80話
千木楽はなんとも思っておらず、ただそっけなく返す。
「まぁ、お前がいてもいなくても普通だよ。逆に来てくれたからつまらなさは無くなったが」
「そうか、それは嬉しいよ」本性状態の彼はニヤニヤ笑う。
「ところで、柊の方はどうだ?」
千木楽は彼のことを心配するかのように質問する。
「……惺夜は記憶が少し取り戻しましたが、まだ変わらない状態です。家族の存在を少し思い出したぐらいで」
「そうか、それは良かった。だけどあいつを死んだ扱いにするのは何か勿体無い感じするな。俺の件はわかるけど」
「まぁ、あんだけ暴れていたら規制したくなるのもわかりますよ。能力なんたらが再発してSAT崩壊させたら元の子もないですから」
イキリ野郎の凪はそういう。
「だろうな。そういえばSATトップになったんだろう? あのことは聞いたか?」
「あのこと……? あぁ、あれか! 聞いたときは驚いたぜ」
「そう、SAT学園は、学生兵隊メンバーの数十パーセントいる覚醒者を、開花させて育てる学校だったんだ。育成して能力者を増やそうとしていたらしい。会長の改造武器と相性いいから」
「正直マジかよ……と思った。まさか覚醒者を集めるために育てられたと。だが今考えてみれば納得もいく答えだよ。千木楽さんはよくこれを黙っていたね」
「あぁ、俺の使命はそれさえ守れれば良かったからな。たまに忘れていた時あったけど。会長自体は悪用とかしないつもりらしいし、ただ護衛心でメンバー達を育てていたんだと考えているよ」
腕を無くした彼は、淡々と衝撃な展開を話す。
「元々開花するのは遅く、能力に覚醒したらSATを卒業しないで会長の側近で働く仕事を続けるんだ。もちろん給料も弾むらしい。それで高級車を3台分買った先輩もいるらしい。あくまでも噂だけど」
千木楽は一息入れてから、また言葉を吐く。
「最初は嘘だと思っていたし、気にしてなかったから、わからなかった。だけどテロリストの襲撃で、一気に覚醒者が現れ、持つものと持たぬものが、はっきりとわかった。会長は少し焦っていたね。だけど――」
介護必須の少年の話を遮るように、凪は喋る。
「だけど会長は、そんな無理矢理なことしないってことだろ? 人というものは、押し付けずにのびのびと育てる教育だから、テロリストのやり方は許せない。と思ったんだね。だから、あの惺夜の覚醒も許せなかったと」
「そういうこと、多分俺も二回ぐらい洗脳装置を設置していたから覚醒した時、暴走すると確信したんだ。だから」
「まぁそうなるよね」
イキリ野郎は呆れ顔になる。
「なにが、そうなるよね、だ! お前は一回もならなかったくせして」
元総長は突っ込む。
「安全性を気にするなら、千木楽さんも死んだ扱いするのは、そういう理由だと思うよ。それ以外考えられない」
凪は『はっはっは』と笑う。
「まぁ俺は無能だからなんでもいいが、逆に安心するよ。あと知らなかったな、お前の本性がこんなかんじだなんて」
両手のない少年がそういうと、イキリ野郎の元総長はまた笑いながらこう伝える。
「お? そうか? この姿を見せるのはテロリストの女とお前だけだぜ? 元総長の千木楽さんよ〜」
千木楽は微笑みながら口を動かす。
「千木楽さんはお前のキャラに、合わねえよ。前みたいに“千木楽くん”と言ってくれねぇか? そっちの方が耳障りいい」
「ふーん、俺に惚れたか?」
「なわけねぇよ。お前の“千木楽さん”の方が気持ち悪いだけさ」
「はい、はい、わかったよ。こう呼べばいいんだろ? 千木楽くん」
凪はキザっぽい言い方で言う。
「それがお前らしいよ。天羽」
「あぁ、そうかもな。ところで両手がなくって大変だろう? 俺が介護してあげようか?」
「それはありがたいけど、大丈夫だ。看護師や介護士に頼んでいるしな。まぁSATからの金じゃないが」
「だよな、だってお前は戦死している程だし」
ニヤニヤしながら、からかう現役総長。
「まぁ命に別状じゃなくて良かったわ。ハハハ」
冗談混じりの会話が静かに響く。そして、凪は真剣な表情で元総長にこう言葉を話す。
「……なあ千木楽くん。お前は永瀬さんを葬ってどう思った?」
「……あぁ、自殺したいと思ったよ。春花の方に行きたかった。だけどあいつならそんなことを望まないと思い、柊と闘うことにした」
「……流石だな、伊達にSAT
