第24話 カップルチャンネル!?

 『ダンジョン探索RTAフェス』参加の話は、トントン拍子で進んだ。

 アリスは、予想通りではあるが、即答で「参加する!」。

 この時点で、俺・アリス・トウヤの3人がパーティに入るのは確定した。


 残りのメンバー候補は、トウヤが連絡を取った配信者狩り・炎羅えんら

 アリスと出会ってから、配信者が彼女に襲われたという話は全く耳にしない。今は『元・配信者狩り』と呼んだ方がいいだろう。

 彼女は素直にオーケーをくれるか怪しく、説得に骨が折れるかと思いきや……




「いやあ、ここまで連れてくるのは大変でしたよ」


 打ち合わせの日、トウヤはアッサリと炎羅を連れてやって来た。

 般若の面を着けずに、Tシャツとジーンズ姿の炎羅、新鮮。


「”でし子”がよぉ、戦力が足りなくて困ってるって言うから、来てやったけどさぁ……」

 炎羅は、勿体ぶった口ぶりをするが……

「いいのかぁ?あたし……ほら、犯罪者だし……」

 結局、むしろパーティに入りたがっていそうな感じ。


「調べましたが、炎羅さんは犯罪者じゃありませんよ」

「あ?」

「警察への被害届は一件も出ていません。あなた、狩った配信者を全員、治癒魔法で治療してるでしょ?だから、配信者から恨みを買ってすらいません」


 思い起こせば、炎羅はアリスとの戦いの後、直前に狩っていた配信者のケガを治療していた。

 アリスに負けて反省したからだと思っていたが、元々、狩る様子を配信した後はいつも治療してあげてたのか。


「治療するのは当たり前だろ!?あたしがケガさせたんだから!」

「配信者から名誉毀損きそんで訴えられる可能性も考え、その線でも調べましたが……やはり問題なし。炎羅さん、あなた配信外では配信者に優しいですね?」

「いや……配信に映ってない時でも悪態ついたら、ただの嫌な奴だしさぁ」


 配信の視聴者目線だと、普通に嫌な奴だったけどね……


「ね!やっぱり炎羅ちゃん、悪い子じゃなかった!」

 アリスは、俺に笑顔を見せた。


「ちゃん付けやめろ、恥ずかしい!」

「あとで連絡先交換して!」

「うるせぇ!」

 アリスに絡まれて、少し赤くなっている炎羅。なんだかんだで、嬉しそうだ。




 レンタルの会議室にて、打ち合わせは始まった。

 これはトウヤの提案で、外部に聞かれたくない内容も話せるから、とのこと。


「さて、まずは自己紹介といきましょう」

 トウヤが口火を切る。


「自己紹介?もう大体分かってるだろ」

「お互い、配信者名しか知らないでしょう?手の内も、明かしていない部分が多いはず」

「そうか……?」

「違うんですか?」

「いや、んなことねぇよ!あたしだって奥の手がだなぁ……」

 最初の方は、トウヤと炎羅が漫才みたいに喋っているのをアリスがニコニコしながら聞いている構図になった。なんだこの絵面。

「まず僕は、トウヤ。本名は、ここでは伏せさせてもらいますよ」

「いや、それを言うための自己紹介じゃねぇのかよ!?」

「言いたくないことまで言う必要はありませんよ。ちなみに、チャンネル名の通りダンジョン探索協会の元職員ですが、働いていたのは2年程度です。今はやめて、大検を受けて大学受験を考えています」

「大学受験って……お前、何歳なんだ?」

「17ですが」

「17!?若っ!?」

「長所はダンジョンに関する知識と、戦いにおける手数です。細かい部分は、おいおい紹介します」

 ちなみに、ここまで全部トウヤと炎羅の会話。俺とアリスに口を挟む隙なし。


「ねえ!炎羅ちゃんの本名と歳、教えて!」

 アリスがいきなり口を挟んだ。

「ああ!?」

「聞きたーい!」

 楽しみに体を震わせるアリス。可愛い。


「あー……本名、言う必要あるか?」

「『炎羅ちゃん』よりカワイイ名前かもしれないもん」

「そうか……」

 本名聞きたい理由、それで納得したのか炎羅?


「……あたしの本名は、眞辺まなべ由那ゆなだ。歳は……18」

「じゃあ、『由那ちゃん』だね!由那ちゃん!」

「トウヤのが絶対年上だと思ってたのに……」

「能力はもう大体知っているので、特に話さなくていいです」

「あぁ!?」


「では、次は師匠殿にお願いしても?」

 トウヤが、俺に振ってきた。

「大事だな。あたしはお前を『師匠』って呼ぶ気無いし」

 炎羅、この野郎。言いたいことは分かるが、もうちょっと言い方あるだろ!?


