第2話 合同探索
学校の休み時間。一人で昼食を終えた後。
うとうとしながらイヤホンでラジオを聞いていたら、番組の合間にニュースが流れてきた。
『次のニュースは、相次ぐ被害で話題になっている、ダンジョン内での誘拐事件についてです。道具を使わずに他者を治療できる、いわゆる
はあ……
他の探索者も大変だな。
けど盾にされてる俺は、ひょっとして誰かに
『次は、”他者の思考を読む能力”を悪用し、銀行口座の暗証番号を盗む手口が……』
ふと、右肩にツンツンと、何か柔らかいものが当たる感触がした。
振り向くと、隣の席に座っている女子が、俺の肩を指でつついていた。
何かを言っている。俺は、耳からイヤホンを外した。
「今日の放課後、一緒にダンジョン行こうよ」
ヒカリが、小声で言った。
「えっ?でも……」
言いながら、俺は前の方の席に座っている
「場所教えるからさ、偶然一緒になった、って感じで合流しよ。何度も一緒に探索してれば、きっとアリスもパーティに入れようって気になるよ」
「そ、それは……」
それは、かなり魅力的な提案だ。
だが、今のパーティの奴らが許してくれるだろうか?
……いや、絶対に無理だ。
俺は既に一度、パーティを抜けようとしたことがある。黙って他のパーティの探索に参加した。
次の日、俺が参加したそのパーティは奴らの襲撃に遭い、半分は病院送り。
俺も、その時に受けた傷の
「ごめん。放課後は別の用事が入ってるから……」
ヒカリとアリスがどれだけの実力者かは知らないが、俺のせいでキケンに
「そう、残念」
ヒカリは、気怠げに頬に手をついた。
「気が変わったら、いつでも声掛けてね」
放課後、俺は普段よりも学校から遠い場所へ呼び出されていた。
最近見つかった新しいダンジョンに入るらしい。
「今日のダンジョンは情報が少ない分、収穫も沢山見込める。気合い入れていくぞ!」
「おー!」
リーダーの発破に、
「炎を吐いてくるモンスターが多いらしいって噂もあるぜ。『盾』が大活躍できそうだな」
「盾、ちゃんと働けよ!おら返事!」
「は……」
「よし、行くぞ!」
リーダーが勇み足でダンジョンの中へ入っていくと、
今日のダンジョンは、入った直後から異様な雰囲気を醸し出していた。
入ってすぐの細い通路は、床、壁、天井の全てが雑草に覆われている。そして、それをしばらく歩くと、10方向もの通路に繋がる分かれ道になっていた。
「正面の階段は足跡が残ってる。戻ってきてる足跡もあるから、キケンな
床を観察しながら
「逆に右の階段は全く足跡が無い。ってことは……」
「まだ取られてない宝が多そうだ!よし、行くぞ!」
「えー?
「よし、『盾』!前に来いや!」
リーダーが、最後尾の俺の方を振り向いた。
はあ……やっぱり、そうきたか。
「
「はい……」
俺はパーティの先頭に立ち、懐中電灯で床を照らしながら進む。しかし階段も雑草で覆われていて、
「おい!歩くの
俺が前に出たことで最後尾になった
「いちいち床見ながら進むんじゃねぇ!てめぇが踏んで罠にかかるように、そこら中踏み荒らしながら進みゃいいんだよ!」
指示に従わないと後で殴られるが、俺は今回だけは従わなかった。だって、即死罠踏んで死にたくないし。
「チッ!」
階段を降りきって開けた場所に出た後、
続いて罵倒か暴力がくると思ったら、意外にもそうじゃなく、彼は正面を見て呆然としていた。
目の前には、森林が広がっていた。
「外に出た……わけじゃないよな」
リーダーが呟く。
俺は思わず、上を見た。天井は見えないが、見渡す限り真っ暗。外に出たなら、快晴の空が広がっているはずだ。
「こんな真っ暗なのに、木が生えるのかしら……?」
「迷わないようにするの、めんどくさそうだな」
パーティメンバーは、口々に感想を
「まっすぐ歩けば問題ねぇ!さっさと行くぞ!」
リーダーは、相変わらず威勢だけいい発破をかける。
「いや……」
「『盾』、うるせぇぞ!さっさと前歩け!」
リーダーは俺の言葉を遮って、先を進むよう促す。
いや、まっすぐ進んでるかなんて、モンスターや罠に遭遇したら、すぐに分からなくなるぞ!?
