第36話 列島震撼
今回の作戦で、最も警戒すべき敵だ。
ソウゲキは空中で静止し、こちらを静かに見下ろしている。
「私が止める。師匠、先に行きな」
魔王が、微細な動きも見逃さぬようソウゲキを睨みながら、言った。
「行くよ!」
ヒカリが俺の肩を叩き、駆け出す。
同時に、魔王が素早く両手に光球を作り出し、ソウゲキに向けて放った。
ソウゲキの動きに警戒しながら、俺は足を踏み出す。
いや、魔力がこちらに来ている!
ソウゲキが俺の目の前に現れ、剣を振った。
魔王が、その切っ先を掌で受け止めた。
衝撃が、耳にビリビリと響く。
「威力、抑えてる?」
魔王が、ソウゲキを挑発する。
「研究所の被害が、怖いの?」
「任務とは言え、殺したくないんだ」
ソウゲキの声は静かで、落ち着いている。
「悪意に満ちていない人間はね」
俺は急いで、魔王とソウゲキから離れた。
早く先へ進まないと、危ない!
しかし奥へ進む扉の前に、ユウアが立ち塞がった。
「簡単に行かせるわけ、ないだろ」
「そんなスタンスで大丈夫?私に負けるんじゃない?」
「大丈夫だよ」
魔王とソウゲキは、距離を取った。
俺の感覚からすれば、遠距離からの攻撃を想定した、互いに離れた位置に。
だがおそらく、あの二人からすれば、あと一歩で間合いに入る距離。
「負けるくらいなら殺す判断は、できるさ」
「残念。ずっと手加減しててほしかったのに」
魔王は、手元に光り輝く長剣を作り出した。
ソウゲキは、自身の長剣を構える。
二人が、同時に動く。
一瞬で距離を詰めた二人は、剣を交えた。
魔力同士がぶつかる凄まじい圧に、俺は思わず体を伏せた。
エントランス内の壁という壁にヒビが入り、床は崩れて瓦礫と化す。
衝撃が地下まで響いたか、地震のように地面が揺れる。
魔王がソウゲキの剣を弾いた。
ソウゲキは空中へ動く。
そこをめがけて、魔王は光球をノータイムで放つ。
一瞬で迫る光球を、ソウゲキは紙一重で回避。
光球は研究所の天井を破り、空の彼方へと飛ぶ。
夜空へ太陽のような光の球が打ち上がり。
空が一瞬、眩しく光ったあと、光球は姿を消した。
今夜は、曇天。
だが俺達の真上だけ、雲一つ無い空になった。
俺は、扉の前に控えるユウアの動きに気をつけつつ、スマホの配信画面とコメントを確認した。
―― いま、すごい揺れたぞ
―― 名古屋、結構揺れた
―― 九州だけど、ちょっとだけ揺れたぞ!?
―― 今の戦いの影響?まさかな……
これ、二人の決着がつくまで放っておいて、大丈夫なのか……?
「どんどん行くよ!」
魔王が空中へ跳ぶ。
迎え撃つべく、ソウゲキが剣を構える。
赤い閃光が、視界を覆った。
物凄い風圧が俺達を襲い、俺の体は浮いた。
俺の体は、もはや瓦礫と化した床の上を転がる。
今の攻撃の魔力は、魔王でもソウゲキのものでもない。
自然公園で放たれた、あの砲撃の……
風が収まった後、エントランスの中心には……
瓦礫に埋もれて倒れている、魔王がいた。
ソウゲキは、その光景を上から見下ろしている。
今起きた出来事に戸惑いがあるのか、剣の構え方に迷っているように見える。
「どうじゃ、『
ソウゲキよりもさらに上の空中で、マントが翻る。
『
「施設内なら、撃てないとでも思ったか?」
空中で姿勢を維持し、ゆっくりとこちらへ降りてくる明日野。
彼女は、愉悦に満ちた表情で俺達を見下ろす。
「『断罪の魔砲』は必殺必中。ターゲットを決めれば、そこへピンポイントで砲撃を加える。威力を今くらい抑えれば、いくらでも連発できるぞ」
「だったら、隠れて連発してれば終わっただろう。なんで出てきた?」
ユウアの声。
「ごちゃごちゃうるさいのう!それでは自慢できんじゃろう!」
ユウアにキレる明日野。
「こいつは、わしの脳波に反応して発射できる。それだけじゃないぞ!魔法だろうが核ミサイルだろうが、わしを傷つけうる攻撃には
瓦礫に塗れて倒れる魔王は、動かない。
「
今の砲撃……放たれた魔力の量自体は、自然公園を破壊したときと変わらない。
魔力の密度を変え、凝縮した威力を一人にぶつけることもできるのか。
まずい。施設内で『
「一人ずつ葬って、それで終わりじゃ!アッハッハ!」
明日野は、崩壊寸前のエントランスで、高笑いの声を響かせた。
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