第6話 武器を作ってみよう!

 


「お、お待たせしました」

「あら。待ってないわよ。それより私が注文したモノは手に入った?」

「はい、契約書もこの通り」


 武器屋の前でスクワールと合流したルカは、領収書の内容を確認し、残った金貨を一瞥する。

「⋯⋯金属は希少なのね」

「ルカ様がご所望の量の鉱物やガラスとなると、非常に高価になってしまいますね」


 ルカは今回の買い物で粗方機材を揃えたかったのだが、一部は後に回そうと考える。

「ふぅん⋯⋯が無ければ、もう少し買えたかもしれないのに」

「無駄遣い⋯⋯ですか?」


 ルカはその問いかけに答えず、先程の路地へと馬車ごと連れて行く。

「これは?」

「私の収穫。帰ったら使うから、協力して運びましょう? 私じゃ重くて一つも持てないのよ」


 そして、有無を言わさずにスクワールとルカは二人で四つの木箱を乗せる。

「⋯⋯重量ギリギリですね」

「仕方ない、で割り切るべきかしら。この馬車ならもっと乗せれそうだけれど」


 そう言ってルカは馬車に戻ろうとすると。

「つかぬ事をお聞きしますが、こちらは何が入っているのでしょう? 箱の底が湿っていますが」

「ん? まあ想像は着くけれど⋯⋯」

 そう言ってルカは木箱を開けると、隣から覗いていたスクワールは唖然とした。


「⋯⋯排尿や脱糞は特に縛っていなかったから、仕方ないわね」

「ル、ルカ様⋯⋯これは⋯⋯?」

「被検体。後で使うのよ。⋯⋯あら? 血流が止まっているのにあなたの手足はまだ生きてるのね。あれから一時間は経過したはずなのに⋯⋯」


 その時間があれば本来であれば血流が止まり、手足が死んでいてもおかしくは無い。

 またひとつ、地球人類とは違う現象が起きていることに対し、ワクワクが止まらないルカ。

「どうやって、これを⋯⋯?」


 スクワールは動揺しつつも、ルカに尋ねる。

「どうって言われても、物体の形状変化は錬金術の基本じゃないの?」

 そう言って木箱から取り出した腕を、手首から二つに切り離した。


「わ、私は魔術も錬金術も使えないので存じませんが⋯⋯」

「⋯⋯その思考は良くないわ。むしろ、使えないからこそ知識をつけるべきなのに⋯⋯」


 ボト、と手のひらが地面に落ちた音が、遠くの喧騒に混じること無く小さく響く。

「ここから切り離したとしても、神経が繋がっていないから本体に影響は無い。うん、ここは一緒なのね」


 疑問を浮かべつつ、箱に戻して馬車に乗る。

「早く行きましょう? まだやることがあるもの」

「か、かしこまりました」

 ぎこちなくトコトコと走るスクワール。


 そしてほんの二、三分で武器屋に到着。鎧のマネキンが店の前に立ち、ガラスの窓からは剣や盾の展示が見える。

 外観はそれなりに大きく、地球のコンビニ寄りも一回り大きい。人の出入りも多い部類に入り、その盛況ぶりがルカにも伝わってくる。


「スクワールはどうするの?」

「私は衛兵が管理する休憩所に馬を置いてきます。すぐ近くなので然程かからないかと」

「了解。私は先に入ってるわ」


 ルカが店に入ると、そこはお洒落と言うよりかはすこし薄暗く、男臭い印象のある場所だった。

「んでよぉ。あそこの飯が美味くてな⋯⋯らっしゃい!」

 店の奥では筋肉質でスキンヘッドの店主と金髪のツンツン頭の男が世間話をしており、店主がルカに気付いて声を掛けてくる。


「おん? なんだ嬢ちゃん? 不思議なカッコしてっけど、貴族様か? 生憎ここは嬢ちゃんみたいな上品なのが来るような場所じゃ⋯⋯」

「そんな事ないでしょ。貴族だって武器マニアみたいな人がいてもおかしくないわ」

「マニア⋯⋯ってなんだ?」


「⋯⋯。ひとつのことに熱中する人の事。この場合はコレクターかしら。要するに、武器を集めたり眺めたりする貴族がいてもおかしくは無いって言いたいの」

 そう説明しながら、ルカは店内を見渡す。


「ほぉん、それもそうか。で、嬢ちゃんはそのマニアってヤツか?」

「確かに。言い得て妙ね。私の場合は指図め知識マニアと言ったところかしら。たくさんのことを知りたいのよ」


 店内には多くの人がおり、地下にも続いているらしく広々としているように見え、喧騒も多い。

 商品は剣や鎧、槍や弓。地球では過去の産物だが、見慣れた武器が多く置かれている。


 が、着目したのはそこでは無い。

「この金属⋯⋯いえ、生物の骨ね。削って武器にしているの。金属に関しては⋯⋯鉄、鉛。持ち手の素材は皮。基本は牛革かしら?」


「正解だ嬢ちゃん。まだ小さいのによく知ってるな」

「知識マニアだもの。これくらいは当然よ」

 そう言ってルカは店主に振り返る。


「ねぇ、ここに工房はある? それともただ売り物を売るだけ?」

「んあ? あるっちゃあるが、どした?」

