お料理
さぁ、無事交流会(?)も終わったことだし、アリスを守ることに専念しよう。
大丈夫、学園の警備は強化されているしここにはかつて英雄と呼ばれた悪役もヒロイン最強のリュナも、主人公もいる。
そう簡単にアリスが襲われることも―――
「ち、血がっ! 血が出ちゃいました!」
「大丈夫か、アリスッッッ!!!」
急いでユージンがアリスに駆け寄る。
慢心だった。まさか油断した早々にアリスの血を見ることになってしまうなんて。
「クソっ、なんで傍にいてやりながらどうして、俺は……!」
「大丈夫です、ユージンさん……私のことは放っておいて、目の前の―――」
「ばっか! お前を見捨ててどこか行けるわけがないだろう!?」
そうだ、アリスを守ると決めたのだ。
こんなどうしようもない自分にすら優しく話かけてくれた女の子を。
見捨てられるわけがないんだ。
だって、だって―――
「なぁ、お前さんらや……たかが包丁で指を切ったぐらいで大袈裟じゃないかのぉ?」
―――時は翌日の昼下がり。
学園に設けられた家庭科室にて、アリスが指を切ってしまったところから話は始まる。
ちなみに、ポケットに入っているリュナは小さい体でジト目を向けていた。
「おいおい、アリスの可愛い指が切れたんだぞ!? ぷっくり超可愛らしい血も出たんだぞ!?」
「とても浅くて少ない量がな」
「傷口にもし
「アリスなら自分で治せるじゃろ」
「あ、治りました」
「……ありがとう、君が優秀なおかげで今日という俺を呪わずに済んだよ」
ただ大袈裟なだけであるが、二人は何もツッコまなかった。
「それにしても、まさかここでお料理のお勉強をするとは思いませんでした」
アリスが少しだけ血が付着した包丁を洗いながら口にする。
それに答えたのはポケットにいるリュナであった。
「貴族が多いとはいえ、家督を継げずに働きに出る生徒もいるからのぉ。この学園に在籍している生徒で働きに出る場合、大半が冒険者じゃ。そういう知識もいずれは必要になってくる」
「ほぇ~……そんなことまで考えてるなんて凄いですね、リュナちゃんは」
「そうじゃろそうじゃろ……おい、今なんて言った?」
「偉いですねー、リュナちゃんは」
「えへへ、ありがと……って、子供扱いすんなうがー!!!」
頭を撫でられたリュナは憤慨した様子を見せる。
だが、ユージンとアリスは見逃していなかった。リュナが一瞬喜んだ瞬間を。
「私、このままお料理をテーブルに運んでしまいますね」
「あいよ、途中のものは俺に任せろ。主婦さんもおっかなびっくりな三ツ星をお見せしよう」
「ふふっ、なんですかそれ。でも、ユージンさんのお料理も期待しておきますね」
そう言って、アリスは可愛らしい笑顔を浮かべながら家庭科室にあるテーブルへと料理を運んでいった。
テーブルには調理が終わった生徒が各々食事の準備を始めている。中には食事に入っているグループすらいた。
こういうところって意外と日本っぽいよな、と。ユージンは可愛らしいアリスの背中を見送りながらふと思う。
「うぅ……最近、あの子が私を学園長として見てくれない」
「知ってるか? 仲のいい友達は気兼ねなく名前で呼ぶそうだ」
「仲良くなってもいい立場なのか分かんないよ」
「確かに」
相手は学生で自分は学園長。
ユージンはともかく、確かに仲良くなってもいいかどうかは怪しい部分があった。
「最近リュナと二人っきりってなかったな。お久しぶりっす」
「うん、お久しぶりっす」
ユージンは周囲に聞こえない程度でリュナと話す。
「そういえばさ、結局あれからなんか分かったの? アリス関連で」
「正直、ごめんとしか。聖女をほしがる国なんていっぱいいるし、完全に足を洗った状態だからバックに誰がいるかがどうにも分からないんだよね」
「そっか……すまんな、色々やらせちゃったみたいで」
「ううん、こういうのはちゃんと学園長の私の仕事だから。あと―――」
リュナが恥ずかしそうに顔半分をポケットに埋めながら口にする。
その姿は愛らしいというかなんというか。
しかし、それ以上に次に出てきた言葉の方が愛らしいものであった。
「……私だって、アリスは守ってあげたいもん」
「なんだかんだ言って、アリスを好きになってくれて俺も嬉しいよ」
嫌がっている素振りを見せていたが、悪く思ってはいなかったらしい。
それどころか着実に距離が縮まっているようで、理解者としてのユージンも嬉しく感じてしまった。
「ねぇねぇ、聞いた?」
「うん? 生憎と俺は号外なんて読まない現代っ子だぞ」
「少しは勉強しなさい、お子ちゃまくん。大人になったら後悔するよ……って、そうじゃなくて」
何が言いたいんだろう?
ユージンは首を傾げる。
「お隣のグラム帝国。またうちの国境で戦争を起こしたんだって」
「地理なんか分かるか、転生した身に」
「まぁ、そうだよね。でも、そのせいで村が一つ地図から消えちゃったんだけど」
「……面白い話じゃねぇな」
「うん、まったく面白くない。五年前にも村を戦場にしたばかりなのに、またとかふざけてるよ。うちの国も怒って本格的に戦争を始めるかも」
ユージンはその話を聞いて考え込む。
そして、誰に言うわけでもなくボソッと呟いた。
「……どうにかして助けてやれねぇかな」
その言葉を聞いて、リュナは思わず頬を染める。
「……そういうところ、本当に大好き」
小さい体になったからか、それとも考え込んでいたからか。
リュナの呟きは、ユージンには届かなかった。
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