「歩かねぇなら……ん?」
苛立つリーダーは、上空に明かりを見つけて喋るのを中断した。
「ねえ、あれ……」
明かりは、木々の上を飛ぶドラゴンの口から漏れ出ている、炎だった。
上の方にいるから、ドラゴンのサイズはハッキリとは分からない。ただ、なんとなくのサイズ感で言えば……
「その辺の家よりデカいぞ、あれ……」
あんなサイズのモンスターは、普通のダンジョンなら最深層……地下100階以降にいるか、いないかだ。
ましてや、中層……地下30階に2,3回入ったことがあるだけの俺達にとって、あんなドラゴンは見るのも初めてだ。
巨大な翼を広げて飛んでいたドラゴンは大きな口を開くと、遠くにある大きな岩に向かって火球を吐き出した。
火球は2階建ての家くらい大きな岩を丸ごと飲み込み、轟音と共に消し飛ばした。
跡には、メラメラと残り火が燃えるだけで、岩は跡形も無い。
「きゃあああ!」
「ムリムリムリ!あんなのに襲われたら死んじゃう!あたし帰るから!」
彼女はそう言い、降りてきた階段へ一目散に走る。
「おい、うるせえぞ!あのドラゴンに目ぇつけられたら……」
注意しかけたリーダーが、血の気の引いた表情を見せた。
さっきよりこちらへ近づいたドラゴンの顔が、こちらを見ている。
正確には、俺達より少し後ろ。
声を上げた、
「ぎゃっ!」
短い悲鳴が聞こえた。見ると、
上空が、明るくなった。再びドラゴンを見ると、その大きく開いた口内で、青白い炎が太陽のように輝いている。
「
「できるわけないだろ!あんな規模の魔法、俺が撃てると思う!?」
リーダーと
その間、俺は
「早く逃げよう!」
俺はバカだ。
さっきの規模の炎だ、ここまで近づかれた時点で、どこへ逃げたって炎は避けれない。
頭の中で分かってるのに、
この子に覆い被さって炎を受けたら、この子だけでも助かる可能性はあるだろうか?
いや、無いか……
こんなところで死ぬのかよ、俺。
昼にヒカリの誘いに乗ってたら、死なずに済んだかな?
あーあ、俺、マヌケだなあ……
ドラゴンの炎の明るさで周囲が照らされる。
俺は、死を覚悟して目を
だが、閉じかけた目に映り込んだ。
階段を駆け下りて、しゃがみ込んだ俺の背中の上を飛び越えていく人の姿。
俺は目を開いて、振り返った。
ドラゴンの口から放たれた、大火球。
その前に立った、一人の少女。
火球は少女に触れるか否かのところで、その進行方向を……
真逆に変えた。
特大の火球は、さらに大きさを増しながら、それを放ったはずのドラゴンの体を包み込んだ。
鼓膜が破れんばかり、苦しみの
そして、森の中へ落ちていった。
「あらら、山火事にならなきゃいいけど」
呆気にとられてその場に座り込む俺と
その少女は……
「
「あれー!
俺を見ると、ヒカリは嬉しそうに言った。
ってことは……
さっきドラゴンの炎を跳ね返した少女を見た。
マスクをした少女。やっぱり、
「あれくらいのドラゴン、余裕だよ。私達、S級探索者だから」
ヒカリは、得意げに言う。
「やっぱり、私達と一緒に探索しない?」
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