「少し使ってもいいかしら? それと鉄を少し買わせて貰える? お代は少し弾ませてもらうわ」


 ほぉん、と少し面白そうだ、という笑みを浮かべた店主は。

「ははっ、貴族のお嬢様がなに企んでんだ、オレにも見せろ。おいアディ! ちょっとの間店番変われや!」

「は? なんだよ急に⋯⋯まあいいけどさ」


 アディ、と呼ばれた金髪の男はルカと店主が話している所から遠ざかっていたのだが、店主の呼び掛けに応じて戻ってくる。

「この貴族の嬢ちゃんがなんか武器作るんだとよ。ちょっとみてぇから変わってくれ」

「はいはい、終わったら呼んでくれ」


「貴族の嬢ちゃん、って呼び方はなんかイヤね。ルカ・レシーア、ルカって呼んでくれると助かるわ」


 と、ルカが名乗ると目の前のふたりは驚きの表情を隠せずに口を開ける。

「レシーア、ってここ一帯の領主様じゃねぇか!」

「嘘だったら、どんな罰喰らうか分からないぞ?」


「えぇ⋯⋯まあ、そうね。正真正銘レシーアよ。私は詳しく知らないけれど、分家らしいから本家とは違うみたい」

 レシーアの名前を気軽に使うと面倒事になりかねない、と少し考えを改める。


 面倒事と言っても些細な事だが。

「知識マニアのルカでも、知らねぇことがあんだな」

「私まだ五歳よ? あなた達との歳の差幾つだと思ってるの?」


「オレぁ二十六」

「俺は二十二」

「あら二人とも意外と若いのね」


「「お前程じゃないけどな」」


 反射的に来る男二人のツッコミにルカは小さく笑う。

「ふふっ⋯⋯。それじゃあ店主さん、案内して下さるかしら?」

「おうよ」


 こうして案内されたのはレジの奥。格安一人暮らしマンションで借りられるような部屋に、所狭しと工具や作品が置かれている。

「これはあなたが?」

「おうよ。この剣よく出来てるだろ?」

「ええ。でも少し狭くないかしら?」


 ルカの個人的主観だが、作業スペースは広くてものが少ない方が好みである。

 こうして持ってこられた金属を使い、武器を作る事に。


「作るなら銃かしら。持ち運びのしやすい拳銃、ARは重たいもの」

「銃?」

「今から作るから見ててちょうだい」


 そう言って、ルカは鉄の塊に手を付け始める。

「私は兵器ブローカーでは無いけれど、銃に関してはそれなりの知識があるの」


 ルカは手際よく金属を変形させ、少量ずつ取り出していく。


 バレル、フレーム、トリガーガード。


 シリンダー、ハンマー、グリップ等々、大小様々な主要パーツ。


 それら全てを結合させる為の小さなネジ。


 細かな作業だが、分子レベルで物体を認識し、操作出来るルカにかかればこの程度はできて当然の事。


「ふぅ」


 そして、それら全てを結合させた後、ライフリングを錬成術で刻み、細かな微調整を行えば。


「完成ね」


 そこにあったのは、大口径の五発装填リボルバー拳銃。


 この時代には全く相応しくない、人類の英智であり、暴力の結晶とも言える兵器が生まれてしまったのだ。


 しかしながら、店主はソレの恐ろしさを知らない。

「すげぇな、流石錬金術のレシーア。にしてもなんだぁこれは?」

「さっき言ったでしょう、銃。高速で鉛の弾を飛ばし、相手を攻撃する武器よ」


 と、説明してもイマイチ分からないのが表情を見て理解出来た為。

「なら、コレを試せる場所を用意してくれる?」

 そう言いながら、テキパキと弾丸を作成。


 金属でケースやコアを、虚空から火薬を生成し、一瞬で50口径の大型ライフル弾を生み出す。


「なら下の闘技場なんてどうだ?」

「あら。ということは人相手にコレを使っていい、って事かしら?」

「おう。実力者が多いから、ルカの思った通りにいかなくてもなくんじゃねえぞ?」


 と、言われたルカは一瞬だけ頭を回す。


 ルカは戦闘狂という訳でも、血が好きという訳でもない。


 先程の路地の一件は、あくまでも必要だったから殺しただけであり、今回もし殺しを行えばそれは無駄な殺傷。


 人的資源の大切さはルカも理解している。


 その上で、必要な項目を並べ、比べていく。


 その結果。


「わかったわ。いいでしょう。但し一戦だけね」

「いよっしゃ! 気張ってけよ!」


 そう言って店主はこの場を離れた。


「人に使ってもいい、ね」


 初めは実践テストのつもりだった。


 が、それが対人戦へと変化した。


「後で行う実験がひとつ減りそう。でも物事は効率のいい方がいいわ」


 と、言いながらも楽しそうに小さく笑うルカ。



 実験は楽しくやるべきだ、と。少しの遊び心が騒いで仕方ない。のかもしれない。


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