悪役転生、今回2度目~1度目は頑張って英雄と呼ばれるまで更生しましたが、流石に2度目は好き勝手に学園で過ごそうと思います〜
楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】
プロローグ
『グラン・エンジェル』という恋愛ゲームがある。
孤児で育った主人公がある日攫われた王女と出会い、救ったことで始まる物語で、メインは爽快ファンタジー。
ところどころ出てくるメインヒロインとの親密度を上げ、攻略していくというバトルあり、恋愛ありで両方楽しめることから、一時期爆発的な人気を誇った。
―――全二部構成。
主人公がヒロイン達と協力し魔王を倒したのが一部。
二部はその百年後。魔王不在の中に突如聖女が現れ、それを巡って各国が動き出す。
ということもあって、主人公は一部と二部で大きく変わった。
設定上は同じ血筋となっているが、ヒロイン達も一人を除いて総入れ替え。これが更にユーザーの心を熱く揺さぶった。
そんな中、登場してくる悪役も変わる。
一部、二部共に舞台は学園。その学園に現れる公爵家の無能と呼ばれるルーグ。
横暴で我が強く、常に癇癪を起して可愛いヒロインを自分のものにしようとするクズ中のクズ。
ゲームでの評判は最悪だった……だったのだが―――
『ルーグ、ありがと……私を守ってくれて』
『君は私達の英雄だ』
『皆死んじゃったけど、私だけは覚えてるよ。数百年にも続く私の人生、ずっと君と共にあるから』
突如ゲーム内容が変わった。
公爵家の無能は勇者と呼ばれる主人公の裏で英雄となり、性格が一変。他者を守り続けることでひっそりと誰かの危機を救っていた。
その実力は魔法ファンタジーのゲーム上の中でもトップクラス。主人公をも凌駕する力は無能の面影すらない。
それもそのはず……ユーザーの知らない間に誰かがその悪役に転生したのだから。
そして、百年後が過ぎ二部が始まる。
ここで、一人の少年が目を覚ました―――
(あ、れ……ここはどこだ?)
澄み切った青空。乾燥しきった土と覆われる外壁。
何やらこっちを見て騒ぎ立てる見慣れない学生服を着た生徒と、こちらに向かって剣を振り上げてくる少年のすがt───
「くたばれ、クズユージン!」
「うぉぉい!?」
目を覚ましたルーグは開始早々、命の危険に遭っていた。
「え、功労者に対して後日譚の扱い酷くない!? っていうか、状況を教えてくれよどうしたら開始一幕でバッドエンドの狼煙が上がるんですか!? レビューでボロクソ言われて枕濡らしても頭撫でてやんねぇからな運営者ッッッ!?」
『何をわけの分からないことを……今更怖気づいたか!』
目の前の少年が次々に剣を振りかざし、ルーグに向かって振り下ろしてくる。
その度に周囲にいたギャラリーが『やっちまえ!』、『そんなクズ倒しちまえ!』、『ハルトくん頑張って!』などと湧いているのだが、当の本人はちんぷんかんぷん。
とりあえず振るわれる剣を躱しながら一人考え始めた。
(何がどうなってる? 俺、ルーグに転生して更生してなんか英雄って呼ばれて、そのあとちゃんと死んだよな?)
ルーグ―——いや、中身の少年は転生者だ。
それもクズ中のクズとも呼ばれたキャラクターに転生。破滅フラグを回避するために己を磨き続け、英雄とまで呼ばれるようになり、ある日戦闘中に仲間を庇って命を落としてしまった。
しかし、これはどういうことだ? なんでまだ生きている?
『クソッ! なんで当たらない!? こいつにこんな動きができたか!?』
おまけにいきなり斬りかかられている始末。
本当にわけが分からない、が。ルーグは似たような状況を思い出してふと一つの結論に至った。
(もしかして、また転生したんじゃねぇだろうな?)
だとすればどのようなキャラクターなのか?
