第15話 パニック
俺とトウヤが駆けつけたとき、
そこに群がる
「助けてくれぇ!」
走ってくる俺達を見つけると、
「
トウヤは走る速度を上げ、
2匹の槍を持つ腕を斬り、舞うように体を回転させながら、次々と
最後の一匹が一矢報いろうと空中へ跳び上がったとき、トウヤは最後の一撃を振るった。
空中の
「あ、ありがとうございます……」
「この瓦礫を崩すには、魔力の”溜め”が必要ですね」
「早速ですが、師匠殿の手助けをお願いすることになりそうです。いいですか?」
俺は、即座に返答する。
「もちろん。そのために、来たんだ」
「では、
トウヤは俺に”
「腕が疲れても、絶対に下げないように。魔法が師匠殿に当たります」
”
”印”は、狙いを定めづらい高威力の魔法を撃つ際に利用するものだ。魔法が自動的に”印”の放つ魔力めがけて飛んでくれる。しかし”印”が効力を発揮するのは、誰かが持っている時だけ。
なお、”印”を持つ人間が魔力を使える必要は無い。瓦礫の中の
トウヤは剣を鞘に収め、両手を正面に掲げて目を瞑った。
掲げた掌の前に、最初は小さな光の弾が見えた。
それはみるみる大きくなり、その直径はトウヤの身長よりも大きくなった。
大きな光の弾の下端が地面に触れた。ジュウゥ……という何かが焼けるような音とともに、地面の土が消滅するのが見えた。
「いきます!」
トウヤの合図と同時に、光の弾がこちらへ向かってくる。
いや、このデカさだと“印”ごと俺に当たらないか?俺は心配になり、”印”を腕が引きちぎれんばかりに上へ掲げるが、どうやら杞憂のようだ。光の弾はちゃんと俺の頭上を通過し、”印”の上を通っていった。
光の弾は、通過した領域の瓦礫を飲み込み、消滅させていき、俺と
「ご協力、ありがとうございました。残りの瓦礫は、簡単に除去できるはずです」
トウヤは、俺から”印”を回収すると、
「ケガは無いですか?」
「ありがとう、助かった……」
「だから言ったんだ、俺達に中層は、まだ早いんだって……」
「”でし子”さんの方へ行きましょうか。先ほど救助した方、ついて来れますか?」
トウヤは、もう次の場所への移動を始めようとしていた。アリスの方は?と思い、俺はトウヤから事前に渡された連絡用のスマホを見た。が、アリスから救助完了の連絡は無い。トウヤが、こちらの救助が完了した旨を既にチャットで報告している。いつの間に……
「じゃあ、一旦でし子と別れた場所に戻って、そこからリーダーの説明したルートを……」
「必要ありません」
「えっ?」
「周辺のマップは頭に入っています。最短距離で行きましょう」
さすがトウヤ、すげぇな……
「救助はスピードが命ですからね」
「動画ではアシスタントがいましたよね」
俺は、走りながらトウヤに尋ねた。
「動画では”印”を持つのも、その人がやってて……今日は、来てないんですか?」
「もうとっくに辞めましたよ」
「えっ!?」
「深層の探索中、パニックになって、機材を持ったまま逃げていきました。その後、消息不明です」
俺は驚きで足が止まりそうになったが、トウヤに置いていかれそうになったので慌てて走る。
「た、大変でしたね……」
「なので、他人は信用しないようにしてるんです」
俺達は数分で、アリス達が向かった、
下は、高さが5メートルくらいのフロアで、見下ろすとアリスとリーダー、そして、瓦礫に挟まれた
「あっ、ししょー!」
アリスは、俺達に気づいてこちらを見上げた。
「ダメです!この瓦礫、魔力が混ざってて手榴弾で壊せないの!」
そして、
「私の手榴弾は移動用で、威力を抑えてあるから……!」
状況は、
倒れている
彼女は、血でできた赤い水たまりの中で、倒れていた。
――なんで俺は、ダンジョン探索なんて始めたんだ?
突然、俺の脳裏を疑問がよぎった。
――なんで配信なんて始めたんだ?
今の状況とは、全く関係のない……
――人が死ぬ可能性があることくらい、わかってたじゃないか。
思い出してはいけない、何かを思い出しそうになっている。
――それが嫌だから、目立たず平穏に、楽しく生きることだけを考えてきたのに。
昔、必死で忘れて、やっと忘れたことも忘れられた、悪夢のような記憶を。
――また、自分の手で人を殺すことになったらどうする?
「うわああぁぁ!」
俺は、
「だから言ったんだ!中層なんてまだ早いって!反対しただろ!行きたがったのはお前だけだ!責任取れよ!」
上階から浴びせられる言葉を、リーダーは黙って聞いている。
普段は何か言われたら、すぐに暴言を返していた男が、黙って俯いている。
「何とか言えよ、このうすらバカ!お前がちゃんと考えないから……」
さらに怒りの言葉を浴びせようとした
「感情のままに叫ぶのは建設的でないので、議論をしましょう」
トウヤは、動かなくなった
「まず、この中に治癒魔法を使える人間がいない以上、一刻も早く瓦礫から助け出し、応急処置をして救助を待つのが最善策でしょう」
トウヤは、実に冷静に話を進める。
「しかし、その方の上に乗っている瓦礫、魔力が相当に混ざっている。……僕の光魔法を最大出力で撃っても、破壊には威力が足りません」
「私の手榴弾が、まだ5個残ってるよ。これと同時に撃ったらどう?」
「でし子さんが移動時に使っているものと同威力なら、それでもまだ足りません」
「……俺も、全力で鉄球を振るう。それでも、ダメか?」
リーダーが、自身の武器である鉄球を手に、言った。
「腕がへし折れてもいい。全力で……」
「以前に配信されていた頃から、よほど力が増していない限り、無理ですね」
「!?」
「2ヶ月ほど前まで、配信されてましたよね?2ヶ月で威力が3倍くらいに増していれば、話は別ですが」
「そ、それは……」
「それに加えて、このお仲間の
「……」
「……瓦礫に下手な衝撃を与えれば、その下にいる彼女の命は余計に削られます。無理なら、何もせずに2時間待った方がマシでしょうね」
……俺にできることは、何だ?
魔力が使えない俺は、物理的な力で瓦礫を攻撃するしかない。
しかし、リーダーの鉄球や魔法に匹敵する威力を出すなんて、俺にはとても……
「師匠殿は、何か攻撃手段はありますか?もしくは、何か案は?」
トウヤが、俺を見た。
「師匠と言うからには、高威力の技を持っていてもおかしくありませんが……今まで見た感じ、とてもそうは……」
「ししょーの凄さは、そういうところじゃないよ」
煽るような口調のトウヤに、アリスが言う。
「ししょーは今、考えてるんだよ。余計なこと言って、邪魔しないで」
「……なあ、トウヤ」
俺は、頭をフル回転させながら、トウヤに言った。
「俺が、この上から落下したら、どれくらいの衝撃になる?」
俺は、頭上を指差す。
天井が崩れて、上のフロアがいくつも、露わになっている。
「落下でできるエネルギーも、でし子が操れる。それも加えたら、瓦礫、壊せそう?」
「バカの発想ですね」
トウヤは言う。
「あの位置から下まで、思い通りにまっすぐ落ちられるとでも?」
「瓦礫を壊せるか、って聞いてるんだ」
落下中の自分の体をコントロールするのは、難しい。
俺は、そんなことも知らずに、言ってるわけじゃない。
「可能性があるなら、命を賭けてでもやってみる価値はある」
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