第19話 魔王の配下狩り

炎羅えんらちゃん、まだ配信者狩りしたいの!?」

「ああ!?うるせぇな!」


 突如、現れた配信者狩り・炎羅えんら。驚くアリス。いや待て、アリス。そういうことじゃないぞ、きっと。




「配信、見てたぜ。二人相手は、めんどくせぇだろ」

と、炎羅。

「お前はどっち狩りたいんだよ、”でし子”?」




「そっか……じゃあ、私は魔王!」

 察したように、笑顔になるアリス。

「しょうがねぇ、あたしは手下で我慢してやるよ」

 嬉しそうな声で、刀を構える炎羅。




「面白い人が来たね。誰だ?」

 魔王は、魔法を両手に準備したまま、興味深そうに言う。

「手下って、ボクのこと?」

 リリィは炎羅の言葉を聞いて、不機嫌。

「ふざけんな!ボクは魔王様の……」


「行け!」

 炎羅は、左手を刀から離し、アリスの背中に当てた。

 強い風が起き、アリスは魔王に向かって一直線に飛ぶ。


 アリスは風の勢いに乗り、魔王に正面から体当たりした。


「炎羅ちゃんも頑張って!」

 叫びながら、アリスはダンジョンの奥へ、魔王を押しながら消えていった。




「うし!」

 炎羅は、刀を握る手に力を篭めて、気合いを入れた。

「おい、師匠!あのガキの能力は何だ!?」

 炎羅は、途中で魔王にカメラを奪われた状態の配信を見ていたのだろう。リリィと探索者達の戦いは見ていないようだ。


「『念動力サイコキネシス』だ」

「見れば分かる!」

 リリィの周囲に浮かぶ、魔力を帯びた無数の岩石を睨みながら、炎羅は怒鳴った。

「えっと……岩を飛ばすだけじゃなくて、岩からレーザーも撃てる」

「それから!?」

「それから?」

「速さはどんなもんだ!?」

「本人はほとんど動いてない」

「岩の飛ぶ速さだよ!」

「岩の方ぉ!?」


 岩の方は、S級探索者でも対応できないくらい速い。……って言って、参考になるか?でも具体的に言いようがないし……


「俺の氷魔法と同じくらいだ!」


 背後から叫び声が聞こえた。

 見れば、先ほどリリィの岩で吹き飛ばされた拳銃の男が、地面に伏せたまま顔を上げていた。

「お前なら、動きを見切れる!」




「随分、マトモなアドバイスができるようになったじゃねぇか!」

 炎羅は言った。

「あたしに狩られて、アホのフリするのはやめたのかぁ!?」


「ハッ……素直に礼を言えよ」

 拳銃の男は、苦々しそうに笑った。




「決めた!ボク、この鬼さんの首をちぎり取って、魔王様に持ってく!」

 リリィは、炎羅の般若の面をつけた顔めがけて、こぶし大の岩石を飛ばした。

「そんで、魔王様に頭なでなでしてもらうの!」


 炎羅は、目の前に飛んできた岩石を一刀両断した。


「うし!妖刀『幽魔ゆうま』、いい切れ味!」

 炎羅は地面を蹴り、リリィに迫る。


 無数の岩石を操作し、炎羅に襲わせるリリィ。

 それらを全て回避しながら、突進する炎羅。

 炎羅は、リリィの正面まで辿り着き、斬撃を放った。

 ガギン!という衝突音とともに、炎羅の刀を腕にはめた小型の盾で受け止めるリリィ。あんな下敷きサイズの盾なんて、あるのか。

 盾はしっかりと斬撃を受け止めたが、勢いで後ろへ押されるリリィ。


「あぁ~もう!めんどくさっ!」

 リリィは心底嫌そうな声を上げると、腕で刀を弾いて炎羅から離れた。


「まだまだ!」

 炎羅は、尚もリリィに迫っていく。

 リリィは岩石をぶつけようと炎羅へ飛ばす。

 炎羅は、岩石達を避けたり、あるいは斬ったりしながら、さらにリリィに迫る。


「ああ、もう!」

 炎羅の正面に浮かべた岩石から、レーザーが放たれた。

 炎羅は走るスピードを緩めず、レーザーを頬にかするくらいの距離で回避してリリィに斬り掛かった。

 ガキィン!と再び衝突音がして、リリィがさらに後ろへ吹っ飛んだ。


「痛ぁい!」

 リリィが悲鳴に近い声を上げる。




「炎羅の戦法が、功を奏しているな」

 気づけば、俺の足下まで拳銃の男がズルズルと這いずりながら近づいてきていた。

