手合わせのあと

 手合わせが終わり、日も暮れ始めたということで、この場はとりあえず撤退。

 一部ユージンが走った場所に被害が起こっているが、気にせずそそくさとお開きにすることとなった。


「あうー……体が痺れて体が動かせないにゃー」

「先輩、最後のにゃーをもう一回。やだそれ超可愛い」

「にゃー」

「ユージンくんは新たな世界への扉を開いてしまったようだ……ッ!」


 背中には女の子特有の柔らかい感触。加えて、新しい世界を教えてくれた力ない小さな声。

 現在、ユージンの魔法によって一時動けなくなってしまったレミィは大人しくおぶられていた。

 直前に何もしておらず、特に力を持て余していたハルトが「僕がおぶろうか?」と言っていたのだが、ユージンの「やめろお姉さんの胸を味わうのは勝者の特権だぞ!?」と頑なに拒んだことによってこのような構図が生まれている。

 もちろん、べっとりとしていた血はハルトの持っていたハンカチで拭き済みだ。


「それにしても、レミィ先輩が固有魔法オリジナルを持っていたなんて……」

「あれ? ウチ、言ってなかったっけ?」


 そう言って、惚け顔をするレミィ。

 しかし、実際は言っていないことは覚えている。何せ、意図的に隠していたのだから。


「っていうか、やっぱり固有魔法オリジナルを持ってる人って強いんだね……」

「あ? 今更気づいたか。だから次はパパラッチ直後の記者みたいにつっかかってくるなよ? そもそも相手になんねぇんだから」

「…………」


 もちろん、現段階の話だ。

 かつてルーグとして過ごしてきたユージンが第一部の主人公には勝てなかったように。

 きっと二部の主人公にもそのうち勝てなくなってしまうだろう。

 だからあくまで現段階の———学園に入ってまだ日も浅い状態でのハルトには負けないのだ。


「先輩、聞こうか聞くまいか悩んでたんですけど」

「ありゃー、さっきからウチにばっかり質問が。これが男女比が狂った合コンでの

 扱いかな?」

「そんないきなり趣味なんか聞かないっすよ、興味もないし。聞きたかったのは先輩の固有魔法オリジナルっす」

「あー、スリーサイズじゃなくてそっちかー」


 これは単純なユージンの好奇心からくるものだ。

 別に言いたくなければ言わなくても大丈夫なのだが、教えてくれた方がすっきりとくる。

 それ以上でもそれ以下でもない。何せから。


「ウチの魔法は『自然』だよ」

「自然?」

「うん、意図した場所に自然を与えるのがウチの固有魔法オリジナル。あの時使ったのは君の体に木を生やして、地面に固定した感じだね」


 木はもちろん幹や草だけではない。

 どの木であっても大木を支えるための根が存在しており、生まれる自然は全て地面から離れないようにされる。

 レミィの固有魔法オリジナルはそれを応用したような形だ。

 ユージンの体を経由して植物を生やし、その疑似的な根を地面に伸ばした。

 疑似的とはいえ、ユージンから生えている根は体の一部と言っても差し支えはない。

 動けばあのような血まみれになることは理屈通りだ。


「面白い固有魔法オリジナルっすね。環境問題即時解決しそう。ストップ、温暖化」

「そんなこと言ったら君の方が凄いと思うけどなぁ。もう無理、リベンジマッチは遠慮だね。次からは客席に回るよ」

「左様で」


 しかし、どこまで運べばいいんだろう、と。ふとユージンは思う。

 暗くなってきた学園の中には生徒の姿はほとんど見受けられない。恐らく寮に戻っているのだろう。

 ならばこのまま寮へと運ぶか? そう疑問に思っていた時、ふと横にいるハルトが先程から考え込んでいるのに気がつく。


「どうした、おトイレか?」

「いや、今思ったんだけど……レミィ先輩にも手伝ってもらったらどうかなーって」

「はい?」

「だから、アリスさんを守るって話だよ」


 ハルトが考えの共有を始める。


「改めて見たけど、やっぱり固有魔法オリジナルっていうのは凄い。もし、相手が固有魔法オリジナルを持っている魔法士だったら僕やセイラじゃ相手にならないかもしれない」

「いや、まぁそうなんだが……」

「その点、レミィ先輩なら安心だ。女性だし、ユージンと同じ固有魔法オリジナルも使えるからね」


 言わんとしていることは分かる。

 確かに、レミィが仲間に加わってくれたら確実に守れる可能性は高まるだろう。

 学年が違うために中々接する時間は少ないが、ユージンの手が出せない寮では手助けをしてくれるかもしれない。

 だが―――


「んー……でもなぁ」

「ねぇねぇ、さっきからなんの話してるの?」


 その時、ユージンに背負われていたレミィが割って入ってくる。


「僕達、今っていう女の子を守ろうとしてるんです。その子が誰か分からない相手に狙われているらしく……僕も詳しいことは知らないですけど、人が多い方が安全かなって」

「ふぅーん……」


 それを聞いて、レミィは何やら考え始めた。

 ユージンの心は「何を勝手に」という気持ちでいっぱいだ。

 何せ、人が増えるに越したことはないが、その分他の要因を中に入れてしまうことになる。

 セイラは自分が接して優しい子だと知っている。ハルトは主人公で元から助ける設定だからこれもよしとしよう。

 しかし、レミィは? もしかしたら……という可能性もある。


 数時間しか接していないが、悪い人ではないという薄々の感情はある。でも、それだけだ。

 未だに信じられる根拠にはならない。

 だが―――


「うん、いいよ♪」

「本当ですか!?」

「うん、ウチは意外と性格の女の子だぜ☆」


 ―――話はユージンの懸念を無視して進んでいく。


 結局、その時ユージンはレミィの参加を断ることができなかった。

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