最終話

「ううん、今は落ち着いているかな。一年前は本気で悔しかったけど」


 複雑そうな表情をしている少女つばき


「……だよな。俺もそうだ。あの時助けられたらな……」


 彼は後悔しながらも明るく言葉を話す。


「でも、あいつならこう言うだろうな『俺を助ける暇があったら他の人を助けろ』と。そんな感じがするんだ」


 前向きな言葉だ。それを聞いたつばきは安心した。


「えぇ……そうね。惺夜くんなら言うわ」


 二人で話していると、凪が話を割り込んでくる。


「おやおや〜。僕を置いてきぼりにして勝手に話を進めないでくれるかい?」


「もちろん、あの時は天羽さんにも感謝しています」


「あの件のことかい? それは西園寺さんが頑張ったからだよ」なぎはにっこりと笑う。


「いえいえ、私の自己犠牲の考えを改めさせたのは、紛れもなく天羽さんですから。その説教がなかったら私は……」


「いいってことだよ。西園寺さん〜。僕も君がいなかったら全滅していたかもね〜。もちろん司咲くんにも感謝しているよ」キザ野郎はニコニコと二人の顔を見る。


 片腕を失った少年はフッと笑みをこぼれる。


「ありがとうございます。私も不甲斐ない活躍ですが、頑張りました。時間稼ぎ程度ですけど……」


「まぁみんな命に別状がなかったから結果オーライだよ」


 現役総長はそう褒めると、つばきはとある約束を思い出す。


「ええ、そうですね。そういえば約束した天羽さんとデートしていませんが、今度しますか?」

「んー? デートは去年の夏休みしたじゃない? みんなと連れてさ」凪はすっとぼけるように言葉を話す。


「そうだよ、つばき。まさか天羽さんがつばきだけじゃなく、私や伊藤先輩を誘って行くだなんて」つかさは去年のデートの約束を説明する。


「もしかしてダブルデートのつもりだったかもね」つばきはウブな少年をからかうように煽った。


「な、な、なんで俺……いや私が伊藤先輩のこと好き前提に言っているんですか! 言っときますが自分は先輩として尊敬しているだけです」


「ふふーん、からかっただけだよ。いつも惺夜くんといた時散々いじったんじゃない〜。そのぐらいいいでしょう?」つばきはニヤニヤと笑顔で言っている。


「うっ、痛いところ突かれる……。ところで天羽さんどうしてわたしたちを誘ったんですか?」


「うーん、別に僕と西園寺さんのデートは、仕事をスッポ抜かしていつでもできそう。だけど、伊藤さんと司咲くんはシャイ同士だから、デートできなさそうだなと思って誘ったのさ。僕なりの優しさだよ」


