第7話 カイロニアと一つ目

回顧から戻り、一つ目を静かに見つめる。

一体どういう意味だろうか?


機が熟す?

行く?戻る?

選択とは?


「俺の機が熟すとは何だ?それにナッタの事で何かを決める事など…。今更すぎて何も無いと思うのだが?」


失われた国の王子に今更何を決めろというのだろうか?


そもそもナッタの王子であった事も、自身の名前の事を伝えた訳でもない。

一つ目のそれは一体何を見ているのだろうか?


「少しお喋りが過ぎたか。いずれ分かる事だ。心配は無い」


真意を訪ねるべく一つ目に問うが答えは返らない。

洞穴の中が静寂に包まれる。



とその時、

「ほぉ~?これは珍しい色の服を着ておられる」

静かに見つめあう二人の間を妙になれなれしい声が割り入る。


「その色は確か、ラウルス銀河団のシンボルカラー。推測するにあなたは惑星調査員ってトコでしょうか」


ロングルドルフのジャケットの色の事だろう。

全身を深い緑のゴツゴツとした厚そうな肌で覆われた姿に、ぎょろりとした二つの目の嫌に馴れ馴れしい視線が絡む。


カイロニア達であろう彼らは、ロングルドルフと比べれば2倍ほど背丈がある。

その割に手足は短く、全体的にずんぐりとした岩山のような体形である。


馴れ馴れしく声をかけて来た個体がロングルドルフ達に近づけば、その他のカイロニア達もぞろぞろと洞穴の中へとやって来た。


「!!」

カイロニアの手元を見たロングルドルフは、はっと息を呑む。


先頭に居るのはリーダー格の人物だろうか?その手には、小さな一つ目が囚われぐったりとしている様子が見える。


後方を見れば、他のカイロニア達も何人かは同じように一つ目を手にしているようだ。


どうやら一つ目達を捕まえに来たようだ。


「その手っ!なぜそんな事をするっ?」

「んん?あー。らの事か…」


静かに問うロングルドルフをにやりと見つめた後、手の中の一つ目にチラリと目を向けカイロニアのリーダー各の人物が答える。


「あ~、いや。フフフ、すまない。は俺が見つけた鉱石資源でな。ちょっとココまで取りに来ただけだよ」

何か問題でもありますか?という雰囲気で、ニヤニヤとしながら答える。


その答えに憤るロングルドルフが強く言い返す。


「お前らが手にしているのは鉱物じゃない!生き物だ!」


「フフフ…おっしゃる意味が分からない。我々は発掘に来ただけ。それに、仮にコレが生命体だったとしてあなた方は異業種間交流に口出しは出来ない」

ゆっくりと近づきながら話を続ける。


「確か『無干渉条約』?でしたっけ。なんかそう言う決まりでしたよね?」

最後にそう言い、ずいっとロングルドルフに近寄る。


そして自分の半身ほどのロングルドルフを上から覆うようにして空いている手で彼の肩を掴む。


「それともこいつらが『助けて~』って言って来たのですか?」

ぎょろりとした目をロングルドルフに合わせて得意げに言い渡す。


「なるほど…『』ねぇ…」


ロングルドルフの頭の中で何かがプツリと切れた音がする。


はぁと静かに息を吐き出し、肩を掴んだカイロニアをそのままに、慣れた手つきで左腕の端末を操作する。


「ダメです!非武装の相手に武器の使用許可は出せません!」

オペレーターが強く諭す。


「分かってる」


静かにそうはっきりと答えれば、ぱっと腕を振り上げ、捕まれた肩からカイロニアの手をはがす。



分かっている。

分かっている。

そんな事は十分に分かっている。



だが…。


「だが、目の前で起きている事を納得できるほど、俺は大人じゃねぇんだ」


端末から棒武器である「棍」を手元に転送したロングルドルフは、それを構え、カイロニアの下あごに棍の先端をスッと押しつける。


「黙って手を離しやがれ」


唸るように声を出し、ぎょろりとしたカイロニアの目をロングルドルフはぎりりと睨み上げた。

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