【013】新解釈・河童の雨ごい
件名:230789654-32-67イ
河童の雨乞い(議事録)
日時:●●年●月×日 10時(巳の刻)
場所:山梨県 大菩薩峠 地下11352階 第2裁定室
主な出席者:閻魔大王、被告人(河童)、黒猫(記)
(
“ 昔、森の中に小さな村と古い沼があった。その古い沼には一匹の河童が住んでいて、村人たちに悪さばかりしていた。
ある日、旅のお坊さんが河童の住む沼に訪れて、なぜ悪さをするのか聞いてみた。河童は、自分がこの姿で生まれてきたことを憂いて暴れまわっている、と答えた。(中略) 村では何日も日照りが続き、村人たちの雨乞いもいっこうに効果がなかった。そこへ、何を思ったのかあの河童が現れて、自分にも雨乞いをさせてくれ、と頼んだ。村人たちはワラをもすがる思いで、河童にも雨乞いをさせた。河童の雨乞いは何日も何日も続き、その間、水も飲まなければ食べ物も食べなかった。
数日後のある日、空にゴロゴロと雷鳴がとどろき、大粒の雨がポツポツと降ってきた。雨はみるみる激しさを増し、やがて滝のように降り始めた。しかしその時の河童はもう、雨に打たれながら死んでいた。(以下略)“
閻魔大王
「
被告人
「悪事といえば、一人の村人を殺めた事です。話しても良いですか。——ありがとうございます。
私は、物心ついた時には沼にいました。両親も同族もおりませんでした。
永遠に一人と覚悟をしたものの、沼で生活するうちに、外の様子を知りたい、誰かと話したいという気持ちが押さえられなくなりました。
そこで、通りかかった村人の一人に、沼の中にある我が家に来てもらう事にしたのです。
我が家に来て貰おうと、村人の手を取った時の絶叫は、今も耳に残っております。
あまりに嫌がるので、さすがに悪い事をしている気がしました。しかし、誰かを招いて話をすることの何が悪いのでしょう。
暴れる人間を、どうにか我が家に連れてきたものの、既に息をしていませんでした。絶叫している時は、もちろん生きておりましたし、水の中でもごぼごぼ言っていたので、大丈夫と思っていたのです。
人間は水や泥の中では生きられないことを、この時初めて知りました。ずっと一人で、事前に知りようがなかったとはいえ、痛恨の間違いでした。息が吸えないと言ってくれたら、すぐに手を離しましたのに……。
村人への悪事と言えば、その一件のみです」
閻魔大王
「陳述書には、“旅のお坊さんが河童の住む沼に訪れて、なぜ悪さをするのか聞いてみた。河童は、自分がこの姿で生まれてきたことを憂いて暴れまわっている、と答えた“とある。何か言う事があるか」
被告人
「ありがとうございます。あの坊さんは、私が悪さをしているとハナから決めつけて、聞いてきました。
確かに私は寂しさの余り、畑で働く村人を、こっそり覗いておりました。
しかしある日、村人に私の姿を見られてしまい、驚いた村人は野菜を落として逃げてしまいました。仕方なく散らばった野菜を集め、通りかかった村人に渡そうとしたら、悲鳴をあげて逃げてしまい……。
それを坊さんに話したところ『それは一般に悪さと言います』と。
なお、坊さんに、この姿を憂いて暴れているとは答えておりません」
閻魔大王
「陳述書によると“河童の雨乞いは何日も続き、その間、水も飲まなければ食べ物も食べなかった“とある。これについてはどうか」
被告人
「水も食べ物も食べなかったのではありません。食べられなかったのです。
確かに私も雨乞いに参加しました。雨乞いに参加した者には、食べ物が与えられたのですが、私には激辛の鍋焼きうどんが与えられたのです。灼熱の水不足の中、誰がそんな物を食べられるでしょうか。ましてや私は両生類に近い存在です。
私は、村人に餓死させられたのです」
閻魔大王
「“お坊さんから、人間になりたかった河童の話を聞いた村人たちは、沼のそばに小さな河童のお墓を立てた“とあるが……」
被告人
「私は、人間と話したいとは思いましたが、人間になりたいと思った事はありません。
自分に酷いことをしてきた人間に生まれ変わりたいと願うほど、性根は腐っていないつもりです。
私が人間になりたいという話は、坊さんの作り話と思われます。
これは推測ですが、あの坊さんは私のお墓は村人に建てさせ、自分は一銭も出していない筈です。
お墓の石をご確認ください。きっとどこかに、坊さんの銘が入っていると思います」
閻魔大王
「本件は、これにて閉廷する。判決の言い渡しは,14日後の■月●日に行う」
(引用元:まんが日本昔ばなし〜データベース〜 http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=61)
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(本文の文字数:1,951字)
(使用したお題:「永遠」「鍋焼きうどん」「河童」「黒猫」)
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