第14話 救助活動

 ある日、友達が「手榴弾を持ってきました!投げたらすぐ爆発します!」と言ってきたら、どう思うだろうか。




 今日のアリスは、出会い頭にそれをしでかしてきた。しかも、その手に典型的な形の手榴弾を握りしめて。これでビビらない奴がいたら、ぜひ俺に紹介してほしい。


「緊急時は、これを使って移動します!」


 アリスはそう言って、ダンジョンに入る前に一度、実践してみせた。

 手榴弾は主に、自分の足下に投げて使うらしい。爆風を能力『支配反撃エクスカウンター』で操作し、一瞬で、信号機よりも高い位置まで飛び上がっていた。

 自身の魔力を使えないため、敵がいない時はこの方法で素早く移動したり、跳び上がったりするのだそうだ。

 戻ってくるときも、落下時の風圧と、地面接触時の衝撃を能力でコントロールし、難なく着地した。

「これがあれば、色々と便利です!」

 アリスは、両手に手榴弾を握りしめて自信満々に胸を張った。







「ししょー!ししょー!!」

 瓦礫の外で、アリスの叫び声が聞こえる。


 身動きが取れないわけではない。ただ、頭の上に大きな瓦礫が斜めに、屋根のように覆い被さっている。這い出る隙間も無い。


「おーい、ここ……」




 バガッ!!




 俺が声を上げたかどうかの瞬間のこと。鼓膜が破れんばかりの爆発音とともに、頭上の瓦礫が爆散した。


「あっ!ししょー!」


 瓦礫が消え去った後、頭上に現れたのは、泥だらけで涙目のアリスだった。


「大丈夫ですか!?」

「ああ、たぶん……」


 さっきの爆発音で耳鳴りは酷いが、自分の体を見回すと、特にケガは無いように見える。手足を軽く動かしてみても、痛むところは無い。


「でも、カメラとスマホがどっかに行っちゃったな」




 俺達がダンジョンの地下31階に到着したとき、大きな地震が起きた。

 揺れで周囲の壁と天井が崩壊し始めたときは死ぬかと思ったが、頭上に大きな瓦礫が覆い被さってくれたことで奇跡的に無傷で済んだ。


天音あまねさんの方こそ、揺れ出した直後に下に落ちてったけど、大丈夫だったのか?」

「はい!下のフロアに落とされたけど、これで戻ってきました!」


 アリスは、にこやかな表情で、右手に握った手榴弾を見せた。

「爆風は全部、能力で操作するので安全です!」




 俺達はまず、上へ戻る階段を探した。揺れのせいで、行きの時に使った階段が崩落してしまったからだ。下調べで、他に3箇所の階段があることが分かっているので、そちらを使おうというわけだ。

 カメラとスマホ以外の荷物は無くしていないが、スマホが無いせいで外の情報が分からない。地下でこれだけ揺れたということは、地上はもっと大変なことになっているのだろうか?

 アリスが頭に着けているモニターは、揺れの途中で真っ暗になってしまったと言う。カメラが壊れたからか、俺のスマホとの通信が途切れたからなのか……モニターが映っていれば、カメラとスマホが落ちている場所の手がかりが見つかったかもしれないのに。


「前に深層で大地震が起きたんですけど、地上に戻ったら震度1くらいの地震しか起きてなかったんですよ。調べたら、ダンジョンの中は魔力のせいで揺れが増幅されやすいらしいんです」

 アリスが教えてくれた。

「だから、今回も外がどうなってるかは分かんないですね……」




 中層に入った瞬間は強い悪寒や不安感に襲われたが、今はさほどでもない。天井が崩落して上階と一部繋がったことで、立ちこめる瘴気や魔力が薄くなっているからかもしれない。




 歩き始めて10分ほどで、別の階段を見つけた。

 降りてきたときの階段と同じで、段はガタガタで全体的にぬめっているが、崩落はしていない。使えそうだ。


 だが、その途中に人が倒れている。


「あれ、生きてる……?」

「声をかけてみます!」


 アリスが率先して、倒れている人に駆け寄った。モンスターが人間を誘い込むための、の可能性もある。だが、攻撃されても心配が無いアリスは躊躇しない。


「大丈夫ですか!?」

「う……」


 ゆっくりと顔を上げた、傷だらけの男の顔を見て、俺は驚愕した。




 前のパーティの、リーダー……!

 俺を最初はカメラ係として誘ったが、配信をやめてからはずっと俺を盾代わりにしていた。

 アリスが俺の弟子になった一件を境に、連絡すら一切取っていなかった。偶然にも、同じダンジョンを探索していたなんて!




「俺は、いいんだ……」

 リーダーは、掠れた声で言った。

「仲間が……」


「見つからないの!?」

 俺は、急いでリーダーに駆け寄ると、尋ねた。

 俺が知る限りでは、リーダーには2人、仲間がいる。回復役ヒーラーの女子と、魔法使いウィザードの男子。どちらも、俺を盾代わりとしか思っていなかったが……


「ふ、二人とも瓦礫の下に……俺じゃ助けられない。誰か、助けを……」


「どこ!?すぐに行くね!」

 アリスが即座に返事をする。


「む、向こうだ。だが、道が複雑で案内しないと……」

「じゃあ、私が背負うから、一緒に来て」


 アリスは手榴弾の爆風で移動できるから、リーダーを背負って移動するのは簡単だろう。


「じゃあ、俺は別行動でスマホを探すよ。連絡して、救助を呼ぶ」




「それは、やめた方がいいですね」


 俺の言葉の直後に、トウヤの声が響いた。


 さらに、同時に近くの物陰から小悪魔ゴブリンが飛び出し、俺に向かって襲いかかってきた。

 しかし、そいつは俺に近づく前に、トウヤの剣技の餌食となった。




「地震が起きても、ここは中層です。でし子さんはともかく、師匠殿では対処に難しいモンスターもいるでしょう」


 トウヤは、小悪魔ゴブリンを斬り捨てると、手早く話す。


「外へは僕が連絡済みですが、到着まで2時間かかります。僕も救助を手伝いましょう。瓦礫に挟まった方の場所、ご説明ください。お二人いるなら、僕とでし子さんで手分けした方が早い」




「じゃあ、俺も手伝わせてくれ」

 俺は、すぐに申し出た。

「たぶん、でし子は爆風ですぐに救助できる。俺はトウヤさんを手伝います」

「あれ?僕のこと、見くびってるんですか?」

「動画で見ましたよ。人に手伝ってもらわないと、できない大技がありますよね?」

「……よくご存じで。光栄ですね」




「シュウ、すまねぇ……」

 リーダーが涙声で言った。

「俺は、お前をいじめてたってのに……」




「え?それ、関係なくない?」

「さあ、さっさと説明してください」

「説明が終わったら、すぐに手榴弾で移動するね!」

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