変わったであろう日常
さて、本人は気がついていないが転生してから少しばかりの時間しか経っていないのにもう三人のヒロインと出会ってしまったユージン。
第二部のヒロインは全員で六人。今の時点で半数と関わってしまった。
とはいえ、メインヒロインである金髪の少女が近くにいる時点ですでにストーリーから脱線しているのだが、本人はもう気にすることをやめたために今日も今日とて平和な一日を謳歌していた。
『ハルトくん、今日もしよかったら一緒にお買い物に行かない!?』
『ハルト、今日こそは剣で決着つけようぜ!』
『ねぇねぇ、さっきの授業で教えてほしいことがあるんだけど……』
『あはは……皆、順番でね?』
そんな平和な一日の昼下がりにて。
教室では最近よく見かける人だかりが形成されていた。
もちろん、その中心にいるのは第二部の主人公であるハルトだ。
女子生徒だけでなく男子生徒まで好意的な態度でハルトの下へ集まっている。
傍からその様子を眺めているユージンとは大違いなことは言わずもがなだ。
「あーいうのが主人公補正っていうやつですかね? やだやだ、入学して間もないでしょ? ナンバーワンホストになれる逸材が入ってきちゃお歴々は涙目よ」
この学園では、平民貴族関係なく表向きには平等な立場として接するよう校則に記述されている。
とはいえ、今まで貴族として生まれて来た人間がおいそれと納得できるわけがない。入学して間もないなら余計にだ。
しかし、平民であるハルトの下には貴族の人間も集まってきている。
本人のコミュニケーション能力故か、それともがっつり整っているイケメンフェイス故か。
どちらにせよ、悪役に転生したユージンは悪態をつきたくなってしまう事柄だ。少しだけ突っかかっていたらしいユージンくんの気持ちが分かる。
「まぁ、他所は他所じゃて。所詮何を見たって隣の芝は青く見えるものじゃよ。近所に住んでいる主婦の旦那を見て「うちの主人よりもしっかりしてていいわぁ」と言うのと同じじゃな」
「たとえが生々しいんだよ。もうちょいマイルドな設定はなかったのか?」
「でしたら「あの子の玩具がほしい!」、でしょうか?」
「それは逆に可愛いな。脳裏に保育園の一幕が浮かび上がってくる」
横ではアリスが黙々と教材とノートと睨めっこしていた。
時折胸ポケットから出たリュナが「この方式は当て嵌まらんぞ」と指摘していることから、マンツーマンの勉強会なのだと窺える。
特待生で入ったと言えど真面目な女の子だ。
「……ちなみに、アリスはあっちに交ざらなくてもいいのか?」
「ふぇっ? ハルトさんのところですか?」
アリスがノートから顔を上げて首を傾げる。
「そうそう、美形さんが眼前で拝めるぞ?」
「私はユージンさんと一緒にいたいです」
「ダメじゃないか、そういう発言は思春期男子に一時の淡い期待を抱かせちゃうんだから」
ストレートな発言は思春期男子を惑わせる。
俗に言う「も、もしかして俺に気があるんじゃ……!?」状態だ。
「……いや、待てよ。俺ってばルーグの時とは違って今回はちゃんと婚約者がいるじゃないか」
ルーグという悪役に転生した時はすでに婚約は相手の方から破棄されていた。
それ以降、英雄と呼ばれても婚約者という婚約者は現れず、ユージンに転生してから……いいや、全ての人生においてもセイラが初めてのお相手。
よくよく考えれば、もう思春期男子の「も、もしかして俺に気があるんじゃ……!?」状態を気にする必要なんてない。
何せ「もう俺には婚約者がいるんだから!」状態なのだからいぃやっほぅいー!!!
「ハッ! そ、そうだよ……今回ユージンには婚約者がいるじゃん!」
「どうしたんですか、学園長様? いつもの口調が消えちゃいましたけど……」
「私にとっては一大事だからだよ……ッ!」
はて、何がどうしたというのだろうか? アリスはもう一度首を傾げる。
「いや、でも貴族は一人だけじゃなくて二人とか全然あるし、私は別に二番でもなんでもいいし可能性なんかあるわけだし落ち込む必要なんかないしチャンスちゃんとあるわけだしッッッ!!!」
「ユ、ユージンさん、学園長様の様子が変になってしまいました……」
「ぐふふ……ようやく俺にも春がきたぜ。これが『悪役、春のパン祭り』ってやつですかそうですよね!?」
「ダメです、こちらもこちらで大変なことになってます」
突然様子の変わった二人を見てため息を吐くアリス。
とりあえず勉強をする環境でなくなってしまったからか、大人しくノートと教材を閉じた。
「あ、そういえばユージンさん」
「どったのアリスさん? 悪いけど、ユージンさんの絶景スポットは婚約者で埋まっているんだ」
「いえ、スポットとか別に狙っているわけではないんですけど……魔法について色々教えていただきたいことが―――」
そう思っている時だった。
「おい、クズユージン!」
ふと横から声がかかる。
反射的にユージンとアリスが横を向くと、そこには先程まで人間関係絶頂期を迎えていた
「……なんか気分下がった」
「あぅ……魔法を教われない状況になってしまいました」
とりあえず関わりのない人間が……もとい、知ってはいるが確実に面倒なことが起こりそうな人間が現れたことによって、二人はそれぞれ悲しく肩を落としのであった。
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