配信エンジョイ勢が弟子(超Sランク女子高生探索者)とはじめるダンジョン攻略配信
ぎざくら
第1話 タテ男、桜坂シュウ
有名になりたいわけじゃない。
ダンジョンを真剣に攻略したいわけでもない。
俺がダンジョン攻略配信をしたい理由は、流行りのものを友達とやって、盛り上がりたいからだ。
だから、パーティに誘われた時は嬉しかったし、二つ返事でOKした。
今思えば、これが人生最大の過ちだったと断言できる。
「おい盾!おい!」
パーティリーダーが、不機嫌そうに叫ぶ。
『盾』とは、俺のことだ。
「大技を使う!俺の前に立て!」
また始まった……
「は……はい……」
「あ!?ちゃんと返事しろ!」
「は、はい!」
「元気に返事してる場合か!さっさと来いボケ!」
このやり取りを見ながら、リュックを背負った
しかしその直後、彼女は周囲を見回し、その
俺達を円形に取り囲むのは、10匹近くの巨大な蜂。1匹1匹の体躯は成人男性ほどで、臀部から槍のように太い針が伸びている。あんな針で刺されたら、体に風穴が開くことだろう。
本来は、ダンジョン中層にいるモンスター。出口に近い現在地で現れるはずはない。が、どうやら、俺達についてきてしまったようだ。
「スイング・クラッシャーを撃つ。チャージは10秒。盾、今日は逃げるなよ」
リーダーの背後は、
俺のダンジョン探索時の役職名は、
その名の通り、必要な時に仲間の盾となり、敵の攻撃を受け止める……いや、仲間の代わりに喰らう役職だ。
俺は、言われるがまま、リーダーの前に立つ。
2,3匹の蜂が、リーダーが力を溜めているのに気づいたのか、極太の針の先をこちらに向ける。頼む、それを刺しにくるのだけはやめてくれ。俺が死んでしまう。
「スイイイイング・クラッシャアアァァ!」
リーダーが俺の後ろでバカでかい声を上げた。俺の耳元で叫ぶせいで鼓膜が破れそうだ。だが、その音量に見合った威力の技が放たれた。
リーダーが叫びながら振り回した大玉の鉄球は、周囲の巨大蜂を次々となぎ倒し、すべてを叩き潰した。
リーダーの能力は
敵が一掃されてホッとした直後、俺は左の二の腕に鋭い痛みを感じた。
「いたっ!?」
驚いて左腕を見ると、腕を抉るような傷痕が。そして、カランと乾いた音を立てて、何かがダンジョンの硬く冷たい床に落ちる。
極太針の先端だ。さっき蜂を潰した時に、折れて飛んだのだろう。
「痛そう!大丈夫!?」
「すぐ治すわね!」
彼女は、魔力を傷口に送ることで自然治癒力を高め、傷を超短時間で塞ぐことができる。
「あ、ありが……」
彼女の方を振り向きながら言いかけたが、俺は口をつぐんだ。
彼女が治したのは俺じゃない。
隣にいる
「ありがとー!助かるぅー!」
彼は陽気なノリで礼を告げる。
こんなだが、彼は魔法で敵を攻撃できる分、魔力が使えない俺とは扱いが全く違う。
「じゃあ、ここらでゲットしたアイテムを整理しようぜ。金貨は山分けな」
リーダーは床に荷物を広げ始めた。
「やったー!新しいコスメ買えるー!」
「今回の収穫は6枚だから、ちょうど2枚ずつに分けれるな」
このように、暗黙の了解で俺への報酬はゼロ。
いつもは黙っているが、今日は負傷を無視された怒りもあるので、文句を言いたくなった。
「あの……」
「あ?」
「たまには俺の分が、あっても……」
「あ!?何言ってんだ、てめぇ!」
なぜか、俺の方がキレられた。
「お前は『盾』だろ!?道具に金をやるバカが、どこにいるってんだよ!?」
「す、すいません……」
勢いに押されて、俺はつい謝ってしまった。
「仲間とダンジョン探索するのが好きなんだろ?」
「無能力なのにダンジョン探索させてもらえる。それ自体が、お前の報酬だろ?」
その後3人は、和気あいあいとアイテム整理をし、ずっと黙って俯いている俺を置いてダンジョンの出口へ向かって歩いて行く。低層階だから、もう盾は必要無いということだろう。
