一度目の悪役を知る者
次回は18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ
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ルーグという悪役は変わった。
ある日突然メイドにも叱らなくなった、暴れ回ることもなくなった、女を我が物にしようともしなくなった。
それどころか積極的に困っている人に手を差し伸べ、己の魔法や剣を磨くために馬鹿にされながらも研鑽を積んだ。
始めは「好感度稼ぎ」、「今更何をしても」、「無能が無駄な努力してる」と口々に言われ続けていたものの、ひたむきな姿勢と見返りを求めない態度から徐々に周囲の評判は変わっていく。
やがてはルーグの下には多くの人が集まるようになり。
主人公とは別サイドで新しい英雄譚が始まっていた。
しかし、それもルーグ達が成長していくにつれて終わりを迎え始める。
「流石にこの数の接待じゃ、俺達使用人枠も嘆きたくなるわなぁ。パーティーの参加人数を考えずに招待状送った感じになってるよ」
ゾロゾロと甲冑を纏った騎士が隊列を組み見晴らしのいい荒野を歩いている中、遠巻きに眺めるのはかつて『クズルーグ』と呼ばれていた少年。
戦争でもしに行くのだろうその集団は着々とルーグの方へと向かっていた。
「……ねぇ」
その横で、小柄な一人の少女がルーグの袖を引っ張った。
「やめない? 確かにタレコミ通り、隣国がいきなり戦争仕掛けちゃったけどさ……私達二人でも流石に不利だよ」
「だからリュナは戦わなくてもいいって。知ってるか? 前に出て泥遊びをするのはいつだって男なんだ。綺麗好きな女の子は家で男が帰ってくるのを待ってればいいんだよ」
そう言って、ルーグは少女の頭を乱雑に撫でる。
自分の方が歳上なのに。吸血鬼という種族と己の魔法特性によって不老不死の一端に足を踏み込んだ
それでも、すぐにその頬も戻ってしまう―――現実が、それを許してくれないから。
「……嫌だよ。私は最後までルーグと一緒にいる」
「物好きだなぁ、リュナも。クズルーグで有名な男の横になんかいたら「引っ掛けられた!」なんて心配されちゃうぞ? いいか、将来の伴侶探しに積極的なら今の内から回れ右スキルを身に着けておかなきゃ一生独身コースだ」
「ルーグならいいもん。周りがなんて言っても……ううん、英雄と呼ばれるルーグになら引っ掛けられてもいい」
「ははっ! こんな時にも冗談なんてリュナも随分余裕だな! 流石は『血姫』って呼ばれる魔法士なだけはある」
冗談じゃないのに、と。
目の前の少年をきつく睨み上げるが、ルーグはどこ吹く風だ。
「まぁ、女の子をこんな不利な戦いに参加させたくはないとは思ってるけどさ。実のところ結構嬉しいんだわ、俺」
ルーグは床に腰を下ろし、刻一刻と時が迫る中口にする。
「どうしようもないやつだったからさ、俺は。いや、俺のせいじゃいんだけど。そのせいで色んなことを言われて人は寄り付かなくて、そのために色々我慢しながら必死になって努力して。もう二度とあんなことはしたくないけど、その上で今は色んな人が話しかけてくれて傍にいてくれるようになった」
「ルーグ……」
「ニカもサクラもライガも、結局は世帯持って元の生活に戻った。愚痴ってるわけじゃないぜ? そういういい奴は平和な世界で生きるべきだって思ってるし、望むなら俺だってそっちに行きたいさ」
「だったら、今すぐ私と―――」
「だからだよ」
願わくば、やっと汚名を返せたのだ。
転生前の自分のように誰かと一緒に平和な世界で生き続けたい。
しかし、それでも自分は。
「こんな俺と一緒に過ごしてきた奴らのいる生活ぐらい守ってやりたい。嬉しかったからさ、本当に」
昔のルーグからは想像できないような言葉。
嬉しそうに、それでいて感謝を伝えるかのように、言葉には重みと真剣さと優しさが滲んでいた。
クズと呼ばれるルーグを知っていて、今のルーグを知っている少女は胸が熱くなった。
それでいて、少し悲しくなった……あぁ、テコでも動かないんだろう、と。
「最後までついて来てくれるリュナには感謝しかないよ。さっきも言ったが、本当に嬉しいんだ。この気持ちを手紙でしたためたらきっとエピローグ手前にある今生の別れみたいになるぜ? それぐらい言いたいことも伝えたい気持ちも大きい」
「…………」
「だが、やっぱりリュナにはここから離れてほしいとも思っちまうんだよなぁ。矛盾してると思うが、お前が傷つくのは好きじゃないんだ」
これがクズと周りから嫌われてきた少年の英雄たる由縁。
優しいようで少し残酷———親しい者だからこそ、横に立たせたくはない。
守りたいからこそ、今この瞬間に少女を突き放そうとする。
(こういう人だから……)
こういう人だからこそ、横にいたいのだ。
少女は桃色の髪を整え、ゴシックの服装のままルーグの横に立った。
「私は長寿種。ここで寄り道しても、いつかはまた平和な世界へ戻れるよ」
「…………」
「だから、ね」
少女はルーグに向かって満面の笑みを見せる。
「君の人生の最後まで傍にいさせてよ。そうしたら、ルーグも寂しくないでしょ?」
その笑みは伝染するようだ。
一瞬だけ呆けたような顔を見せた少年は小さく口元を緩めた。
そして、立ち上がり全身から青白い光を纏い始める。
少女もまた、虚空に赤黒い槍を何本も生み出し宙へと浮かした。
「そういうことならいっちょやってやりますか! ギャラリーはいないが、面白おかしなサーカスでも演出してやろう!」
「うんっ! 帰ったら皆交えて打ち上げだね!」
まだ、この時までは何も知らなかった。
何百をも超える騎士を相手にたった二人の魔法士が勝ってみせるなど。
英雄の結末が、自分を庇ってしまったことで幕を下ろしてしまったことを。
言葉に嘘はなかったと思う。
少女は唯一、最後まで悪役の少年と共にあり、死をも見届けた。
だから。
だからこそ―――
「ルーグ、ありがと。私を守ってくれて。でも、さ……」
少女は願ってしまう。
「もう一度君に会いたいなぁ……私の
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