 凪は質問した少年に向けてウインクをする。


「優しさって……! 天羽さんもからかうんですか?! なんでそういうことになっている……」


 司咲が話していると、つばきはだれかを発見し、呼びかける。


「あっ、伊藤先輩じゃないかしら? おーい、伊藤先輩ー」


 その言葉に焦る司咲。


「みんなおはよぉ〜。あれ朝霧くんどうしたの? そんなに慌てて」


「あれだよね。伊藤先輩可愛いから、僕の心臓がバクバクだよ。と内心思っているんですよ〜」


 クスクスと笑うつばき。


「そんなこと思っていません! 伊藤先輩、私、先に行きます!」と早歩きで飛鳥の横を通る。


 それを追いかけるかのように伊藤先輩はついていく。


「待ってー。朝霧くんがボクのこと好きってことは知っているよ〜。でもごめんねー。まだ恋人と思えないんだ。弟って感じはするけど」


「伊藤先輩もそういうことを言って! だから私は人として尊敬しているだけですから、恋愛対象だと思っていませんが、何から何までみんな勘違いして!」

 片腕を無くした少年は逃げるように走っていった。


 二人はどんどん離れていき。残ったのは凪とつばきだけだった。


 刹那に沈黙が訪れる。その時間は彼女によって打ち砕けた。


「去年のデートの話。本当は私と二人っきりになるのが嫌だったんでしょう」


「……バレちゃった? 流石だね、西園寺さんは」


「デートの約束の前に、司咲くんたちを誘ったときは、おかしいなと思ったんですよ。もしかして、まだ、私のことをモカちゃんだと……」


「……うん。あんまり考えないようにしていたんだけど。脳裏の鉄格子トラウマがそう言ってくるんだ。モカと西園寺さんは似ているから同じ目に合うぞ……と」


 頭を少しかく偽りのキザ野郎。


「襲撃事件に言ったじゃないですか、私とモカちゃんは似て異なる違う人物だと」


「そうなんだけどね。どうもそれが取れなくて。だから、西園寺さんを助けられそうな、司咲くんを誘ったんだ。もちろん、その子が好きそうな伊藤さんも連れてね」


「司咲くん、口ではそう言っているけど伊藤先輩好きですからね」

 飛鳥に恋していそうな少年の話で会話が進み、彼女は笑みをこぼす。


「……やっぱり、西園寺さんは笑顔が似合うね。僕の心も安心するよ」現役総長はホッとした顔をしていた。


「ふふ、ありがとうございます。なんだか天羽さんに言われても、ウザイと思わなくなりました。むしろ私も安心すると言いますか」


 ショートヘアの少女は以前と変わり、彼に対しての態度を変えていた。あの件で好感度が上がったのだ。


「別にモカと似ているからではなく、西園寺さんらしいな。と感じて言っているだけだから、気にしなくてもいいよ」


「そこは気にしてなかったですよ。天羽さんなら本気で私のことを想っているんだなと考えていました」


「そうだね、きっと亡くなった惺夜くんも笑顔が素敵だと言ってくれるよ〜」


「惺夜くん……。うん、そうかもね」


 彼女は悲しそうな顔をして下を向く。


「……実は彼が生前の頃、西園寺さんに伝えてほしいことを言っていたんだ『それでも俺は生きている、そしてあなたも生きている。だから心配するな』と、なんか意味わかんないよね」クスクスと笑う凪。


「……そうですね。今はわからないです。ですが、彼らしい言葉ですよ」

 つばきは少しクシャっとした笑顔をする。


「でも、こう解釈もできますよ。惺夜くんの肉体は死んだけど、魂や意志は死んでないことだと考えています。そして私は現在を生きている。そう言うことですよね」

 彼女は自分の解釈を伝える。


「……いい解釈だと感じるよ。理解ある人でよかったね。惺夜くん。きっと天から見守ってくれているさ」


「ええ、そうね。私も惺夜くんの意志を継いて生きていくわ。そして私なりに生きて、惺夜くんと同じ……いや、超えるぐらい強くなって過ごすのよ」


 つばきは胸に手を当て、決意を固める。


「私ちょっと急ぐわね、天羽さん。それじゃあね。また学校で」と、彼女は駆け足気味にSAT学園まで向かう。


「あっそうだ!」つばきは一旦足を止める。


「天羽さん、今度二人っきりでデートしましょう。少しずつ貴方の事好きになったみたい! 今度はモカちゃんとしてじゃなく、西園寺つばきとして見てほしいな」


 可愛くキラキラとした笑顔で凪の方を見る。


 彼はドキッとしながら彼女の笑顔を確認する。


「もちろん。西園寺さんとして好きになるよ。愛しているよ」


「愛している……は少し早いんじゃないですか? でも嬉しいわ。ありがとう」と、つばきは走り始めた。


 現役総長は彼女に手を振りながらこう考えていた。


(惺夜くんがここにいない世界で誰が彼女の笑顔を守る……。もちろん僕だ。彼もきっと喜んでくれるよ。まぁ嫌われているから、嫌かもしれないけどね)


 彼は晴天を見ながら、(僕は彼女の笑顔を絶やさないようにしなければならない。そのためにキザ野郎というキャラと演じ続ける。彼との約束を守るために)と一瞬目を瞑り、そしてまぶたを開いて学園に向かう。


 笑顔が素敵な少女つばきは走りつづけながら、

「惺夜くん、この学園を守ってくれてありがとう。おかげで私も強くなったわ」

 と、一生懸命戦ってくれた少年に感謝の気持ちを込める。


「いつか、貴方を越すから、見といていてね。私達の天使くん」また素敵な笑顔を見せるつばき。



 椿の花言葉は控えめな優しさと誇り。

 きっと激戦を潜り抜けた少女は、将来優しく誇り高い女性へとなるのだろう。


 風も肌に当たりたくなるぐらい清々しく。

 洗濯物を干すにも数分で乾きそうな程の快適な天気。

 西園寺つばきは笑顔が素敵な女の子になっている。



 ――――彼女の笑顔は、椿色の弾丸のように美しく、記憶にも残るほどだった。

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椿色の弾丸と記憶 フォッカ @focca

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