【084】真・とりとめのない話
「ニンジャってパフェじゃね?」
「何を言っているんだお前は。パフェというのは食品、冷たく透き通ったグラスにお好みのアイスを詰め込み、くちどけ滑らかな生クリーム、そこに色どり鮮やかな任意のシロップをかけ、とろけるような白桃や甘味豊かなバナナ、酸味が嬉しいイチゴ……」
「やめろ、食べたくなるだろう。そういう意味じゃない。パフェがどんな食材であれ、パフェグラスに盛ってしまえば何となくパフェとしての体裁が整うように、ニンジャもどんな要素であれ、忍者服に押し込んでさえしまえば何となく忍者だと言い張れるという点で共通していると言いたいんだよ」
「なるほど。しかしその情報量をさっきの一言で伝えようとするのは無理だよ。じゃあどんな忍者がアリだと思う?」
「そうねえ……」
「うーん……」
「…………」
「…………」
『情報入力:黒猫忍者』
「これはかなりいいな」
「猫自体が忍者っぽいし黒猫なら色も合う」
『河童忍者』
「これは本当にいたとしてもおかしくないだろ」
「パワー型とトリッキー型両方ありえる感じ」
『モアイ忍者』
「口からリング吐いて攻撃しそう」
「それはシューティングの世界だけではないかね」
『紅茶忍者』
「これはブリテン忍者、間違いない」
「ブリテン忍法とバリツで戦う紳士忍者と見た」
『松尾芭蕉忍者』
「五月雨を あつめて早し スイトン・ジツ」
「実際忍者疑惑のある人だしよさそうな感じやね」
『深海忍者』
「原潜とかから情報盗み出すやつ」
「陸に上げると水圧差で爆発四散しそう」
『未確認飛行物体忍者』
「忍者だって確認されてるじゃん」
「その時点で物体という呼び方もふさわしくなくなってるし」
『ピアス忍者』
「忍者の癖に個性出してどうするのよ」
「念力的な力で敵の体にピアス撃ち込むとかかぁ」
そこで一度スイッチを切った。どうもこのテーマからはアイディアが湧いてこない。次回作に繋がる発想が欲しいのだが。
前作はこの間滅んでしまった。不本意な閉幕で、つらかったので直視はしていない。とはいえそれなりに観客はいたし、よくないところばかりでもなかった。拍手だって、あまり大きなものではないにしろ、確かに響いた。
カーテンコールさえ聞こえてくれば、もう一度顔を出し、挨拶をして、次回作の案内ができる。今のところ幕の向こうは静かだが、カーテンコールまで間が開くのはよくあることだ。永遠より長かったとしても、待てないわけではない。それまでに構想だけでも準備しておかなくては。
手の中で万年筆をくるくると回しながら、劇作家は前作のすべてのデータを詰め込んだ雑談マシーンを再起動させる。そして次のテーマとして、「ニンジャとパフェ」に代えて「ひしゃくと鍋焼きうどん」を入力した。
「鍋焼きうどん地獄とひしゃく地獄というのを考えたんだけど」
「なんだそれは」
「鍋焼きうどん地獄っていうのはエッシャーの絵の無限に続く水路、あれにあっつあつの鍋焼きうどんが流れてて、罪人がその中で溺れているわけよ」
「食べ物を粗末にするなや」
「そんでところどころに信号があって、赤信号になったタイミングでうどんが止まるねん。そうすると罪人たちがな……」
ランダムで生成される無駄話は起動させた当人にとっても全く想像がつかない。ひしゃく地獄というのはどういう地獄なのだろう。だが、鍋焼きうどん地獄について話し終わると“二人”は長考に入ってしまった。さすがに無茶のあるテーマだったか。しばし頭をひねり、助けになりそうなアイディアを打ち込んでやる。
『情報入力:ひしゃくの中に日本酒が入っている』
「ひしゃくの中に日本酒が入っていて、それを掛け合うわけよ」
「地獄っぽさが無いなあ。熱湯とかの方が地獄っぽいけど」
「いや、日本酒がこう、水滴になって飛び散るだろ。それが……」
中身のない雑談を半ばこもりうたのように聞きながら、次回作の構想を練る。次は、河童を非実在にして代わりに黒猫を実在させようか。エッシャーと松尾芭蕉は連投させよう。深海にはもっとたくさん生き物を配置した方がいいな。ひしゃくの星座とかあると面白いかも。それと……。
(せっかくだから、舞台自体の形を変えてみるか)
たとえば、水滴の形……球状とか。ちょっとチャレンジブルだが、自分の予想を超えた展開もあるかもしれない。手元のメモ用紙に万年筆で「球状の舞台」と書きつけ、劇作家は満足そうにひとつ伸びをした。
ひしゃく地獄の話はまだ続いている。
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(本文の文字数:1,792字)
(使用したお題:「永遠」「鍋焼きうどん」「ニンジャ」「河童」「黒猫」「うた」「日本酒」「未確認飛行物体」「モアイ像」《叙述トリックの使用》「ひしゃく」《飯テロ要素の使用》「念力」「万年筆」「ピアス」「カーテンコール」「紅茶」「深海」「赤信号」《和歌or俳句の使用》)
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