???
小さな松明がひっそりと空間を照らしている。
その部屋は至って簡素。室内にはテーブルと椅子が二つずつ置かれているだけで、これといった装飾品はなかった。
小さな人影が二つ、パチパチと乾いた音が響く中で口を開いた。
「っていうかさ、なんでウチにその話を持ってくるかなー?」
「仕方ありません、あなたしか要員がいないのですから」
薄暗い光の中に映し出されるのは、甘栗色の髪を携える一人の少女。
美しいというか、可愛らしいというか。見れば見蕩れるほど整っているのだろうが、表現がどうにも難しいほど綺麗な顔をしている。
琥珀色の透き通った双眸に、学生服越しからでも分かる抜群のプロショーンは尚更に目を引く要因だ。
一方で、もう一つの人影は深くまで白いローブを羽織っており、外見が何一つとして分からない。
強いて言うのであれば、声音から女性だと分かることだろう。
「にしても、まさか聖女が生まれるなんて……それもよく偶然にも見つかっちゃうなんて。よかったね、いい人材を見つけるために学園の講師になって」
「しかし、それもそろそろお終いでしょう。育成係はこれにて閉幕です」
「まぁ、君が聖女の情報を流したってことが露見するのも時間の問題だろうしねぇ〜! 残念残念、かっこいい男の子をゲットするチャンスを逃しちゃったぜ♪」
「私は生涯独身でも構いませんよ。独り身さいこー、金があればもっとおーるおっけーです。将来は丘の上で一軒家を構えるのが密かな夢ですので」
「えー、ウチにはその感性は分かんないかなぁ。子供作った方がいいぜ、幸せと寂しさはいつの時代でも切っては切れない人類の罪さっ」
学生服を着た少女は笑みを浮かべながら足を組み直す。
「話は戻すけど、要はその聖女の女の子を連れて来いって話だよね?」
「その通りです」
「けど、そんなことしちゃったらこの国の潜入調査が終わっちゃうぞ? 何をしても足は残るだろうし、そのまま学園生活を送ったら間違いなく牢の中で刺繍作りをする羽目になっちゃうね」
「この際関係ないでしょう。この国の弱みを握るよりかは聖女を手に入れた方が圧倒的に国益です」
少女は女性の言葉に「うーん」と唸り始める。
天を仰ぎ、髪を揺らしながら思考している姿は本気で悩んでいるのだと窺えた。
「何をそこまで悩まれるのですか? よもや、仕事を忘れて学園生活を謳歌していたなどと───」
「いやいや、流石のウチも分別ぐらいはつけますって。楽しいのは事実だけど、家で飼ってるペット以上の思い入れなんてないよ」
「であれば……」
「考えてもみなよ、君が用意した刺客がそっこーでやられちゃったんでしょ? なのに、そんな相手に私を当てるってヤバくない?」
そうだ、あの場には刺客を圧倒できた人間がいる。
たまたまその人間がいる教室を襲ってしまったというのもあるだろう。
しかし、懸念すべきはそこじゃない。
「どうしてクズって呼ばれてるあの子があんなに強かったのかは知らないけどさ、今は聖女ちゃんとベッタリよ? チラチラ学園長さんも一緒にいるみたいだしさ、そんな中狙えって単なる無理ゲーじゃない? 流石のウチでも命は惜しいって思っちゃう子なんだぞぅー?」
「よく調べていますね」
「そりゃ、ウチの役目はそっちですから。最近のトレンドを逐一追っておかないと、今を生きる乙女は周りから乗り遅れちゃうんだから」
ぶーぶー、と。少女は頬を膨らませてブーイングを見せる。
「ですが、あなたなら大丈夫でしょう。何せ固有魔法を持っている若き天才なのですから」
「ばぁーか、数の利っていうのはどんな環境でもつきものだばぁーか!」
「……なら、上に言って
女性は大きなため息を吐く。
すると少女はブーイングからガッツポーズへと態度を変えた。
「それなら話は受けるよ。早めに動かないと報酬もらえないだろうし、他国に奪われてそのチャンスがなくなったらウチは枕で涙を流すだろうからね」
「結局、あなたには報酬しか目に入りませんか」
「あったりまえじゃん! ウチはいつでも現金な女の子だぜ♪」
少女は立ち上がり、女性に背中を向ける。
「っていうことはハルトくんの監視は中断ってことでおけだよね?」
「えぇ、問題ございません」
その言葉を聞いて少女は満足そうに頷くと、部屋の扉に手をかける。
しかし、何かを言い忘れたのか───最後に女性へ向かって振り返った。
「あ、そうそう……これに成功したらちゃんとあの子を治すお金はプラスでもらうからね。そこんところよろー!」
パタン、と。
扉の閉まる音が室内に響き渡る。
そこへ、女性の小さな呟きも同じように響き渡った。
「よろしくお願いしますよ……レミィさん」
レミィ・シュアル。
第二部におけるヒロインの一人が動き出す。
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