エピローグ
78話
惺夜と千木楽はあのグレネード弾の衝撃で命を落としてしまう。
その事情を説明したつばき。もちろん、司咲は黙っていなかった。
「嘘……だろ? あいつが死ぬことなんてあり得ない!」
彼女に強く当たる司咲。
「今まで死ぬ予兆は見えていたが、絶対にそんなことないと気のせいだ思っていたんだ。だったこの戦いが終わった後、ドーナツ屋にいくんだろ! なぁ!」
「こ、声を荒げないで司咲くん……。そう、この後。惺夜くんが戦いの中で生きていたら、その店に行くつもり……だったんだけど」
「やっぱり戦場で『終わったら何か食べに行きたい』とかの死亡フラグを言わない方が良かったんだよ! 言ってなかったらこんな目には……」
目がウルウルしている、腕の無くした少年。
「千木楽さんもそうだ、あの方はとても強い。強いんだ! だから死んでいるはずなんて――」
彼は感情がどんどん強くなる。そして次の瞬間、身体が動いた。
「死んだのなんて嘘だ! 今から俺が見にいく! 絶対死んでない!」
司咲は、急いで学園内に入ろうとする。しかし、凪に呼び止められる。
「司咲くん! 犠牲者の数を携帯やトランシーバーの情報から聞いたよ。残念だけどここの学園はもう被害者が多すぎる……。他のSATメンバーそうだけど、永瀬さんも千木楽くんも、そして惺夜くんも……」
「つまり、その二人は、犠牲者扱いなんですか……? そんなの嫌だ! 嫌だよ! なんであいつ死に急ぐんだよ!」
大粒の涙をひたすらに浮かべている司咲。
「違うよな……。全て俺が悪いんだ。俺が最初に別行動してなかったら……。惺夜のことを止めていたら……。千木楽さんと共闘していたら……」
友人だったつばきと司咲は泣きじゃくる。司咲は悔しがり、つばきは感情を押し殺すように。
「司咲くん、貴方のせいじゃないんだよ」と伝える。
「つばきはそう思っているかもしれない。だけどさ……こんなのってあんまりじゃないか……!」
「……本当は全て私のせいにしたい。私が勝手にテロリストの一員と戦った挙句敗北し、洗脳され、SATの穴にヒビが入った……。だから――」
彼女が言いかけそうなったそのとき。
「もういい加減、責任の引き受け合いはやめてくれないかい〜。お二人さん」
と凪がつばきと司咲を止める。
「そもそも〜、みんな頑張ってテロリストを倒していたんだよね〜? 元はと言えば悪いのはテロリストの方だと思うんだよ〜。戦場で頑張った人を侮辱しちゃいけないよ。全責任引け受けるのも押し付けるのも同じこと」
キザ野郎は自分なりに論を唱える。
「……そうですね。私が悪かったです。全責任自分のせいにするべきじゃないですよね」
「そうそう、西園寺さんも同じこと。君も責任感じているけど、そんなこと思ったって、惺夜くんが喜ぶと思うかい?」
「……そんなこと喜ばない」つばきはそう伝える。
「でしょう? 君も自己犠牲を考えなくなったのはいいんだけど、今は惺夜くんのため笑顔になろ? この状況だとサイコパスみたいだけど」
「そうですね。今は惺夜くんのため笑うようにするわ……笑うよう……に」
素敵な笑顔を持つ彼女が我慢できずに大泣きしてしまう。
「……ごめんなさい……ごめんなさい。さっき泣かないと決めたのに、惺夜くんや千木楽さんみたいに強くなると思ったのに……」
死闘の中生き残った少女はまた泣き出す。
口では平気と言っているが、残酷な現実がまだ受け止められない。
凪と司咲は急いで背中を擦りながら慰める。
途中、飛鳥も登場し、男二人と同じような行動をした。
その後、つばきは落ち着いたが、まだまだ泣きそうな予兆はある。
その束の間、会長からのSATメンバーだけで学園の後処理をすることの指令を受け取った。
メンバー全員、現状を無理やり飲み込みながらも作業に取り掛かる。
司咲は別メンバーと仕事をして、凪は仮総長として指示していた。
数時間後、被害が軽そうな教室へ、つばきと飛鳥二人きりで話していた。
「どう西園寺ちゃん。気分は落ち着いた?」
おっとりした少女は心配そうにいう。
「ええ、なんとか……。ご心配おかけしてすみません」
「いえいえ〜大丈夫だよー」
「でもやっぱり惺夜くんが死んだことに驚きを隠せないんです……。天羽さんは私のせいではなく、テロリストのせいだ、フォローしてくれましたが、私は納得してなくて……」
「……そうだよね。ボクもわかる。だって仲良しの永瀬ちゃんが亡くなったこと今でも信じられないもん」
一年先輩である彼女は何も感情に出さず淡々と話す。
「そうですよね、私も信じられません。知っている人が亡くなるのはとても心がしんどいものですよね」
「しんどいけど、あの子達は今の今まで一生懸命に生きてきたんだ。死んだものは帰らないけど、魂と共に歩むことはできる。西園寺ちゃんもそう思っているでしょ?」
「ええ思っていますよ。心の中にそう決めたのだから」
尊敬する人を失った少女は目を瞑りながら胸にそっと手を置く。
「……私って強くなれるかな? 強くなりたいな……」
「ふふ、西園寺ちゃんなら強くなれるよ〜。なんならボクが保証するよ! だったら――」
飛鳥は悩んでいる少女をぎゅっと抱きしめる。
ほっぺの肌と肌、服と服が辺り少し安心するつばき。
「これで元気が出たかな? 西園寺ちゃん!」
「……ありがとうございます。とても優しい気持ちになれました。私もあんな事件あったのに悲しい涙を流さない伊藤先輩になるよう強くなります」
おっとりしている少女はつばきの身体から離し、目を見る。
「うんうん、やっぱり西園寺ちゃんは笑顔が似合うよ。あとボクはそんな強くないよ、平常心を頑張って維持しているだけ〜」
「それでも凄いことです。そろそろ私は別のところを仕事してきますね。伊藤先輩はどうしますか?」
「うーん、僕は残るけどいいかな? ありがとうね西園寺ちゃん〜」
「わかりました、お仕事頑張ってください!」
少女二人は嬉しそうに手を振る。そしてつばきは教室から去る。
先輩である
「……永瀬ちゃん、千木楽さん、柊くん、他のみんな……。どうして」
彼女はシクシクとなく。
つばきと話していた時は我慢していたのだ。
もう限界だったのか悲しみの雨が頬に降り注ぐ。
「うぐっ、うぐっ……。西園寺ちゃんは、強いよ、本当に。泣きながらも、強くなろうと決意しているのだもの。ボクは陰で泣くぐらいしかできないよ……」
ひたすら泣き続ける飛鳥。
「やっぱり人の死は悲しいよ……、辛いよ……。ボクも乗り越えられるかな? 西園寺ちゃんのような強い女の子になれるかな……?」
数分間は悲しんでいた彼女。
それでも立ち上がり、仕事に戻る。涙を隠しながら――。
午後八時まで作業し、メンバー全員、事故現場処理し終えたら、また会長からの命令でその場解散した。
会長曰く、『後は我々に任せてくれ。学校の補償や遺体等の片付けはプロに任せた方がいいのだろう』と言われてメンバー全員仲間を失った感情をそれぞれ浮かべながら帰っていく。
その期間は一週間程度で終わるが、せっかくだからそのまま長い夏休みにしようと会長は提案し、学校に来るのは九月になってからになる。
一般生徒は喜んだが、つばき達はあの事で夜も寝られないのだろう。
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