出来ることが増えたおかげで、任される仕事はますます増えて、行動範囲も広がった。仕事が出来れば、少しだが、給与ももらえるようになった。


 ある日、西寧は、店員について、仕入れに行った。


「あれ、この衣は秋には、これの倍の値段で仕入れていませんでした?」

西寧がそう聞けば、問屋は笑った。


「今は、春だからね。冬物は、売れなくなる。倉庫は空にしておきたいから、売れ残りは安くなるんだ。特に、衣装は流行もあるからね。去年の在庫など、皆持ちたがらない。季節によって値段は、相当変わるさ」

問屋は教えてくれた。


 なるほど、物の値段は、ずっと同じではないらしい。皆が欲しくなる時に高くなり、皆が欲しがらない時期には、安くなる。季節やお祭りの前などのタイミング。流行、販売する場所。様々な理由で、物の値段は変化する。


「難しいですね。倉庫に置いておくと、痛んだりして損失になりますし。倉庫には、売れるものを入れておきたいですし」

西寧は、考える。


 どの地方で、どのような物が一ヶ月先に売れるのかを判断できるようになれば、商売はやりやすくなるのではないだろうかと。

 例えば、天候から気温を予想して、去年売れた物がどのような条件でどう売れたのかを丁寧に分析しておくことで、大きな利が産まれるのではないかと。

 ならば、必要なのは、様々な条件を記録すること。売れた理由や売れなかった理由を、逐一分析すること。西寧は、店の帳簿を研究して、自分なりに分析を重ねた。たった八歳の子どもの分析。思い込みや間違いが多い内容だったが、日々重ねることで、精度は次第に上がっていた。


 このままでは、俺は、王様ではなく、商人になりそうだな。

 西寧は、思う。


 だが、もし国王になるとしても、ただ王家の血を引くだけで王座につけないことは分かっているし、商人の利を優先する考え方は、西寧には、分かりやすかった。大きすぎる目標にどう手を伸ばすかを考えやすくなった。西寧が何か、王座と取引できる物が無ければならない。

 王としての才能? 皆を率いるカリスマ性?

 どれも、今の西寧には、持ち合わせては、いなかった。命がけで自分を守ってくれた陽明の望みを叶えてやるためには、足りない部分を補い続けなければならない。

 まずは、商人として一流になって、そこから玉座を取引しなければなるまい。

 西寧は、誰よりも熱心に一人前の商人になるために勉強した。

 そのためには、先輩の話をじっくり聞くべきだろう考え、西寧は、店員達の話によく耳を傾けた。店員達も、自分たちの話を熱心に聞く西寧に、話すのが楽しくなった。


 西寧は、話を聞くタイミングを見るのが上手くなり、煙草を吸って休憩して話をしている時や、食事の後の雑談に積極的に交じりに行った。偶然に落ちてきた荷物で怪我をした痛みで幻術を見破った話。人間界で人間が空を飛ぶ方法。様々な場所に仕入れにいく店員達の話は、どれも面白かった。

 西寧は、旅をする気分でその話を聞いていた。




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