74話
千木楽はまぶたを開いた。
気がつくと、屋上近くの扉にいる。不思議で仕方なかった。
「あのとき、俺は柊によって腕を失ったはず……」
目線を下に向き、自分のからだを確認した。両手はないが、止血している。
「……ダメだ、理解ができない。なんで俺は生きている」
涙が出そうになる。無理もない、今日だけで、たくさん胸糞悪い出来事が多かった。
SATの一員を殺したこと、行方不明の兄がもう亡くなっていること。
そして、想いを寄せていた子が、自分の手で始末してしまったこと。
腕を失うことや洗脳されたことよりも苦痛で心がしんどいのだ。
「俺はダメなトップだ。クズだ、無能だ。俺なんていなくなればいい」
彼は自暴自棄になる。トップとしてのメッキが、剥がれたような感じだ。底知れぬ絶望、気分が悪い。
千木楽は周りを見渡す。すると、扉の薄い窓から惺夜達とテロリストのボスが戦闘していた。
「柊と西園寺が戦っている……。しかも見たこともない姿だ。これは……」
「タイミングを見据えて援護しなければ、今、突入しても全滅するだけだ。待たなくては」
彼は息を殺して、
そして、死を覚悟していた。愛していた女性を追いかけるように、
他メンバーからしてみれば、彼は大いに活躍をしている。ただ、心の傷を癒やす人はいない。この出来事で千木楽は弱っていたのだ。
――――決意を固める。固めるしかなかった、活躍するためにも。
二人の共同作業が始まる。一斉に拳銃と共に、攻撃を仕掛けた。
閃光の如く速い体術で、龍康殿の攻撃を仕掛ける前に行動へ移す。
初老の彼は、彼らの未熟な動きを見ながら華麗に
弱体化した水の能力で少年たちの目の中に水を入れて視覚を奪う。
歴戦を潜り抜けた彼らしくない、何とも情けなく卑怯な攻撃だ。
その隙に風の能力で突風の如く高速で攻撃しながら弾丸を撃つ。
しかし、惺夜達はその場所にいなく残像だった。
後ろを振り向くと同時に背中に強い衝撃が広がる。
惺夜とつばきがおもいっきり蹴ったのだ。
彼らの能力は高速移動も使える、残像が残るぐらいに。
能力の使い方に慣れたのか、効果が発揮する。
龍康殿はその場から消える。消えると言えど、風の能力で高速に動いたのだ。
惺夜達は同じく姿をくらませる。
光さえ魅了する高速の戦闘に、弾丸は走る。
つばきは未熟な体術を、覚醒した能力でカバーするように攻撃。
発砲しながら、初老の急所を確実に狙う。
能力の格差なのか、龍康殿の方が不利状況である。
拳銃の筒先がキラリと光り、残像が見えるほどの神速。彼女は怒りを込めて弾丸を放す。
なんという激戦。
つばきの感情が露わになっているのは、SATの命運がかかっているからだ。
彼女は。
(私のせいで学園が危うい状況だ。だから私の責任で始末しないと)
と、考えているのだろう。
龍康殿は
しかし、惺夜は気付いていた。
「なんともお前らしい卑怯なやり口だ」
「へ! 何とでも言えよ! 散々お前も卑怯な手を使って仲間を間接的に殺しやがって」
惺夜は、初老の彼と発砲しながら、ダンスをする。
両者華麗な動きだ。近くにいた、つばきも魅了されていた。
そしてある程度戦った後、つばきは惺夜に対してこう提案する。
「惺夜くん、同時攻撃出来る? 私は今なら!」
「ああ、いけるぞ。ラストスパートだ!!」
二人は龍康殿の方に音を置き去りするぐらい駆ける。まるで、敵の動きが一瞬わかる、そんな感じだ。
「ふっ! おりゃ! 絶対に倒すっ!」
言葉に殺意を込めながら戦うつばき。
惺夜と交互に動きながら、どんどん銃の舞をし続ける。
龍康殿も能力の限界がきたのだろう。
体が思うように動かない、なすすべもなく攻撃を受けてしまった。
惺夜は勝利を確信する。隣にいる
だが、同時に心配もあった、それを伝える。
「惺夜くん弾は大丈夫?」
そう弾丸の消費だ。改造銃だからといっても、今までの戦いの中で消耗しているだろうと。
「あぁ、大丈夫だ。今まで弾丸切れたことなかっただろ?」
「でもあれから1時間近くは経っているよ。そろそろ切れそうじゃないかしら」
「……少し確認してみる」
今持っている弾丸数を見る、まだ余裕はあるみたいだ。
惺夜はブレザーの内ポケットから弾丸の替えを探す。しかし、もう予備の弾丸はなかった。
(まだ余裕はあるけど……そろそろ決めたい。その戦いを終わらせなければ……)
惺夜は数秒考える。
そして、惺夜はある提案を浮かぶ。
「つばき! ちょっとした賭けでもしないか?」
「賭け……? 何を賭けるの?」
「たった一つの狂気によって、崩れる未来と、俺達の魂だ!」
いつものよくわからない発言だ。とても彼らしい。
少しクスりと笑う彼女。
「なるほどね、大丈夫。私はもう惺夜くんに預けている」
「ありがとう、つばき」
彼はつばきに感謝する。
「どうするつもり?」
「簡単なことさ、授かった能力全部、数発の弾にこめる。たったそれだけさ」
「とてもシンプルな作戦ね。私は好きよ」
「へへ、ありがとうな、つばき。ところでお前の弾はどのくらい残っている」
「もう、残り少ないかも、私が洗脳されているときに予備も消費したみたい。もってあと数発ぐらい――」
「あぁ、知っている。アレだけ弾丸撃っていたらそうなるよな」
惺夜は皮肉にも微笑む。
