第10話 魔術研究レポート
「まあ、お兄様のおかげで色々と分かった事がある」
ペパーとの決闘後、ルカは部屋に戻り戦闘のフィードバックを行っていた。
ちなみにペパーは最後まで抗い続けたが、途中で気を失って倒れてしまい決闘はルカの勝利となった。
「魔術もしっかり物理法則に囚われる。そこは良いのよ」
現に彼女は燃焼させない為に空気を消して防いでいた。
「問題は何故魔術を使えるのか。これに関しては分からないことだらけ。何せ科学的に証明出来ないのだから」
決闘によって学んだことは多かった。
それでも以前からの問題は解決していない。
「それはどういうことでしょう?」
魔術師が魔術を使えるのは当たり前である、と認識しているスクワールは、疑問を呈する。
「血液の成分をできる限り調べてみて分かったのだけれど、一部私の知らない成分が混ざっている事が分かったの」
そう言ってルカは試験管を揺らす。
机には複数人の被検体から採取した血液が立てかけられており、顕微鏡も更に細かいものが見れるように改造していた。
「彼らが魔術師だったかは知らないけれど、仮にコレが魔術の源である魔力だとするなら、非魔術師の血液にも含まれているのはおかしいとは思わない?」
「どう、でしょう⋯⋯?」
「そこはちゃんと、そうですねって言って欲しいのだけれど⋯⋯」
困ったように苦笑いを浮かべるルカは、空の試験管を持ってスクワールに近づく。
「はい、ちょっとと待っててね」
「どうかされま⋯⋯いっ!?」
軽くスクワールの手首に触れたルカは、肉体を錬成し彼女から血液を掬い取る。
そして即座に止血、採取した血液をすぐさま顕微鏡で観察。
「はいありがとう。不純物は錬成で弾いているから問題無いと思うけれど⋯⋯あ、やっぱりあなたにも含まれてる」
そしてその観察結果に満足したルカは、その仕組みについての考察を深めていく。
「仮にコレが魔力だとして、スクワールが魔術を使えないのは何故? いえ、そもそも何をもって魔術が使えるかを判定しているのか」
そういった装置があるのか、というのはルカ・レシーアの記憶にある。
不思議な魔導具に手を当てる事で己の適性を知る事が出来るものがあるという。
仮にソレが正しいとしても、魔力がスピリチュアルなパワーでは無く存在する物質であるのなら、魔術が物理法則に囚われている事が紐付けられる。
勿論幾つもの飛躍があるものの、それが立証出来るのなら魔術が特殊な個人技能では無く、一般的な技術にまで落とし込む事も可能になるとルカは考えていた。
「⋯⋯可能性があるとするのなら、今の私と同じような⋯⋯うん、そうね。この世界の人間は私の知る人間とは違う箇所があってもおかしくは無いのよね」
そしてルカは次の目標を思案する。
この場所がどのような場所であるか、どのような文明を持っているか、物の相場や何を食しているのか、どのような文化を築いているのか。
この世界に来てはや一日。アクシデントに近いものだったとしても、未知の世界でここまで情報を集められたのは彼女故か。
「ねぇスクワール? ってあれ。どこに行っちゃったのかしら?」
いつの間にか地下工房からスクワールの姿が消えており、ルカ一人になってしまった。
「そう⋯⋯。別に一人でもいいのだけれど」
寂しそうに小さく呟くルカは、スクワールについて考える。
「お母様が与えて下さった専属のメイド。年齢は十、私よりも少し年上だとしても、少し身長は小さめね」
その存在の価値や技能。
「魔術や錬金術は使えなくとも、身の回りの世話は出来そうよね。ちゃんと買い物も出来ていたから読み書きも出来る。ちょっと余計なものも買っていたけれど、そこはご愛嬌かしら?」
ふむ、とひとつの結論を導く。
「キャンパスはそれに適した素材のものがいい派だけれど⋯⋯今回ばかりは白紙のものに感謝かしら」
そしてソレを記録し、再び別の議題について考える。
「そもそも私の脳はどうなっているのかしら?」
ルカは今日の出来事について気になっていた事柄があった。
