リュナ・アイラガント
明日からは9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ
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リュナ・アイラガント。
数百年を生きる歴史に今もなお名を残している魔法士。
かつて英雄ルーグと行動を共にし、多くの人間を助けたとしてその名を世界に広めた少女で、種族は吸血鬼。
自身の魔法と種族特性によって不老不死という叡智に片足を突っ込み、現在まで容姿が変わることなく『グラン・エンジェル』の第二の舞台である学園の学園長に座っている重要人物だ。
リュナの人気は他のヒロインと違ってファン根強いという。
それもそうだ。何せ、一部から二部まで容姿も変わらず、唯一全てのストーリーに関わってユーザーの好感度を上げてきたのだから。
そんな少女が、今───
「あ、れ……? すまん、ちょっと涙が……」
「待て待て待て、いきなり泣かせたら俺が脅したみたいに絵面にならない!? あんちゃん見た目ロリってんすよ事案ですよ可愛いけども!」
瞳から溢れ出てきた涙を拭っていた。
それが開始一分弱の話。いきなり剣を振るわれたり泣かれたりと、前置きなしのシチュエーションにユージンは戸惑うばかりだ。
「は、はは……やっぱりじゃ。どういう理屈かは知らんが、妾を子供扱いするのはルーグしかおらん」
「いや、結構俺達のご友人は子供扱いを───」
だが、それもすぐに終わる。
具体的にはリュナが立ち上がって一瞬でユージンに覆い被さり、いきなり頬を殴り続けたのだから。
「お前さんは! 本当に! 百年経っても! まだ! 私を子供扱いするかッッッ!!!」
「ぶべっ、ぶぶ……見た目が、ポルノに……引っかかっ、その前に……やめて、殴らない……でッ!」
「そもそも、妾を庇って勝手に死におって……どれだけ妾が泣いたと思っておるんじゃ! あ゛ァ!?」
「あれェ!? だったら余計に殴る構図おかしくない!? 普通は胸に抱き着いて「い、生きていてくれたよぉ」って涙を流しながら発生する感動シチュのはずぶべらっ!」
涙は流しているが感動演出からは程遠い殴打を食らうユージン。
そろそろ頬が赤いどころか青白いまで進化しそうであった。
「はぁ……もうよい。百年ぶりの再会に水を差すのも無粋じゃろうしのぉ」
「水の代わりに拳が飛んできたことに誰かツッコミを入れてほしいんだが……」
まぁいいや、と。
殴打し終わったリュナがマウントから退くと、ユージンは体を起こす。
「改めて久しぶりだな、リュナ。何年ぶり……って、恐らく百年ぶりで合ってるか? 生憎と神様の余興ステージに立たされたばかりでいまいち状況を掴めてないんだよ」
「まったく、お前さんというやつは……緊張感がないというか、なんというか。でもそれがお前さんだと分かる何よりの証拠じゃの」
リュナは優しい笑みを向ける。
柔らかく、温かく、それでいてどこか熱っぽいものを混ぜて。
「ここはお前さんが死んでからちょうど百年後の世界じゃ。勇者のおかげで魔族もいなくなり、昔に比べれば平和な日々が続いておるよ」
「ふむふむ」
「お前さんはユージン。妾も直接関わりはなかったが、ダイアレ伯爵家の嫡男で、魔法がまったく使えない無能の問題児だというのはよく耳にしておるわい」
「ほうほう」
「……で、どうしてお前さんはそのユージンになっておる?」
「……それ、俺が一番聞きたい話なんだけどなんて答えた方がいいと思う?」
どうしてもう一度転生したのか?
その疑問に対するユージンの答えはこうだ。
そんなの分かったら苦労しねぇ誰が好き好んで嫌われ者キャラに二回も転生しなきゃいけねぇんだよ馬鹿じゃねぇの?
「まぁ、お前さんならちょうどいいのかもしれんの。かつてのルーグも目も当てられんやつじゃったし! 昔のお前さんに戻ったと思えば幾分か楽な生活じゃろぉて!」
「あれ? 俺って好き好んで嫌われているって思われてんの旧知の相手に?」
当然のことながら、ルーグが転生した人間だとは知らないリュナ。
そのため、ルーグの荒れているところも知っており、それもルーグなのだと認識している。
だから「昔に戻ったみたい」と思われても仕方はない。本人は大ブーイングなのだが。
「久しぶりの再会じゃて、酒でも飲み交わそう……と思ったが、今は授業中じゃ。それに、中身がルーグだと知っておるのは妾だけ。他の者はユージンだと思っておるじゃろ」
「まぁ、そうだな」
「これからどうする? 妾とお前さんとの仲じゃ、最大限協力はするが……」
どうする、というのは「ユージンになったが今後のことは?」というものだろう。
ルーグとして生活するには外見も存在も違いすぎる。
ユージンとして生きていくか、それともどこかへ行って自分らしい生活を取り戻すか。
(できれば、ユージンとして生きてほしいのぉ……)
だって、そうでもないとルーグが離れてしまうから。
せっかく一番会いたかった人間に会えたのに、離れ離れになるのは寂しいが募る。
最悪、学園長の席から退いてルーグについて行くという選択肢もあるにはあるのだが───
「いいよ、ユージンとして生きていく」
「本当か!?」
「ただし、もう昔みたいに真面目ちゃんにはならないからな!」
ビシッ、と。
ユージンはリュナに向かって指を突き付ける。
「もう周りに馬鹿にされながら好感度上げなんごめんだ! 汚名返上? 破滅フラグ? なんじゃそれ、もう今の俺は前の魔法が使えるのは実証済み! 破滅フラグなんぞ片っ端からへし折れる! 親しい人間も使命もない今はもう昔みたいな努力も媚びへつらう必要もない! だって心折れるもん本当に「何もしてないのになんで俺が謝んの?」的なことは嫌なの! 開始早々「クズ!」って言われるのマジで理不尽なんだからガラスのハートはメリケンサックで全面亀裂よッッッ!!!」
「お、おぅ……よく分からんが好きに生きればいいと思うぞ? お前さんはもういっぱい頑張りすぎるほど頑張ったからの」
妙に執念籠った様子にリュナは思わずたじろいでしまう。
ただ、こんな姿も懐かしいなと。思わず涙が零れそうになったのは内緒である。
「つきましては、俺のことを詳しく教えてくれね? 本当によく分かってないんだわ」
「そうじゃな……うん、そうじゃ。今度はもう時間がたっぷりある、ゆっくり語ろうではないか」
───こうして、悪役に転生した三度目の人生が始まる。
かつては英雄と呼ばれ、その賞賛も今では侮蔑と罵倒に変わっている。
一度味わったのだから二度目はもう開き直りたい。
かつての旧友とも会えた。
それだけで、今のユージンは……リュナは満足してしまったのだから。
「なぁ、さっきからずっと聞きたかったんだけど」
「なんじゃ?」
「……なんでそんな年老いた口調なの? 昔と全然違うじゃん」
「だ、だって二百五十歳で今までの口調だと周りから子供って思われるんだもん大人で立派なレディーになりたいんだよ私はッッッ!!!」
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