交流会

「はい、それでは第一回『ドキドキ♡あんなことやこんなことあるよ』交流会を開催したいと思いまーす!」


 ユージンの自室にて。

 程よく外が暗くなった時間帯にユージンの声が響き渡る。

 部屋にはリュナ、セイラ、アリスにハルト、そしてレミィの姿があった。


「何をドキドキするんじゃ」

「タイトルのネーミングセンスよね」

「あんなことやこんなことってなんでしょう?」

「君達、細かいことを気にするんじゃない」


 開始早々にバッシングが入るユージン。

 皆の手にはそれぞれ飲み物が入ったグラスが握られており、ちょっとしたつまみ用に用意されたお菓子がテーブルには並んでいた。


「あ、このお菓子好きだなぁー」

「レミィ先輩、これも美味しいですよ」

「おいコラ、リュナが持ってきてくれたお菓子を我先に食べるんじゃない俺も食べたいの」


 なんとも統一感のない空間である。


「それで、これはどういった集まりなのでしょうか? 初めましての先輩もいらっしゃいますし……」


 確かに、アリスが疑問に思うのも無理はない。

 何せ最近友達になってくれた面子に知らないレミィという女の子がいるのだから。

 とは言いつつ、実際のところはアリスを守るための面々による顔合わせだ。

 それは事前にアリス以外には伝えており、あの手合わせの時に進んでしまったレミィの加入も他には伝えている。


「気にするな、アリスの可愛さにあてられて是非仲良くしたいと志願してくれた先輩だから」

「にゃははー、レミィです、よろ〜!」

「よ、よろー?」


 独特の距離の詰め方にアリスは首を傾げながらもちゃんと返す。

 それが可愛かったのか、レミィは大変満足そうに頷いた。


「いいか、友達は百人集めればいいことがあるそうだ。俺は羨ましいぞ、餌を放置しておくだけでありんこが寄ってくるなんて俺にはできない芸当だからな」

「でも、なんかハルトさんもいます」

「この子って結構ハルトのこと嫌いよね」

「僕はもう慣れたけどね……」


 はぁ、とため息を吐くハルト。

 慰める気が一切湧かないのがこれまた珍しい。


「なぁ、ユージンよ。交流会といっても何をするんじゃ? 妾だけ場違い感が半端ないんじゃが」

「そうだな、主に空間内における年齢がぶべらっ!?」

「で、何をするんじゃ?」

「そ、そうですね……特に何も考えていなかったっす」


 突如、ユージンの鼻から血が出てきた。

 その原因がリュナの魔法であるのは明白なのだが、誰もこの場でツッコミを入れる人間はいなかった。

 女の子にお歳を言及するのはご法度である。


「まぁ、今回は初めましてもあんまり話したこともない人もいるからな。合コンだと思って楽しい会話をしようじゃないか」

「ウチ、男の子にあんまり興味なーい!」

「私は婚約者がいるし」

「わ、妾も好きな人がいるからのぉ……」

「おっと、どうやら合コンする人材を間違えたようだ」

「っていうか、合コンするために呼んだわけじゃないよね?」

「ハルト、お前はこの女の子の集まりを見て何も思わないのか!?」

「いや、別に何も……」


 ケッ、過ごしているだけでヒロインの好感度を上げられるやつはこれだから、と。

 ユージンはハルトに向かって思い切り唾を吐いた。


「それにしても、アリスちゃんって本当に可愛いねぇー」


 スッと、一方でレミィがアリスの横に近づく。


「そんなことないですよ!? レミィ先輩の方が綺麗で可愛らしいです!」

「およ? 嬉しいこと言ってくれるね、君は! あーあ、一家に一匹マスコットとしてほしいぐらいだなぁ」

「マスコットとしてなら……」

「おいコラ、童。何故妾の方を見る? どう見ても妾はマスコット枠のキャラじゃないだろうが!」

「そ、それは私の膝に乗せて確かめてみないと……」

「ユージン、助けて! さり気なく妾であの子が遊ぼうとする!」

「……コメディ多すぎて話が進まねぇなぁ」

「あなたがこんな面子を一つの部屋に集めたからでしょ」


 抱き抱えられ始めたリュナを見て、ユージンは苦笑いを浮かべる。

 確かに、先程から話が一向に進んでいない。

 おっと、レミィも参戦してリュナの頬をぷにぷにし始めたぞ。

 どうやらリュナの敵はアリスだけでなかったらしい。


「だがまぁ、仲良くなれそうな雰囲気でいいじゃないか。うんうん、女の子のキャッキャウフフは目の保養になる」

「目の療養中申し訳ないけど、どうしてレミィ先輩までここにいるの?」

「あ? 説明しなかったっけ?」

「受けたけど、改めて聞いておこうと思って」


 リュナ達の様子を見ながら、セイラが小声で尋ねる。


「俺もあんまり乗り気じゃなかったんだが、ハルトが勝手に誘ったんだよ。とはいえ、レミィ先輩の腕っ節は間違いなく保証できる」

「ふぅーん……まぁ、あなたがいいなら私はいいけど」


 懸念はあるが、もう進んでしまった以上今更「やっぱなしで」と言えるわけもなし。

 実力は相対してよく知っているし、これ以上何かを言っても好転することがないのなら乗った方がマシだ。

 それに───


っていうのは間違いなさそうだしな)


 それは何を持ってそう思ったのか?

 セイラはユージンの心境には気づかず、そのまま飲み物を煽った。


(まぁ、レミィ先輩の話は噂程度だけど聞いているし……問題ないのかしら?)


 ただ「仲良くできそう」という一点は、今のレミィの様子を見て感じたのであった。

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