……いや、申し訳ない。正直なところ、すでにあらかた察しはついている。
「ハッ! もしかしなくても万が一俺がハーレム系イケメン主人公の可能性もわんちゃん───」
『避けるな、ユージン! 彼女達にした非道、僕は許さないからな!』
「……ですよねー」
ユージン。
同じく悪役キャラとして二部から登場する伯爵家のご子息。
このキャラクターはとにかくルーグと同じでタチが悪い。可愛い女がいれば問答無用で手を出そうとする、クズ中のクズである。
「また悪役ですか……せめてモブでよかったんです神様。いきなり剣を向けられるなんて、世界はどれだけ俺に優しくないんだ。何を期待してるの? 盛り上げ役として宴会の余興でタップダンスをご所望なら今すぐしてみせるのに」
『うるさいっ! さっきからわけの分からないことを―――』
「お前もな」
振るった剣が側面から叩かれる。しっかりと軌道を逸らされ、先程とは違う情けない空振りがルーグの横を通り過ぎた。
「剣が拙さすぎる。もしかして、入学当初の主人公か? だったらこんなに弱いのも頷ける」
一体何が起こったのか? 目の前の少年は思わず呆けてしまう。
「そもそもの話、武器も何も持っていない相手に武器を持つ時点で正義の立ち位置が変わってくるんだよ。知ってるか? 弱い者いじめっていうのは実力差云々置いておいてまずは見た目から始まるもんだぞ?」
『い、一体何を……!』
「でもまぁ、そもそもの話を繰り返すようで悪いが───」
ジリリ、と。ルーグ……いや、ユージンの拳が淡く光る。
それは帯電しているかのように。青白い何かが纏わり始めた。
「初期ステータスの主人公と今の俺とじゃ実力差がありすぎるわな」
少年の空いた胴体にユージンの拳が突き刺さる。
口から何か零れた少年はそのまま地面をピンポン玉のように跳ね飛んでいき、ついには外壁に重い衝撃音を残しながら突き刺さった。
周囲から聞こえてきた声が一気に静まり返る。
『い、今……何が起きたの?』
『分かんねぇ、まったく見えなかった……』
『ハルトくんが……えっ? 無能のクズに負けた……?』
戸惑いの声は広がる。
よっぽど信じられない光景だったのだろう。
そのせいか、誰も壁に埋まった少年を助けに足を動かそうとする素振りを見せなかった。
「一度目に更生したからって二度目も同じようなものだと思うなよ。こっちは元より好きでやってたわけじゃないんだ、何もしてないのに馬鹿にされる人の気持ちって分かるか? 相当心折れるぜ」
さてと、と。
ユージンは戸惑うギャラリーを残して踵を返した。
(今までの流れから考えられるのは、俺が二部の悪役に転生したってこと)
中身の記憶と呼ばれた名前が合致していることから、恐らく間違いではないだろう。
もう具体的なイベントなど年月が経ちすぎてうる覚えではあるが、名前だけはかろうじて記憶に残っている。
間違いない───伯爵家嫡男、クズ息子のユージンが今の自分なんだと。
つまり、ここは二部。あれから百年が経った世界だ。
(なんで何もしてないのにまた蔑まれなきゃいけないのかね? あれか、やりすぎてピンチヒッターほしかったのかユージンくんは? やめてくれよ張り倒すぞこの体?)
正直もううんざり。
一度目は頑張ろうと思えた。いい仲間とも出会えたし、後悔のない人生もクズなわりに送れたと思う。
だが二度目は? おいおいまた振り出しですかしばきますよ? という気持ちしかない。
(残念、ユージンくん。俺はもう流石に更生なんてしませんよーだ)
しかし、これからどうするか?
そう悩んでいると、ふとあることに気がつく。
(これが二部ってことは、あいつがいるじゃねぇか)
ユージンの足が早くなる。
それは期待か、突然もう一度初めからやり直しさせられたことへの怒りか、それともまた新しい環境で生まれた寂しさ故か。
早くなった足は近くの校舎へと進み、通り過ぎる生徒のざわついた声を無視してユージンは廊下を走っていく。
そして、ユージンは『学園長室』というプレートが下げられた部屋を思い切り開け放った。
「なんじゃ、いきなり……って、お前さんは噂の問題児じゃないか」
小柄な体躯にあどけなさの残る淡麗な顔立ち。
小さく尖った八重歯に深紅の双眸。薄桃色の髪はひと房サイドに纏めあげられ、ゴシックな服装に相反して異様な雰囲気を醸し出している。
「母の味でも恋しくなったか、
その雰囲気、その顔、その声音。
全てが懐かしい。だからからか、ユージンは一歩踏み出して少女へと向かった。
少女はユージンに目もくれず黙々とペンを片手に書類をなぞっている。
「だから妾の気が大人しいうちにさっさと───」
「聞いてくれよリュナ! 世界ってば俺に厳しいと思うの! 功労者に対してまだまだ働かせようっていうブラックにブラックをマリアージュした職場へ事前告知なしで放り込んでくるところとかまた悪役なところとか特にッッッ!!!」
ユージンの言葉。
それを受けて、少女の持っていたペンが机の上に落ちた。
「そ、その喋り方……」
そして───
「お前さん、まさかルーグか!?」
二部構成のこのゲームで唯一キャラが変わらないヒロイン。
リュナ・アイラガント。
数百年を生きる吸血鬼であり───最後まで
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次話は12時過ぎに更新!
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