「また必要な時には呼ぶからな!」
最後にリーダーは、俺にこの一言だけを残して去って行った。
俺達は、最初はダンジョン探索配信をしていた。その当時、俺は盾じゃなく、撮影係として連れられていた。アイテムや配信で得た収入は、俺にも分け前があった。
俺が誘われた当時、既にパーティはなかなかの実力があった。高校生探索者では1割に満たない、ダンジョンの中層に到達しているパーティだったのが、何よりの証拠だ。
実力に加えて、リーダーの派手な立ち回りにより、配信チャンネルは一度は人気が出た。だが、それに味を占めた3人は、過激な配信を増やしていき……
ついに一度の失言を発端に炎上。以来、配信はやめてしまった。
それから、撮影係として役に立たなくなった俺は『盾』を命じられ。
人として、扱われなくなった。
こんなことなら、チャンネルに人気なんて出なければよかったのに。
俺は、仲間とダンジョン探索できるだけで、それを一緒に配信して盛り上がるだけで、十分楽しい。
趣味でやりたいだけだから、本当は報酬だっていらない。
ただ、対等な関係で一緒に冒険できる、友達がほしい……
ダンジョンで一人立ち尽くしていると、奥の方から足音が聞こえてきた。
見ると、こちらへ歩いてくる、2人の女子高生の姿があった。
「あれ?あそこにいるのって……」
片方の子が、俺を見て指を差す。
「同じクラスの子だ!何やってるんだろ?」
そして、俺の方へ駆け寄ってきた。
「わっ、すごいケガ!」
俺の左腕の傷を見ると、彼女は悲しそうに眉を
みるみるうちに、傷が塞がっていく。
彼女は俺と同じクラスの女子、
ダンジョン探索してるとは、知らなかった。しかも、こんな高性能な治癒能力を持っているなんて!?
「一人で探索してたの?」
「あ、うん。……いや」
格好つけて『一人だよ』と言おうとした。けど、俺を案じるヒカリの顔を見て、気持ちが変わった。
久しぶりに触れた優しさに、甘えたくなってしまった。
「仲間がいたんだけど、先に帰っちゃって」
「その後にケガしちゃったの?」
「いや、ケガを見ても無視して……」
「ひどい人達だね」
ヒカリは、俺の境遇を察するように言った。
「そんなパーティやめて、私達と一緒に……」
「ダメだよ、ヒカリちゃん」
ヒカリと一緒に歩いていた女の子が、いつの間にか俺の目の前にいた。
「私達が行く深層部は、キケンなんだから」
彼女も、俺のクラスメイトだ。
名は、天音アリス。
いつもマスクをしていて、素顔を見せたことがない。
表情はわからないが、冷たい目線を俺に送っている。
「えー!?」
「えー、じゃないの!」
不満げなヒカリに、叱るような口調のアリス。
「だって、アリスの能力なら深層部だって余裕でしょ?」
「人を守りながらは、大変なの!」
「でもこの子、ケガしても無視されてるんだよ?可哀想じゃない?」
「んー……」
アリスは、ヒカリの説得の前に口をつぐんだ。
が、少し思案した後。
「私、優秀な人しか仲間にいらないの」
アリスは、冷たく言い放った。
「今の仲間が嫌なら、他のパーティ探して」
「アリスのケチー」
「ほら、もう治療終わったでしょ!帰るよ!」
アリスはヒカリの腕を掴み、引っ張って彼女を立たせた。
「えっと……桜坂くんだっけ?出口まで一緒に行こうよ」
ヒカリは、俺を見て言った。
「アリスも、それくらいならいいでしょ?」
ヒカリとアリスの少し後ろを歩き、ダンジョンの出口へ向かった。
二人は、さっきまで潜っていた深層部の話や、学校の話をしながら、楽しそうに歩く。
こんな仲間と一緒に、配信したいな……
そんなことを考えていると、スマホにメッセージが着信した。
『明日放課後、ダンジョン行くぞ。盾クン、よろしく(笑)』
「はあ……」
画面を見た俺は、思わず大きな溜息をついた。
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