「褒めているのか貶しているのかわからんやつだ。まぁそれがお前の良さかもな」
「そんなこと言われると照れるぜ」
頭に手を置くイキリ野郎の総長。千木楽はフッと笑いながら話しかける。
「そうだな。あとは柊に西園寺のこと伝えたか? あいつ西園寺と仲よかっただろうし、まぁ付き合っているのだろう」
「いや、惺夜から西園寺さんによろしく、と言っていたが、俺からは言ってない」
「どうしてだ? もしかしたら思い出すきっかけになるだろうに」
「病院に椿という花は似合わない。縁起が悪いからだ。だから惺夜に西園寺さんの存在を知らされてはいけない。と思ったんだけど、思い出しちゃったから、振り出しに戻っちゃった」
海外映画の俳優のように大きくお手上げポーズをする凪。
「振り出しに戻って、どう思った?」
「別に? 思い出したら、思い出したらでいいし、気にしてないや」
「……なんか俺と違って人に対する扱い雑じゃない?」
「そうかな? まぁぶっきらぼうかもね。仕事のストレスかも」
「総長の仕事量多いからな。もしかしたら、真面目にやらない方が気楽で良いかもな。俺も学びたかったぜ」
「今学べばいいさ。学べるものだったらな」
凪は煽るように言葉を吐く。そして彼自身、疑問に思ったことを話した。
「そういえば退院したらどうするんだ? どっかの施設に軟禁されるとか?」
元トップは淡々と答える。
「軟禁ってほどじゃないけど、とある施設に預けられるね。ほら、今の俺って、いま手がないじゃん。そこで本名隠して、平穏に暮らす感じかな? 平和すぎて疲れると思うが」
「平和で疲れる方がいいよ。何かあるよりかは」
「それもそうだな」
と千木楽は凪に向かって言う。
「じゃ、俺はSATに向かうよ。お前も元気でな」
「あぁ元気で」
二人は別れの挨拶を言う。
「そうだ。何があっても自殺なんてするなよ。それをしたらお前の好きな永瀬さんに顔合わせられないぞ」
と言いながらクールに去る、現総長。
「あぁ死なないさ」
と建前はそう言っているが。本心はと言うと。
(本当なら、死にたいと考えていたんだがな。なんで俺は生きているんだろ。俺も……春花のところへ……)
千木楽はそう考えていた。
すると、一人の女性の声が聞こえる。
「シン、そんなこと思っちゃいけないよ」
千木楽はわかっていた。その声は『
次の瞬間、春花が幻として現れる。
「だけど俺はお前のことが好きだったし、出来るだけ死なせたくなかった。だけど俺が殺してしまった。あのときは本当に悪かった」
「別にいいんだよ、シン。あれは事故だったから。気にしないで……」
「気にするだろ! だって!」
「……シン、あのときキスしたこと、覚えてないの? あれは貴方のことを愛しているから……もそうだけど、もう苦しまなくてもいいんだよと慰めるためにやったことなの」
「そ、そうだったな。悪かった。すまない、俺の幻覚だと感じるのに」
そう語った瞬間、霊体の春花は千木楽を抱きしめる。
「別に、幻覚でもいいじゃない。貴方の心が良くなれば……」
春花は悲しそうな表情を浮かべる。
「――いやそれは良くない。幻覚に逃げても、現実は変わらない」
「それだったら、ぼくの魂と共に生きてほしい。これは命令だぞ、シン総長!」
ビシッと敬礼ポーズをする春花。それを見た元総長は、クスクスと笑い。
「わかった、お前の意志を継いで、生きるよ。施設に預けられてもな」
と彼は言うと、彼女は笑いながら、
「ありがとうシン。愛している。本当に。時々ぼくのことを思い出してね。約束だよ」
彼女は、感謝の言葉をいいながら、どこかへ消えた。
「忘れるものかよ。お前の存在を……」
千木楽はそう言った後。表情が崩れそうなほど、泣きそうになる。
そう彼女は帰ってこない。だけど春花の魂と共に人生を歩むことはできる。そう考えたのだ。
(これが幻でもいい……それでいいんだ。俺はお前を背負って、生きていくよ。永遠に)
「ふぅ、まさか会長が無理を言って登校前から面会できるようにしているなんて、やっぱすごいよ会長は」
凪は会長のことを褒めながら病院の外に着く。
「さて、俺はそろそろいつも通り、ウザいキザ野郎になろうとしましょうか」
と現総長は普段通りのキザ野郎に戻り、SAT学園に移動する。
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