聞き込み
アリスに新しい友達ができたということで、本格的に聖女の生まれ変わりである少女の守りが始まった。
日中はユージンが、放課後やユージンの目の届かないところはセイラが、ハルトとリュナはそのカバーかつ、怪しい動きが周囲でないかを確認するという方向で話が纏まる。
こうして、意図していないにもかかわらずヒロインと主人公が集まったのであった。
といってもあまり覚えておらず、そもそも「俺、関係ねぇし」を貫いているユージンがストーリーと少し被っている現状を知る由もなし。
現在、アリスはリュナの計らいで一緒の寮になることになったセイラの引っ越し手伝いを。リュナは変わらず襲撃者の件で増えてしまった仕事で忙しく、現在は―――
「……どうして俺が野郎と放課後デートなんかしなくちゃなんねぇんだよ。クリスマスに友人しか誘えなかった寂しいやつか、俺は」
「仕方ないじゃないか、これから彼女を守っていくのなら色々情報を集めないといけないんだから」
校舎の中を仲睦まじい(※本人は認めていない)状態で闊歩していた。
皆帰っていると思っていたのだが、存外まだ生徒は残っているらしい。一年生が過ごす階には何人かチラチラと姿が見受けられる。
「事情は聞かないけど、アリスさんは狙われているんだよね? だったら、いきなり外から狙うんじゃなくて中から狙ってくる可能性は高い。この前はいきなりで警備が薄かったかもしれないけど、今は先の一件で学園側も警備を固めているだろうからね」
「お前、意外と頭が回るんだな」
その頭を「クズユージン!」という発言に回してほしいものだ。
そうすれば、少なくとも皆の前で主人公像を崩すことなくユージンの評価を改められたのに。
「まぁ、ハルトの考えはごもっともだな。堂々と籠を壊すんじゃなくて小鳥の餌に紛れた方が奪える可能性は高いわけだし」
ユージンが撃退した襲撃者が現れてから、リュナは学園の警備を固めた。
そんな中、堂々と外から襲ってくるなんて無謀だ。聞けば腕に覚えがある騎士や魔法士を雇っているらしい。
ならば、もし敵がアリスの前に現れるとすれば中から……つまり、生徒や教師に扮した人間がやって来る可能性が高かった。
「だから、聞き込み調査をすればいいと思うんだ。そのために僕達は学園を回っているわけだし」
「野郎とのデートの背景には、かっこいい正義かぁ……腐ってる女の子にだったら需要ありそうなんだが」
聞き込みをするという理由には納得するユージン。
ただ、どうにも男との放課後デートには納得したくないものがあった。
その時、ちょうどいいタイミングで同じ学年の生徒が前を通り過ぎる。
「ねぇ、あの子達に聞いてみない?」
「おーけー、分かった。俺に任せろ」
「ちょ、ちょっとユージン!?」
ハルトが何かを言う前に、ユージンは女の子達に向かって走っていってしまった。
大丈夫かな、と。ハルトは曲がり角へ消えたユージンの背中を見て不安になる。
そして、数秒後……ユージンが姿を現した。涙を流した状態で。
「か、顔を見た瞬間に逃げられちゃったよォ……!」
「やっぱり……」
流石は悪役だ。
寄られただけで女子生徒が逃げてしまった。
「こういうのは僕がやった方がいい気がするよ。だって、ユージンって普通に「クズ」って呼ばれてるしね」
「呼ばれてたな、お前にも」
何故だから棚に上げているような発言に、ユージンの涙は思わず止まった。
「っていうか、そもそも聞き込みだけだったらお前がやれよ。適材適所、餅は餅屋、ユージンはハーレムって言うだろ?」
「最後、変な言葉が入らなかった?」
そもそも、悪役と主人公が仲良く並んで歩く姿が異様なのだ。
協力関係にあるとはいえ、一緒に聞き込みをしていたら聞かれた生徒はハルトに背後霊が憑いていると思ってしまうだろう。
それぐらいおかしな話で、珍しいものなのだ。
「あ、ユージンく~ん!」
背後から声がかかる。
振り返ると、そこにはこの前「初めまして」をしたレミィの姿があった。
「あら、前に会った小悪魔先輩」
「小悪魔?」
「ハルト、お前あの人のこと知ってるか?」
「うん、一応ね。何度か話しかけられたことがあるよ」
ふぅーん、と。ユージンは手を振ってやって来るレミィの姿を見て頷いた。
「あ、ハルトくんもにゃはろー!」
「やだ、この先輩可愛い」
「にゃはろーです」
「ケッ、土へ帰れ」
「僕に対する扱いだけ酷くない!?」
野郎の可愛さなど気持ち悪いの一言なのだ。
「それで、どうかしたんですかレミィ先輩? なんかこのシチュに見覚えがあるような気がしなくもないようななんですけど」
「いやいや、たまたまユージンくんを見かけただけだぜっ☆ 流石に男の尻尾を追いかけるようなはしたない女じゃないよぉー」
「確かに、先輩美人ですし、追いかけ回されそうな方ですよね」
「あれ? ウチって今口説かれてる?」
口説きたいのは口説きたいが、傍に美少女三人がいるために中々できずにいる。
というより、転生する前からの知り合いが拳を向けてきそうでおいそれと口にできないワードだ。
故に、今の流れも口説いてはいない。恐らく。
「でね、ユージンくん。一個さ、先輩からのささやかなお願いがあるんだけど、聞いてくれない?」
脳裏にレミィのハイライトがついていない目が浮かんでいると、唐突にレミィがそんなことを言い始めた。
「まぁ、上目遣いと谷間の強調を忘れずにいてくれたら聞きますけど」
「あはははっ! やっぱり面白いね、君! ウチの胸でよかったら気が済むまで触っても構わないさ!」
「ユージン、鼻血」
「おっと」
決して脳内にピンク色の妄想が入ったわけとかではないが、原因不明の鼻血をハンカチで拭うユージン。
これがクズって言われる原因じゃないかな、と。傍から見ていたハルトはため息を吐いた。
「けど先輩、お願いって……」
「君なら気づいてるでしょ、私が
「えっ!?」
レミィの言葉に、ハルトは驚く。
だが、リュナはそんなハルトの反応を無視して―――
「だからちょっと手合わせしてくれないかな? 私、結構興味があるからさ」
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