「俺は……本名、桜坂さくらざかシュウ。年齢は15」


「あー!一番年下ぁ!」

 炎羅うるせぇ!


「能力は……『構築魔法』。ただ、出力が安定しないことがあるから、今のところ奥の手って感じだ」

 俺が魔力を使うところは、トウヤが既に見ている。隠す必要は無い。


「構築魔法……なるほど、でし子さんが『師』と呼ぶのも、納得の能力ですね」

 いや、師匠と呼んでる理由、それじゃないけどね?


「はい!じゃあ、最後、私いきます!」

 アリスが手を挙げた。

「本名は天音あまねアリス!15歳です!あと……」


 アリスは、俺を見た。

 パーティを組むにあたって、アリスのことをどこまで説明するか。

 事前に、アリスと俺で相談した内容だ。

 そのときの結論通りでいいか、という確認っぽい。


「いいんじゃないか?全部話しても」

 俺は、オーケーの合図を出した。


「じゃあ……」

 アリスは、改めて説明を始める。

SSダブルエス級探索者です。能力は『支配反撃エクスカウンター』。自分の魔力は使えないけど、攻撃された魔力とかエネルギーを操って、敵に攻撃できます」


「なるほど、まあまあ推測通りでしたが……」

 トウヤが解説動画のノリで考察を始めてしまった。まあ、これだけ特殊な能力だと考察したくなるよな……

「自身の魔力が使用不可、というのはなかなかの縛りですね。天音さん以外の3人の立ち回り方が、鍵になりそうです」




「んなこと言ってもよぉ、SSダブルエス級のでし子がいる時点で、負けること無くないか?」

 炎羅が疑問を呈した。


「では、フェスのルールと参加者について、確認していきましょうか」

 トウヤが、司会のように話を進めていく。

「まずは、フェスのルール。『RTAフェス』の名にふさわしく、運営側が指定した地点へより早く着いたパーティの勝ちとなります」


「競うのはあくまで『早さ』だから、『強い』でし子がいても、勝てるとは限らないんだな」

 俺が確認の意を込めた発言をする。


「そうですね。ここで早速『自身の魔力が使えない』という天音さんの弱点が効いてきます。人の力を借りなければ、移動速度は上げられない、というわけですからね」


「なあ、全パーティが一斉にスタートするんだろ?最初に他のパーティ全員ボコって、あとはのんびり行けばいいんじゃねぇか?」

 炎羅、発想が配信者狩りだぞ。


「まず、最初に全員をボコるのは無理ですね。フェスに使用されるダンジョンのマップは予選・決勝ともに事前公開されていますが、入り口が複数あり、参加者はスタートする入り口を選べます。おそらく、バラけるでしょうね。また、ボコること自体はルール上オーケーですが……簡単にはボコれない参加者もいます」

「それって……ソウゲキさんとか?」

 ソウゲキは、アリスに続いてSSダブルエス級に認定された探索者だ。そして、公安の諜報員でもある。

「いえ、ソウゲキさんは今回、不参加です。しかし、数日前に新たにSSダブルエス級の認定を受けた配信者のパーティが参加予定です」


「あぁ!?SSダブルエス級、また増えたのかよ!?」

「天音さんのニュースに埋もれて、全く注目されていませんけどね。ですが、チャンネル登録者数は130万。”でし子”さんよりも上です。あらゆる意味で手強いですよ」

 そう言うと、トウヤはニヤリと笑った。

 さてはこの男、早くもフェスを楽しんでるな?


「大会はまず、10パーティ5グループに分かれての予選から始まります。グループごとに異なるダンジョンに挑みますが、ゴール地点はどれも深層の序盤、地下61階にあります。先に到達した順に、上位2つのパーティが決勝進出です」