「それじゃ作戦決行だ。俺の銃を――」
その時、銃音が響いた。
惺夜の手の甲に向かって拳銃が撃ち落とされ、その武器が彼らの後ろに飛ぶ。
音の正体は龍康殿だ。初老の彼が拳銃を弾いたのだ。
「やれやれ、この隙を狙っていたんですよ。半分棚ぼたですが、それでも勝利の一歩に近づきました」
スーツ姿の彼を見ている少年は焦っていた。
(くっ、拳銃が遠くまで飛ばされた……だが! もう一丁は……)
だが、もう一丁の銃も弾かれ、手で取れる位置に惺夜の拳銃がない状況。
絶体絶命というべきだろうか。
あるのは、もう残り少ないつばきの拳銃だけだ。
もうこれしか賭けられるものがない、やるしかない、惺夜は覚悟を決める。
「つばき! お前のモノ使うぞ! それしかない」
銃は拾えるかわからない距離。惺夜の位置から二メートルは飛ばされた。
取りに行くよりも、残り少ないつばきの拳銃で、能力を全開放して方が、早いし安全だ。
つばきもわかっていた。
「ええ、準備はできている」
二人はうなずきながら、ウェディングケーキの入刀みたいに両手を重ねて銃を握る。
そして構えた。
両者目を瞑り、覚醒した能力を、残った弾全部に込める。
「この攻撃が当たれば私たちの勝利ね。うふふ、とても楽しみ」
つばきはニコリと笑う。
「つばき……この場面で笑うのはサイコパスみたいだぞ」
目を瞑りながらでも、惺夜は察して少し突っ込んだ。
「ふふ、知っている。私なりのブラックジョークよ。リラックスできたかしら?」
「まあ少しは――」
そして目を開けて、惺夜はつばきにいう。
「なぁつばき……お前はよく頑張った。ありがとな。やっぱりつばきは俺の中でNo.2だよ」
惺夜はつばきの方を向き。
「……俺はいい友達を持ってよかった。好きだぜ」
笑顔で言う惺夜。つばきは少しずつ涙が溢れ出す。
「私も貴方のこと好きよ。友達として」
「ああ、俺もさ。最高の親友さ。だから“お前を守る”」
「私も惺夜くんのこと守るよ。絶対に」
龍康殿は同じく銃を構える。西部劇の早撃ちだなと、ふけていた。
すぐ撃っても良かったが、完全に弱体化してから発砲した方が確実に仕留められる。
と考え、待っていた。
(なんのこと話していたかわからないが、忌子達の力が段々と失っていく感覚が見えて来る)
ボスの能力も少しずつ弱くなっているが、彼らの能力も同じように力が失っていく。
時間制限があったみたいに、惺夜達はまだ気づかなかった。
だけど、テロリストのボスを倒せるほどの威力は、まだ残っている。
防弾チョッキも貫くほどの威力。彼らの力は、そのぐらい強力だ。
(……どうやら私と同じように弱くなるようですね。これはラッキーです。私も能力の全てを使って忌子だけでも始末しましょうか。これでやっと皆さんに幸せが……)
初老の彼はそう考え込む。
緊迫した空気、吹き込む優しい風、刹那に過ぎていく時間、全てが観客のようだった。
そして、沈黙を破るように発砲音が鳴った、凄い勢いで弾が加速。
――先に撃ったのは惺夜達だった。全弾撃ったのか、攻撃を止める。
龍康殿は、心の中で見下すように、こう考える。
(やはり先に撃ってきましたか、残念ながらそれは読んでいましたよ)
彼は弾丸のようなモノを力の限り避けた。長年の勘で撃ってくる場所を把握していた。
もう、弾はない。そう確信する。倫理観が正しい神の勝利だ、と龍康殿は内心喜ぶ。
「さて、そろそろ片付けますか!」
銃弾が何発も発砲する。狙いは力が失いつつある惺夜の方だ。彼はもう避ける体力もないだろう。
どんどん弾丸が近づいていく。
「や……やったぞ! 忌み子! これでお前は何もできずに始末される。これで世界が幸福であり続けるぞ!」
しかし、『パァーン!』と、ないはずの弾。そう放たれる音が聞こえる。
龍康殿は驚く。焦っていたパニックになりそうだった。
彼らが撃った
流石にボスも不意をついた攻撃を避けられない。
「なぜだ! 弾はもう切れているはず……! そうか、これは――」
「ああ、そうだよ。さっきのは“弾丸のような空圧”だよ、ばーか!」
したり顔でスーツ姿の初老を馬鹿にする惺夜。
そう、さっきの攻撃は、惺夜が最初に撃ってきた挨拶代わりの空圧。
龍康殿は騙されたのだ。
「く、こんなところで正義が悪に負けるとは――」
そして、防弾チョッキを備わったスーツが貫通する。
身体は流血し、そのまま前方に倒れる。
この光景を見た惺夜は喜んだ。
(倒した、倒したんだ。俺たちで倒し――。うっ、ダメ。急に頭がぶっ壊れそうだ。とても耐えられないぐらい痛い。ダメだ、痛さが強くなって――)
だが、彼は激痛で弱い声を漏らす。
そう、惺夜とつばきはテロリストを倒したのだ。
「ふぅ、やっと終わった」
ホッとしたのか息を少し吐き出す少女。
少年はなぜかキョトンとしていた。まるで状況が掴めてないように。
「良かったね、惺夜くん。やっとボスを倒せたよ……」
彼女は惺夜に話しかけるも何の返事が返ってこない。
少し間をおいて彼は口を開いた。
「すみません、ここはどこだかわかりますか? 何だか、急に、この場所についていまして」
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