主人公と一緒にディベート(※一方的)
「どうやら、学園に現れた襲撃者を倒したそうじゃないか」
いきなり目の前に現れたハルトはそんなことを言い始める。
横にはこの前も一緒にいた黒髪の女の子もいた。
この子はヒロインなのかな? と、さしてハルトの言葉に興味がないユージンは別のことを思う。
「まぁ、そうだな。だからもっと褒めてくれていいぞ」
本来、あのイベントではハルトが主人公として初めて本編で行うイベントだ。
そこで襲われるアリスを己が傷つきながらも守り、苦戦の末に撃退、二人の距離が縮まるのと同時にアリスの聖女としての力に気がつく。
しかし、今回はハルトがリュナの一撃によって保健室にいたためにイベントは参加できず、代わりに悪役であるユージンが撃退してしまった。それも圧倒的な実力差で。
そのため、ユージンにはあの一件に関してアリスとリュナ以外からは感謝のお言葉を言われていない。
だからほしい。アリスを守りたかっただけでぶっちゃけ周囲なんかどうでもよかったけけども感謝はされたい頑張ったんだから!
しかし、現実はどこまでも悪役には厳しいようで───
「一体、どんなイカサマを使ったんだ!」
「Oh……」
お褒めからはほど遠いお言葉を頂戴してしまった。
「だって、そうだろう!? 相手は大の大人……噂によれば暗殺なんて平気で行っている手練だっていうじゃないか! それなのに、無能の君が勝てるわけもない!」
まぁ、褒められないのは分かっていた。
確かにユージンは前まで何もできない無能。中身が英雄とまで呼ばれた
「な、なんてことを言うんですか!」
横に座っていたアリスが文句を言いたいのか立ち上がろうとした。
しかし、ユージンはそれを手で制する。
「まぁ、落ち着け」
「ですが、この人はユージンさんを……ッ!」
「違うんだ、そうなんだけどそういうことじゃない。俺が言いたいのは───」
「ぶん殴ればいいんじゃな」
「そうそう、思いっきり……って、馬鹿ァー!」
「唾を吐けばいいんですね」
「うんうん、暴力はダメだからね、代わりに……って違ァーう! それはご褒美でしょ俺に向かってしなさいそういうの!」
いい角度に隠れていたリュナが物騒なことを言い始める。
またハルトが保健室送りになるところであった。
アリスに至ってはただの男のご褒美だ。
「まぁ、大丈夫だ。俺だって何も黙って聞いているわけじゃねぇから」
「そうなんですか?」
「あぁ、だから───」
ユージンは唐突に立ち上がり、ビシッと天井に指を突き立てた。
「これより、『ユージンくんはイカサマをしたのか?』というテーマの元、ディベートを始めようと思います!」
突然ユージンから発せられた言葉に、アリスだけでなくハルトや後ろにいる女の子ですら「ディベート?」と、思わず呆けてしまう。
しかし、そんな様子など無視してユージンは座り直し、顔の前で手を組んだ。
「えぇー、まずハルトくん。俺がイカサマをしたという話だったが」
「あ、あぁ……」
「具体的にはどの部分がイカサマだと思った原因なのかな?」
何をさせられているのだろう? そんな疑問が湧き上がったハルトは戸惑いながらも、真面目な顔をして向けられる問答に言葉で返す。
「だ、だって無能の君が襲撃者を倒せるなんて───」
「ですので、それに対して僕がイカサマをしたという証拠はあるのでしょうか?」
間髪入れずに、ユージンが言葉を被せる。
それはさながら裁判官に被告人として立たせられている瞬間のよう。
「いや、それはないけど……」
「それなのにあなたは俺がイカサマをしたと判断したのですか? 根拠も確証もなしに? 俺が実力を隠していたという可能性も考えずに? ということは、あなたの主観から短絡的に発せられたあなたの感想ですよね?」
ハルトの言葉が詰まる。
しかし、認めたくないのかハルトは思わず机を叩いた。
「だけど、そうじゃなかったら君はあいつらを倒せない!」
「ふむ、なるほど。ですが、あなたの発言は大勢に向かって「カラスは赤いんだ!」と言っているのと同じですよ? 他者を納得させるような根拠は? 理由は? ははっ、今のあなたは自分の薄っぺらい理由で自分の気持ちに正当性を持たせたいだけの子供のように見えますね」
「ぐっ……!」
「そもそも、仮に俺がイカサマをしたとして、何が問題なのでしょうか? イカサマをしたにしろ、襲撃者を倒したことは大勢から褒められることではないのですか?」
皆を守った。
それがたとえ非道で卑劣だったとしても、いきなり現れて襲おうとした人間を撃退したのであれば問題はないはず。
何せ戦争ではなく、たった一つの悪事を倒して大勢を守ったのだから。
褒められるのならまだしも、罵られる言われはない。
「あなたは騎士道に乗っかり、正々堂々倒せと仰るのですか? 悪党を相手に? それで仮にアリスや他の生徒を守れなかった場合、あなたは私や他の人間に対してどう責任を取るのですか?」
いいや、この際言いたいことは言ってやろう。
シナリオ無視、悪役うんざりのユージンは徹底的に討論で押し続ける。
「もしかして「自分が倒せず、クズが倒したから認めたくない」などとは言いたかったのですか? 大勢の命が危険に晒されていたというのに、いち個人の嫉妬を持ち出そうとしたのですか?」
「ち、ちがっ! 僕はただ───」
「であれば、たとえイカサマだったとしても俺を褒めるべきです。今度あなたが悪党を倒した時に同じ発言をしてあげましょうか? そもそも、イカサマをしたという証拠もないのに発言するなど子供なのでは? あぁ、子供かもしれませんね、根拠もない言いがかり以外は何も言い返せないんですし。さて、俺の発言に反対できる言葉はありますか? 言えるものならどうぞ、一の言葉に百で返しますから」
そして、ハルトは今度こそ何も言えず口を噤んでしまう。
罵ることも、手をあげることも何もせずに、ただただ拳を握しり締めて俯いてしまう。
それを見て、ユージンは隠しもせず堂々と拳を握った。
「勝った……! 全悪役転生者が思っているであろう言葉で主人公を論破してやったぞあーっはっはっはー! 全世界の悪役よ見ろ! これが開き直った者の生き様だッッッ!!!」
そう、世の中何も行動で示すばかりではない。
人は言葉を発するのだ。それを最大限利用しないでどうする。
外聞? 体裁? 立場? 過去? んなもん知るか。
理不尽に対しては言いたいことを。憤り、感情のまま言葉をぶつけるのではなく、徹底的に反論の余地を与えないまま詰めてしまえばいい。
感情的になれば相手も感情的になり納得させることができなくなる。
この理不尽な言葉を吐かれた自分の気持ちを相手にしっかりと伝えてぶっ殺すためには、相手へ真心を込めて伝えなければいけない。
主人公に本来やられるのが悪役だったとしても、自分はもう開き直ると決めたのだ。
言いたいことは言い切った。
なんだろう、この清々しい感じは。なんだろう、この達成感は。
世界って、こんなにも美しいッッッ!!!
「……私、ユージンさんと言い争いなんかしたくないです」
「……反論の余地すら与えず理詰めとは、ちょっとあやつが可哀想に見えたのぉ」
周囲のヒロイン達が若干引いているような気がしたが、ユージンは気にしなかった。
(だって、世界はこんなにも輝いて見えるんだから!)
その清々しい表情は、ちゃんと悪役に見えた。
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