 トウヤは、続けて大会の勝利条件について話し始めた。

「決勝は翌日に行われます。決勝のゴールは地下99階、最深層の一つ手前。かなりの長期戦になります」


「んまぁ!何とかなるだろ!」

 炎羅は、なかなかに楽観的だ。

「『フェス』なんだろ?最悪、楽しめればよし!」


「それは、僕も同感ですね」

「うん!」

 トウヤとアリスも、炎羅の意見に賛成した。


「そうだな……!」

 俺は、なんだか嬉しくなった。

 このメンバーは、結果や名誉にあまり興味が無い俺と、ぴったり気が合いそうだ。


「さて、楽しむにはまず、参加表明の配信をする必要がありますね」

 トウヤが、さっきよりもウキウキとした感じで話し始めた。

「やはり、パーティのメインである”でし子”と師匠殿のチャンネルでやるのがいいでしょう。段取りは……僕にお任せを」


「お……おう」

 勢いで承諾してしまった俺。

 まあ、最近は自分も魔法の特訓や探索で忙しいから、やってくれるのは別にありがたいんだ。ありがたいんだが、何か嫌な予感が……







 嫌な予感は、やはり的中した。




「ほら、もっと寄らないとカメラに入りませんよ!」

 フェスまであまり日数が無かったので、配信は会場への移動中……寝台列車の座席にて行われた。

 それはいい。

 なんでアリスの隣に、俺が座らされてるんだ!?


「なあ、トウヤ。なんで俺まで……?」

「そりゃ、お二人がパーティのメインメンバーなんですから。僕と炎羅さんが声だけの出演になるのは、仕方ありませんよ」

 トウヤはニヤッニヤでカメラを構える。


 座席は、そんなに広くはない。

 二人で並んで座ると、たまにアリスと肩が当たる。

 アリスも俺もマスクをしているが、もししていなかったら、息づかいまで聞こえてきそうな距離感。

 そりゃ、今までアリスとこれくらい近づいたことは数回あるが、ずっと間近でくっつきながら何かをしたことなんてないぞ!


「見てみたかったんですよ。こういう、カップルチャンネルみたいな配信」

「おい、シュウ!でし子に変なことするなよ!」

 言いたい放題のトウヤ&炎羅。しかし、こっちはそれどころではない。


「し、ししょー……ドキドキする……」

 色気のある声で言うアリス。やめてくれ、俺がさらに緊張してしまう。


「はーい、配信始めまーす」

 トウヤは、勝手に配信を始めた。




「こんにちは、でし子さんのチャンネルです。今回は、『ダンジョン探索配信RTA2023』に参加するパーティで、配信をお送りしたいと思います」



―― こんでしー……あれ?トウヤ?

―― こんでしー

―― カップルチャンネルかな?

―― 師匠久しぶり!



 コメントは、こちらからも確認できるように正面にタブレット画面が配置されている。



「画面に映るは、パーティのメインメンバーであるでし子さんと師匠殿ですね。お二人とも、まずは何かコメントをお願いします」




「え、えーと……フェスに出ることになりました!がんばります!」

 アリスは、必死に言葉を絞り出す。

「は、はい。俺も、がんばります」

 頑張っても言葉をひねり出せない俺。




「はい。では早速ですが、今回の企画を始めたいと思います。題して『今までコメントも遠慮して触れずにいたけど、本当は聞きたい!でし子と師匠の関係、質問ターイム!』」

 企画名が長い!そして、やめろ!



―― これを待ってた

―― 正直、気になってはいた

―― でし子、師匠は師匠だよな!?それ以外の意味はないな!?

―― 俺も「ししょー!」って呼ばれたい



「まずは最初にして核心の質問。でし子さんと師匠殿は、実際は付き合ってるんですか?それとも、本当にただの師弟関係ですか?」


「し、ししょーは、ししょーはですね……」

 動揺するアリス。いや、本当にただの師弟なんだから、挙動不審にならないでくれる!?


 いや待て。動揺するってことは、アリスは俺のことを意識してるということでは?

 まずい。気にしだしたらドキドキしてきた。肩越しにアリスに心臓の鼓動が伝わりそう。

 確かにアリスは可愛いが、まだ付き合ってるわけでは……

 違う!そんなことを考えている場合ではなくて!


「おっと、これは、実は片想いというパターンもありますかね?さあ、どうです?返答次第では『でし子ガチ恋勢』が黙ってませんよ」



―― トウヤ、やり過ぎだ!もっとやれ!

―― やめて!私は聞きたくない!今まで通り妄想させて!

―― でし子ガチ恋勢なんていたのかよwww

―― 師匠ガチ恋勢もいるぞ。俺が代表だ



 ああー!やめろー!








 コメントも含めて恋愛関係の質問しかしてこない地獄の配信は、30分程度で終わった。

 何とか、俺とアリスが正真正銘、ただの師弟だと信じてもらえた。多分。

 トウヤ曰く、会場到着後は、全員映ってちゃんと挨拶の配信をする予定だとか。


 じゃあ今日の配信いらねぇじゃねえか!

 二度とトウヤに配信の段取り任せないからな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る