79話
あの日から一年も経ち、六月中旬のある晴れやかな日。
SAT学園もセキュリティ厳重化し武装強化や武器の調達、戦闘員も今以上に強くなっていた。
テロリストの襲撃事件は、会長の手によって正しく報道されずに隠蔽された。
それを知るものはSAT学園の関係者だけである。
つばきと司咲は二年生になり。後輩を育てたりしている。
凪は千木楽亡き後のSATのトップになっていた。
四年生でトップになるのは珍しくもない。
今日の朝は晴々しい。雲一つない晴天で心の雪が緩やかに溶けそうな天気だ。
そんなある日。
凪は学園に行く前に、とある病室である人に会っていた。
そう死んだはずの柊惺夜だ。
――――彼は生きていたのだ。
その理由は、惺夜に微々たる力が残っていた
と言っても死には至らないだけで、大ダメージは覆っている。
彼は一回の爆発で意識不明の重体になり、約一年間はずっと危篤状態だった。
だけど二週間前に回復して、今も少しずつ良くなっている。
千木楽も同じように意識不明で動いてなかったが。
惺夜が目覚める三ヶ月前に復活して、今はリハビリをしながら病院生活していた。
そして凪は彼の部屋に少しずつ歩む、ベッドに入院服を着た惺夜の姿が見えた。
その姿は左腕を失い、右手も人差し指と小指が少し欠けている。両足もボロボロだ。
そんな彼を姿について何も言わずに現SATトップは椅子に座り言葉を話した。
「……なぁ柊さん。俺のことを覚えているか?」
凪は本性の姿で惺夜に問いかける。
「いや全然わからない。貴方が誰なのか、俺が誰なのか……。ごめんなさい」
「大丈夫さ、柊さんは悪くねぇ」
惺夜はあの出来事のショックで記憶を失っていた。
名前はわかるが自分がなんの職業や誰と関係を持っていたのかわからない。
「悪いのは……一般人の君が巻き込んでしまった、SATに責任がある。すべて総長である俺の責任だ。本当に申し訳ない」
と、総長は謝罪した。
SAT学園の会長は、惺夜と千木楽を戦死している程にして、SATとの関わりをなくすことを指令した。
会長曰く、『この学園を守ってくれた千木楽真心殿と柊惺夜殿は、感謝の気持ちでいっぱいだ。しかし戦えないほどの負傷を覆った姿では、我々SAT学園に戻る必要はない。戦死したことにしてくれ。記憶を失っていたらSAT学園の事は話すな。彼らはもう戦力外だ』と。
彼には申し訳ないが、もう亡くなったことにして、身を隠しながら生きてほしい。
と凪は考える。
しばらく黙る総長、惺夜は納得した表情をしながら言葉を出す。
「SAT……俺はSATの総長さんと関わりがあったんですね。知りませんでした」
「関わりあるといえばそうですが、救助した時に名を名乗った程度だけど……」
「そうだったんですね。その節はありがとうございます」
「いえいえ、むしろ申し訳ない気持ちでいっぱいだよ」
凪は頭をかきながら言う、立て続けにこう質問する。
「仮に……仮にだよ。君の大切な人がいて記憶が失うとする。そして、その人に偶然会ったらどう伝えたい?」
当時、テロリストが出撃する前、千木楽に対して質問していた内容を記憶喪失の彼にも同じように伝える。
記憶を失った惺夜が悩みに悩む。
「うーん。質問の答えになっているかわからないですが。俺だったら、記憶が戻らなくても普段通り挨拶するかな。大切な人の記憶が失っても俺は、その人の出会いや当たり前に過ごした日々を覚えているから」
と淡々という。
「そうか……いい考え方だね」
凪は微笑む。
「でも伝えたいことは『それでも俺は生きている、そして貴方も生きている。だから心配するな』ですね。生きていることに意味がありますから」
「……そうだな。生きることは素晴らしいことだよ」
凪は中学当時の出来事を、思い出す。
彼の表情が、今にも泣きそうだ。だけど必死にこらえた。
「でも天羽さん。なんで記憶を失っている俺に、そういう質問したんですか? 俺じゃなくてもいいのに」
「……実は柊さん。以前、僕には、大切な人がいた。その人は小学生まで、こういう質問ばかりしていたんだ。だけどその人は高校上がる前に亡くなった。俺はそれを忘れないためにこの質問をしたんだよ」
