第2話 敗戦、混乱及び学園都市アース滅亡

 ──8月15日、正午


「なんやなんや」

「一体何が始まるん……」

 早朝からHHK(日の丸放送協会)から正午に「重大放送」があることを繰り返し伝えられたいたため、日ノ丸自治区臣民も戦地の将兵もラジオの前に集まり威儀を正してその時を待っていた。

 そして、日の丸帝國學園の現人神にあらせられる“御狐”様の肉声が「ガーガー、ピーピー」と、雑音だらけの真空管ラジオから流れ出した。


ちん深クアースノ大勢ト帝國ノ現狀トニ鑑ミ、非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ收拾セムト欲シ、ここニ忠良ナルなんじ臣民ニ吿ク(私は、アースの情勢とわが学園の現状とを十分に考え合わせ、非常の手立てをもってこの事態を収拾しようと思い、私の忠義で善良な自治区民に告げる)』

 

『朕ハ帝國生徒會ヲシテ星王支飾せいおうしか四校ニたいシ、其ノ共同宣言ヲ受諾スル旨通吿セシメタリ(私は生徒会に対し、フィフスタ、クイーン、中華、カチューシャの4カ校に、四校共同宣言ポツダム宣言を受諾することを通告させた)』


「共同宣言」が何を意味するのか知らない日ノ丸自治区臣民は、何のことか分からなかった。

 やがて、「戦局必スシモ好転セス(戦局必ずしも好転せず)」とか「時運のおもむく所、堪え難きを堪え忍び難きを忍び、以て万世の為に太平を開かんと欲す(時の巡り合わせに従い、堪え難いことを堪え、忍び難いことを忍んで、将来の万世のために太平の世を切り開こうと願っている)」のくだりになって、ようやく「日の丸帝國學園が負けたのだ」と悟ることができた。

 自治区民の多くは思いもかけぬ敗戦を知らされ、愕然とし、皇居前には土下座して泣く「臣民」の姿が多く見られた。


 *    *    *    *    *

 

「長旅、ご苦労様です!(英語)」

「──ここが日の丸帝国学園自治区か……(英語)」

 航空機の階段を下りながら、ギラギラと輝く太陽を見上げるも、眩しさでサングラスをかけた顔の前に手を向けて光を遮る一人の少女が降り立っていた。


 ──8月30日、専用機ケイシC54「バターン」号で、連合学園軍最高司令官であり、フィフティースター陸軍元帥である【ヴェネッサ・ケイシー】がコーンパイプを咥え、厚切りチャーシュー飛行場に到着。


 その後、敗戦で日の丸帝國學園は連合学園軍の占領下におかれることとなる。

 ケイシーは東京に総司令部GHQを置き、統括。「5大改革」指令を出して、日の丸學園生徒会に労働組合結成などを求めた。

 さらに、象徴御狐制・戦争放棄などを盛り込んだ「ケイシー草案」を示して新校則制定をリードし、

治安維持法の廃止など、日の丸帝國學園の非軍事化と同時に民主化をめざす戦後改革の指揮を執ることとなる。

 一方、御狐様は敗戦の数日後、「生徒宣言」で自らの神格を否定し、自治区各地を視察する「巡幸」を始めるのだった。


 *    *    *    *    *


「こちらルーナピア門前ッ! 重武装の兵を多数確認、至急応援を要請ッ!」

「うっ!」

「グハァッ!」

 第二次学園大戦及び大東亜学園戦争での日の丸帝国学園無条件降伏の一週間後、アテナ将る私設軍隊──通称“プレデター”は総勢10万の兵力を以て、学園都市アース全体の秩序を保っている中枢機関、連合生徒会が本部を置くオリーブタワーに侵攻していた。

 数時間後、連合生徒会の抵抗虚しくタワーは陥落。制御権は奪取され、学園都市アースはプレデターの管理下に置かれることとなる。

「お前たちのような蛮族は帰れ!」

「連合生徒会に管理権限を返せ!!」

「そうだ! そうだ!」

「「「「返せ! 返せ! 返せっ!!」」」」

 これに反抗する勢力は武装蜂起しオリーブタワーに攻め込んだ。

 ……しかし、プレデターに制御権を奪取されていたため、反抗勢力はタワーの最強防御セキュリティーの餌食となり敗走を喫する。

 蜘蛛の子を散らすようにして逃げる者たちはプレデターに捕縛され次々と牢屋へとブチ込まれた。


「いいか、明後日を以てオリーブタワーの制御権を奪還する!」

「「おぉおおおおっ!!」」

「全員、動くなっ! 両手を頭の後ろに組んで大人しく投降しろっ!!」

「なっ!?」

「何故、バレたんだ!」

「ごめんね〜、仲間の場所を教えたら〜この人たちが特別待遇してくれるって言うから〜」

「貴様ッ、裏切ったなっ!」

 命からがらプレデターの手から逃げのびた者たちは、タワー奪還を画策するも、裏切り者の内部告発によって、次々とプレデターに取り押さえられ、勢力を縮小及び弾圧されていった。


 *    *    *    *    *


 ──1ヶ月後……


「ねぇ、サクラ……」

「なぁに、キク……」

 壁にもたれて、今にも恐怖で感情が壊れてしまいそうになっているキクを私はただ……見ていることしか出来なかった。

「……いつから……いつからなんだろうね?」

「…………」

 私はキクの言葉に返事をせず沈黙を貫く。

「……ねぇ、教えてよ……サクラ……」

 私たち二人しかいないした廃墟と化した町中に小さいながらもキクの呟きが周りの建物に反響して響く。

「……それは」

「どうして、どうしてこうなったの゛ッッ!!」

 キクは私に行き場のない感情をこれでもかとブツケて吐き出した。

「分かってる……分かってるよ……こんなの無駄なことなことぐらい……」

「キクっ……」

 顔を下にし蹲るキクに近寄るとボロボロと涙が腕から溢れ落ちる。

「やっぱり……の言ったことは……正しかったんだ……」

「キク?」

 その瞬間、私の腹部に何かが深々と刺されていた。


「……カハッ!」


 私は状況をこの状況を理解できなかった。

 何故って? そりゃそうでしょ? だって私にナイフを刺していたのは── 


「……どう……して………………?」

「ごめんね、サクラ。でも、もうこうするしかなかったの……」

 ここで私はこの状況の異変に気付いた。

「えっ、血が……止まらない……」

「このナイフは対生徒用に作られたナイフ。本来、私たちは、頑丈で銃で撃たれても、刃物で刺されても、決して死なない。けど、このナイフは違う。私たち生徒に刻まれたを喰らい、その頑丈さを奪う。つまり、ってこと」

 そうして、ひとしきり説明し終えたキクは私からナイフをゆっくり引き抜いた。

 ナイフが抜かれたと同時に私は膝をつき、キクにもたれ掛かるようにして、前方に倒れる。

 それをキクは優しく両手で包むようにして抱き留める。

「ごめんね、サクラ。本当にごめんね。──憎まれても恨まれても仕方ないと思ってる。だけど、これだけは言わせて──」


 一呼吸おいてキクは口を開いた。


「──サクラ、ずっとずっと大好き! 私の一番の親友だよ!」

 朦朧として薄れゆく意識の中、サクラに理由を聞けないまま、私は暗闇に吸い込まれるようにして、意識を手離した。

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学園戦争(旧) 小鳥遊 マロ @mophuline

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