「接近しながらの近接戦闘であれば、女児の『念動力サイコキネシス』は威力を発揮しづらい」


 炎羅の戦法が有効なのは間違いないが、賞賛すべきはそれを可能にしている炎羅の速力と動体視力だろう。

 先ほどやられた探索者の中にも、その戦法を思いついた者はいるかもしれない。だが、リリィの操る岩石の速さに対応できず、近づく間もなくやられていた。

 炎羅……味方になると、頼もしい強さだ。




 炎羅とリリィの攻防は、しばらく続いた。

 終始、炎羅が優勢には見えるが、リリィは炎羅の刀を直撃することなく、何とか凌いでいる。

 そして、体力的には……


「はぁ、はぁ……クソ、さっさと斬られやがれ……!」

「あれぇ!?おねーさん、疲れてきたのぉ!?ボク、全然元気だよぉ!?」


 リリィの方が、体力に余裕がある。


「そうだよね!後ろに逃げてるだけのボクより、色んな方向に避けてるおねーさんの方が大変だよね!」


 リリィの煽りで、俺はようやく気づいた。

 リリィは、ただ逃げてるだけじゃない。炎羅の動きが増えて、疲労しやすいように岩石を動かしている。


 このままでは、炎羅の体力が尽きてリリィの攻撃を喰らう方が、早いかもしれない。




「チッ、俺が魔法を撃てるまで回復できれば……!」

 未だに地面に這いつくばっている拳銃の男が、悔しそうに舌打ちする。彼の拳銃は、リリィのレーザーに撃ち抜かれて使い物にならない。そして、未だに這いつくばっているということは、立てるほどにすら回復していないということだ。

「あんた、何か攻撃できないか?」


「うーん……」

 言われて困る、俺。何も攻撃できない。下手に突っ込んでいっても、足手まといになること請け合い。何かを投げつけて攻撃するとか?でも、下手な加勢をしても……


「心配ありません」

 俺達の後ろから、小声。

「もう、準備は整いました」




 後ろを振り向いて、俺は驚愕した。

 動画作成者・トウヤが、そこにはいた。




「トウヤさん!?」

「しっ、彼らに勘づかれては台無しです」


 しゃがんで炎羅達に姿が見えない状態で、俺をたしなめるトウヤ。


「配信を見て、準備してから参加させていただきました」

 彼は、戦っている二人に聞こえないよう、小声で言う。

「まずは、あの女児を仕留めてしまいましょう」




「はい、ざんねーん!」


 その時、炎羅が2メートルほど跳び上がり、リリィの岩石を回避した。


「跳んでたら、次の攻撃避けれないよね!」




「今だ!」

 トウヤが叫んだ。

トラップ魔法発動!」




 トウヤの声に反応するように、炎羅とリリィの足下の地面が青く光った。

 鈍い爆発音とともに、リリィの両脚がぐらつく。


「……何!?」


「お前こそ、隙だらけだな!」

 突然のトラブルに動揺したリリィ、一方で、その隙を見逃さなかった炎羅。




 上空からの一閃。




 盾で防ぐ間もなく、リリィは肩から腰にかけて、斬撃を喰らった。




 膝をつくリリィ。




「終わりだな」

 その目の前に立つ、炎羅。

「子どもを斬りたかないけど、動けなくするには仕方ねぇ……」




 勝った、とその場の誰もが思った。


 その瞬間、リリィの後ろに、ナイフを持った少女が現れた。




「なんだ、お前?いつの間に……」


 炎羅が呆気に取られていると……







 刹那、炎羅が腹から血を吹き出して、膝をついた。







 この少女も、俺は見覚えがある。




 いぬいヒカリ。




「リリィ、大丈夫?」


 ヒカリは、リリィに声を掛けた。


 俺が知っているよりも、低く、落ち着き払った声。




「大丈夫だよ。魔力をみれば分かるだろう?」




 さらに、最悪の事態。




 魔王だけが、ダンジョンの奥から、ゆっくりと歩いて戻ってきていた。




「アリスは処理しておいた。今度は、こっちで楽しくやろう」

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