第11話 分岐先

「望まない未来を見る事はしない…」


一つ目の言う言葉をなぞる様にロングルドルフも声を漏らす。


「…厳密に言えば『見えない』という方が正しいか?」


そう小さく呟けば一つ目はスーッとロングルドルフを見つめながら一本道を後ろ向きに進む。


「…これから何処へ行くんだ?」


先の見えないどこまでも続かのように見える一本道を背景に、自分より離れつつある一つ目を見て問う。


「…お主とは関り過ぎたかも知れん。このまま全てを忘れ、元の世界へと帰るが良い。時に干渉せず離れる方が良い事もあるのだ」


(っ・・・!)


ロングルドルフの胸をズキリとしたものが突き刺さり、眉間にしわが寄る。

その刹那、浮かんだのは幼い日に分かれた妹の顔。


「我々は選んだ道をこのまま進む。お主はお主の望んだ未来、足元の道を踏み外さぬように自分の足で進め」


そう一つ目が言えばロングルドルフの体がふわりと浮いて、周囲の景色が白く薄くなり輝き始める。


「その先に我々との接点が出来ればまた会えよう。さらばだナッタの王子よ」


ぐにゃりと曲がった一本道を中心に、包むような闇と、数多の光る粒が広がる空間が白く薄らいで景色がぼやけていく。


やがて真っ白などこか…眩しさの無い光の中に、たった一人で居るような感覚を覚えれば、遠い昔を思い出すようなざわりとした何かが全身を這う。


記憶の中の何かが掴めそうだと感じれば、心臓がどきりと脈を打つ。


ロングルドルフが何かを掴もうと思考を寄せると、目の前の眩しさが薄れて行き、元居た場所の洞穴の景色がぼんやりと広がっていく。


掴めそうで掴めない何かに藻掻きながら、暗闇が薄れ、代わりに広がるぼんやりとした洞穴の景色の中。

「さらばだ」という声が聞こえたような気がしたロングルドルフは、掴めない何かを放り投げ、自身の意識をその声に向けようと耳へと感覚を伸ばす。


その耳にオペレーターのはっきりとした声が届く。


「ロングルドルフ!ロングルドルフどうしましたか?」


はっと気が付いたようにオペレーターの強い口調に焦点を合わせれば、目の前に広がるのは採られた鉱石跡の数々。


「いや…あぁ…あれ?」


自分は洞穴の中で立っているという感触を掴めば、ここで何かがあったような、此処ではないどこかに居たような気がして、ロングルドルフは妙な違和感を覚えた。


違和感を思考に残したままゆっくりと周囲を見渡せば、ふと「自分はここで何をしていたか?」を掴んでいた。




*****




「あぁ、そうか。残存鉱石の確認だったかな?」


ぼんやりと目の前に広がる採られた鉱石群を見つめたまま返せば


「そうですよ?何か問題でも?」


と、オペレーターが当たり前ですという感じで返して来た。


そのまま暫く洞穴の光景を眺めていれば、先ほど抱いていた違和感のようなものが段々と色あせて行く。


ロングルドルフは気分を変えるように「ふぅ」と息を吐く。


「大丈夫だ。それよりアイツらはどこへ消えた?」


しっかりとした口調でオペレーターにそう問えば、


「あぁ、一つ目…『ピーピングアイ』の事ですね。先ほどこの惑星から出るという事でお別れをしましたが?」


と返って来た。


「あれ?そうだっけ?」

「はい。見た目よりも高度な文明だったようで不思議な船でしたね」

「う~ん。そう言われるとそうだった気もする…」


抱いた違和感を思考から外し、オペレーターの声に「う~ん」と唸りながら先ほどの様子を思い出そうとしてみる。

と、その時


「ほぉ~?これは珍しい色の服を着ておられる」


洞穴の中の入り口の方からどこか聞き覚えのある声がロングルドルフの耳に入って来た。

妙に馴れ馴れしく感じるそれにロングルドルフは何故だか苛立ちを覚える。


その妙な苛立ちを抱え、声のした方へと顔を向ければ、洞穴の中をゾロゾロとカイロニア達が群れを成して入って来た。


「惑星調査員…か。すまないがコレはオレ達のが見つけた鉱石資源でな」


そういってカイロニアのリーダー各と思われる個体が、つるりとした表面の鉱石を見せて来る。

差し出された鉱石を見つめながら、やはりそうかとロングルドルフは思う。


(解析班へ送ったものと同じ…ならば、この鉱石をエネルギー源として採り尽くしたという事で合っていたな。では、ここへ来たのは調査員へのけん制か?それとも残りモノの確認か、代替えを探しにやって来たか?)


鉱石に目をやり、推測が働けば頭が冷えて来た。


「あぁ、いや。問題は無い。もうこっちのサンプルの採掘済みだ。あんたが持っているそれが最後の一つじゃないかな?それに此処にはもう無いとなると…。他のエネルギー源はあるのだろうか?」


ならばその答えを聞いてやろうと、鉱石以外に興味がないとばかりに白々しくカイロニアに問いかけてみる。


ロングルドルフの問いに興味が向いたのか。

それとも着ている服が珍しいのか、彼らよりはるかに小さい猫人が珍しいのか。


物珍しそうにロングルドルフを見つめながら、ゾロゾロと後続のカイロニア達も集まって来た。


「お前に教える義理は無いが、他に何も無いなら星を捨てるまでだな」

リーダー各の人物が訝しげな顔を向けながらそう言えば


「星を捨てる?」

と怪訝な顔をしたロングルドルフが問い返す。


「利用価値が無くなれば、誰でも捨てるだろう?」


そう言いながらじろりと見つめる目と合えば、ロングルドルフの中をぞくりとしたものが通り、背中の毛が逆撫でた。


「…」


ぎりりとロングルドルフが無言で睨み返せば、カイロニアのリーダー各は目を細め、暫くじっとロングルドルフを見つめていたが、ふいと視線をそらし周囲を見渡し始める。


そのまま無言でぐるりと視線だけで周囲を見渡せば

「よくある話だろう」

と呟いてロングルドルフと目を合わす事なく、くるりと背を向け、入って来た時と同じように群れを成して洞穴の中の外へと出て行った。




*****




暫く後、静かになった洞穴の中。


消えたカイロニアの背を思い出せば、最期に聞こえた言葉の中に、ロングルドルフは悲しみ響きが携わっていたような気がしていた。

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