凪は少しホラを吹く。
「うーん、少し納得がいかないですね……。別の思い出し方もあったんじゃないですか?」
記憶を失った惺夜は、浮かない表情だ。
「そういうと思ったよ。実は柊さんに大切な人がいたらその人に何か伝えようかなと考えているんだ。さっきの質問で伝えるべき言葉が見つかったよ、ありがとう」
凪はにっこりと微笑む。
「大切な人……、たしか、いた気がしたんですがわからないですね……。うっ! だめだ。考えれば頭がどんどん――」
「無理し考えなくてもいいんだよ。いきなり質問したのが悪かった」
キザ野郎という仮面をとった彼は頭を下げた。
数秒下げると、また頭を上げ、次にこう言う。
「今の柊さんにはもっと刺激になるけど、君の家族をつれてきたよ」
惺夜の目の前にいたのは彼の母親、柊伽耶が現れた。
彼女は、記憶喪失の息子を見た瞬間、体を抱きしめた。
「惺夜……、惺夜……! 意識は戻ったのね。嬉しい……嬉しいわ……」
「……誰ですかこの女性の方? 俺は覚えてないです」
彼は不思議そうな顔をしている。無理もない。
「いい、いいのよ。私のことを今覚えてなくて、ゆっくり思い出せばいいのだから」
惺夜の母は泣きながらなだめる。
「この人は柊さんのお母さんだ。俺が呼び出した」
凪は説明をする。
「君が生きていたことは事前に伝えているよ」
彼は惺夜のお母さんに生存確認を教えていた。
「そうなんですね……。全然覚えてないや。うっ! すみませんまた頭痛が……ひどくなってきて……」
「大丈夫、大丈夫……。おどろかけちゃってごめんなさいね。でも安心して、私が助けるから」
「……ありがとうございます。お母さん。俺のことに知っている人がいるだけで嬉しいよ」
「私も嬉しい……そうだ、惺夜。最近貴方のお父さんと連絡がついて今海外にいるんだって、退院したらそっちにいかない?」
伽耶はそう提案する。そう惺夜の父と二年ぶりに会えるのだ。
「お父さん……、お父さん……。名前は?」
「……
彼女は彼に馴染みのある偽名を教える。
「
少年は手に頭を置きながら固まる。しばらくして動いた。
「はぁはぁ、その人は、親父のことか?」
「?!! 惺夜? もしかして少し記憶が……」
「お袋か……? あぁなんとなく思い出してきた。だけどほんとちょっぴりだけど……」
伽耶は更に強く抱きしめ、少し頬を濡らす。
「良かった……少しだけでも思い出してくれてありがとう……。だけどあんまり無理しないでね?」
「うん、わかったよ。お袋。ゆっくりと思い出すよ。あと海外の話だけど行くよ。俺、どういう感じかまだわからないけど」
「大丈夫よ。とても暖かい南国の島の平和な街で、
「平和……、平和が一番だからね。お袋。久しぶりに親父と会えるのも楽しみだよ」
凪は.惺夜が母親を強く抱きしめるのを見てから..この場を去ろうとする。
しかし、惺夜は呼び止めた。
「そうだ天羽さん、貴方に頼みたいことがあります」
「ん? 別にいいけどなんのことだ?」
本性を見せている彼は惺夜に尋ねる。
「一年前にあった西園寺さんという女の子の笑顔を守ってほしい。少しずつ思い出してきました。あの子はとても頑張りました。そして俺の代わりに守って欲しいんです」
「……西園寺さんね。わかった。なるべく守るようにするよ」
「よろしくお願いします、天羽さん。彼女の笑顔は素敵だと、記憶喪失前の俺なら、きっと言っています。そのときは泣いているだけだったので」
「ありがとう、柊惺夜さん」
バタン! と凪が惺夜のいる病室から出る。
そのまま別の病室へと向かった。戦死したはずの千木楽をお見舞いに。
千木楽は両手を失っており。
要介護レベルの身体をしている。
腕が両方ないからだ。
今は看護師が彼の世話をしている。
凪は介護し終えたら部屋に行くつもりだ。
それが終わり、世話してくれた看護師に一声挨拶してから部屋に入る。
「どうも、
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