第7話マッチングアプリ
1,2か月もすると、男たちから500件以上もの「イイネ」がついていた。
良いと思った男を見付けても、私は自分から「イイネ」はしない。仮にそれで上手くいって付き合うことになったとしても、パワーバランスが男側に傾いた関係になってしまうからだ。そういう関係性において、女が大事にされることはあり得ない。逆にこちらが強い分にはいくらでも調整できる。とにかく、足元を見られるのは女としての沽券に関わる。そもそも、来ている「イイネ」を捌くだけで現状は手一杯だった。だっちゃんに私のアプリの進捗を見せると、「そんなにイイネ付いてるの? めっちゃモテてるじゃん。」などと悠長なことを言っていた。当たり前のことだ。
私は顔もスタイルも悪くは無い。胸もまあ、ある方だと思う。共働き希望だし、年齢的にもそれなりに先んじて婚活市場に足を踏み入れている。今が一番異性からの需要がある時期なのだから、言い寄られて当然である。
しかし「イイネ」を寄越す男たちの90%は雑魚だ。雑魚に好かれても全く意味はない。
彼らは年収や学歴が足りず、ブサイクだったり年嵩だったりしていて、要するに自分の身の程を把握していない。
私に「イイネ」なんかしたって意味がないことくらい、本人たちだって解っているはずだ。多分、宝くじでも引いた気にでもなっているのだろう。通知がうるさいので、はっきり言って迷惑でしかない。
そして残りの10%のうち半分は、意思疎通が出来ない。いきなりタメ口で話しかけて来たり、質問にまともに答えてくれなかったり、性的な質問を投げかけて来たり、極端な長文や短文を送り付けて来たり、いつまで経ってもご飯に誘ってくれなかったりする。異性と接するのに適当な価値観を育めていないくらいのことならまだしも、そもそも人間関係の構築に大きな難を抱えていたりすることもしばしばだ。
つまりアプリにいる男性のうち、「まともな男性。」は5%しかいないということだ。もちろん、彼らと気が合うかどうかというのはまた別の問題である。
彼らとデートを重ねあわよくば付き合うために、95%の抜け作に自分の顔写真を晒しているのだ。それを思うと、不愉快で、不安な気持ちになることだってある。しかし背に腹は代えられない。
そして条件をクリアした5%の男たちも、実際に会う約束をして、対面で話をしてみると生理的に受け付けることが出来ないということが多々ある。
そもそも婚活市場にいる男たちは押し並べて小柄だったり、肌が汚かったり、話し方が気持ち悪かったり、話が詰まらない率が有意に高い。
現実世界において、オスとして必要なセックスアピールの出来ない劣等種なのだ。野生にいたら誰にも見向きもされず死ぬしかない連中、いわゆる性的弱者という存在だ。
現実世界では一目瞭然に歯牙にも掛けない相手であったとしても、アプリ上からそれを判断するのは難しい。写真は加工することができるし、男たちは色んな数字のサバを読んでいるし、雰囲気なんて判りようがない。アプリ上から読み取れるのは結局のところ参考情報に過ぎないのだ。
日本人女性の平均身長をほんの数センチ上回るだけの私でさえ、ヒールを履いて待ち合わせをすると、「身長高いんですね! 」などと言われることが少なくない。
女同士、あるいは性的強者の男に対してむしろポジティブに評価されるものが、性的弱者はオスとして劣等であるがために、それを際立たせる女に対してそれをあたかもネガティブな要素であるかのように裁定しようとする。それが腹立たしくて仕方なかった。
「まあオレもチビだし肌汚いけど、高身長の女の子は好きだよ。我々はただ卑屈になっているだけで、ネガティブに裁定してるわけじゃないんだよ。汝、人を愛せ。さらば愛されん。」
だっちゃんは相変わらず呑気だった。卑屈な男なんて、一番最悪じゃないか。そんな男たちに好かれてもどうにもならない。
「結局、アプリをやってる男なんてほとんど雑魚。私、そんなに条件悪くないよね? なのにこんな雑魚の中に入って、苦労して、本当に可哀想……。言ってみれば堕天使って感じ。」
「婚活アマゾネス堕天使りさぴょんさん、色々盛り込み過ぎじゃない? 」
「オイ、二度とその名前で呼ぶなって言ったよね。」
アプリをやってる男が雑魚ばかりだといったところで、それは現実の婚活パーティや合コンであっても大差はない。何にしたってここで結果を出すしか手はないのだ。
そこでいうとだっちゃんは大卒だし、政府系の金融機関で法務の仕事をしているらしい。言葉だって通じるし条件的には支障ない。つまり5%の男性ではある。多少ブサイクではあるものの、まあ妥協の範囲内だろう。にもかかわらず彼の婚活は難航していた。
私だって、だっちゃんに劣る男を選ぶわけにはいかなかったし、元カレと比較をすれば多くの男たちは比較対象にさえならなかった。
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