「例え錬金術や錬成が個人技能だとしても、分子レベルでの操作を意識して処理出来るものなの?」
疑問を抱いたルカは、自分の脳を意識的に細分化し、分析を行う。
すると大脳や海馬といった役割上の器官やあらゆる場所に蓄積された電気信号を、意識的に感じる事が出来るようになった。
「⋯⋯コレ、出来る方がおかしいでしょ。少なくとも地球人類には無理」
地球人類との違いを隈なく探るルカ。
「あぁ、そう。そういう事。ちょっとだけ分かったかもしれないけど⋯⋯これは他の人とも比べたいわね」
そしてルカは右手を広げ、虚空に炎を灯す。そして順々に氷を生成し、風を起こし、電気を帯電させる。
「火、氷、風に電気。魔術でなくとも、錬金術で代用出来る。私はこれでいい。でもそうよね。折角知らない技術があるのなら⋯⋯」
そしてもう一度思案する。
「結局、根っこは変わらないのね」
例え呉島瑠楓がルカ・レシーアになったとしても。
それは肉体が変わっただけであり、中身は変わっていないということは。
「私は今まで通り、気ままに生きていけばいい」
彼女の言う気ままにには、凡百の人類とは一線を画す意味がある。
天才というよりも天災に近く、この世界の文明レベルであれば、価値観や技術を一切合切塗り替えてしまう程。
「さて、次は何をしようかしら」
彼女は思う。未知の多い世界は自身にとって都合がいいと。
「手始めに⋯⋯」
パチン、と指を鳴らして不敵に笑った。
「魔術を汎用技術に落とすとしましょう」
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レシーア邸から少し離れた森の中。複数の男達が潜むように話し合っていた。
「おい、本当にいいのか? 相手は分家とはいえ大貴族の一派だぞ⋯⋯?」
「構わない。そもそも依頼主からは相当な金額を受け取っている、今更引き返す訳にはいかない」
数は二十人前後と非常に多く、それでいて装備は不揃い。
そしてリーダー格らしき鋭い目付きとちょび髭が特長で、身長も高くほっそりした男は鎧や目立った装備を付けておらず、貴族風の格好をしていた。
「でも昼間は誰一人帰って来なかったって⋯⋯」
「それは気掛かりだが⋯⋯」
そう、彼らは街でルカを襲った傭兵団。その本隊である。
「かの大魔術師、チェルノ・レシーアの相手は兄貴に任せるとして⋯⋯他に相手の戦力は?」
「分からない。強いて言うなら、ルカ・レシーアは気をつけろと言っていた。特徴的な服装の少女だからわかりやすいとも言っていたな」
不明点が多い、と感じた傭兵団の面々だが、リーダー格の男には信頼の目線が向けられていた。
「安心しろ。お前達は他の相手をし、強敵は私に任せてくれればそれでいい」
「兄貴⋯⋯!」
「レシーア邸の地図は依頼主から預かっている。今から一時間後に開始だ。やるからには必ず成功させるぞ」
「「「了解!」」」
つまるところ、彼らは今からレシーア邸を襲撃する予定なのだ。
ペパー、チェルノ、そしてルカ。
更には複数の傍付き達。彼らはそれを知る由もないだろう。
知る由もないはずなのだ。
そして襲撃は成功し、多くの死者が出る。
チェルノは三属性を扱える魔術師であり、それはこの国の中でも重宝すべき貴重な存在だ。戦闘にも秀でており、凡百の傭兵に負けるはずが無い。
ペパーも子供ながら二属性の魔術を扱える。半端な存在であれば勝てる才能がある。
それ故に本来であれば痛み分けのような形で、両者大きな被害を出した上で、チェルノが傭兵団を追い払う事が出来るのだ。
更に元も子も無いことを言えば、本来の流れであれば傭兵団がここに来ることも無かったのだが。
しかしそれはルカが瑠楓ではなかった場合の話。
この後、瑠楓という変数はこのレシーア邸襲撃事件を予想だにしない方法で終わらせるのだ。
そして彼女はこう思うだろう。
面白くない、と。
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