73話

 感動の渦へ飲み込まれるように言う龍康殿。彼には幸せの絶頂だろう。


「椿色の弾丸と記憶……。いい響きだぜ、気に入ったよ」

 惺夜は初老に対して素直に褒める。


「お前に対してじゃない、私や元メンバーのお嬢さんに向けて命名したのだ」

 龍康殿は淡々と話すも、微かな怒りも見えていた。


「素直な気持ちを受け止めろよ」

 能力を分け与えられた彼は突っ込む。


 惺夜は突如、つばきの方を見た。彼女と目が合い。


「ありがとう、つばき。おかげで心が晴れたよ。洗濯物が乾くように」

 と、感謝を伝える。


「こちらこそ、戻ってくれありがとう。闇に飲み込まれなくて……ほんと、よかった」


 少女はウルウルと涙目になりながら、彼の目を見続ける。

 つばきは目についていた雫を拭き取り、表情を鋭くさせ、龍康殿の方へ向く。


 惺夜も同じく初老を見る。


 ファイナルバトル。この戦いに終止符を打とうとしていた。

 龍康殿とのろいの子としての戦いに――――。


 彼らの会話はすんで、全ての元凶りゅうこんでんの方へ向く。


 龍康殿そいつはさっきまで涙が溢れていたと思ったら、もう泣き止んでいる。


「彼女の能力はわかっていたが、分与できるとは聞いてない」

 むしろ困惑していた。


「よかったな、これで覚えて帰れるぜ」

「何を理由に上から――――」


 すると、胸部と左太ももへ向けて何かが当たる。突然の攻撃に驚く龍康殿。

 臙脂色スーツの男性は弾丸だと推測する。しかし、つばきや惺夜の手元に拳銃は持っていなかった。


 少年の“デコピンで飛ばした風圧”だった。能力はこんな使い方もできる。


「へー、こういうのもできるんだな」

 惺夜は妙に納得をする。


「お前は神聖な力を悪用しているだけにすぎない……」


「うるせぇ! 俺の勝手だろ! アンタよりマシだ!」


 因縁同士の戦いの火蓋が切られる。先に攻めたのは惺夜だ。


 拳銃にリロードさせながら向かい引き金を引く。龍康殿は極限まで劣化した土の能力を使って防御。


 少しは止められるも被弾はする。土壁が貫通したのだ。


 そのまま、少年は攻撃を続けた。銃弾が加速し、銃舞スイーパーを喰らわせる。

 発砲しながら、華麗な動きを魅せた。


 スーツ姿の初老も銃器を持ち、戦闘態勢に入る。

 二人の高速に動く攻防。覚醒したつばきにも目で追いかけることができ、彼女もすぐさま応戦する。


 少女の筒先が光り、龍康殿の体にかすった。

 女の子の方に向かい、能力IAWを発動。

 皮膚が切れそうな突風、それが鋭く舞い上がる。


 つばきは能力サナティオを活かして、踊るように避ける、避ける。

 隙を突いて引き金を引く。四発以上撃ち、ネズミ花火のように火薬が飛ぶ。


 惜しくもスーツ姿の初老にはヒットしなかった。いや、1発は体に当たっただろう。

 ただ、当たる場所がちょうど土壁で防御していたところなので、大した傷にはなってない。

 初老は乾いた笑いをする。少し不気味だ。


「ほうほう、流石ですよお嬢ちゃん。とても良い攻撃でした。ですが、まだまだ甘かったですね」


「それはどうかしら――――」

 つばきの口角が上がる。


 次の瞬間、惺夜の回し蹴りが、龍康殿の上半身にドスンと強く当たる。


 そう、彼女はこれを狙っていたのだ。作戦が上手くいった。


 さらに、もう一発かまして二度蹴り。攻撃された男性は床に叩きつけられ、倒れる。

 少年は、倒れた人を馬乗りし、顔面を殴りつける。


 加速するラッシュに、髭の似合う彼りゅうこんでんは能力で防御することが困難だ。


(くっ、私としたことが……)


 彼は心の中で嘆く。惺夜の攻撃が終わらない。

 そして、龍康殿の首をつかみ、どこかへと消える。


 今回ばかりは、つばきにも見えなかった。だけど、場所は気配でわかる。

 “屋上”だ。彼らは上に向かったと推測する。


 少女も行こうとするも、千木楽の事を思い出す。

 負傷した彼から“俺も連れて行け”という心の中が聞こえてきた。


「俺も学園のために戦ってきた兵士で、両腕がなくても彼なら戦える気力あるから連れて行け」


 と、彼女にはそう聞こえ、屋上まで連れて行こうとする。

 まだ意識がない。しばらくしたら回復しているだろう。


「本当は千木楽さんを安全な場所まで避難させたい。だけど、オーラがそれを断っている。きっと彼も戦うことを望んでいるのね」


 意識がない少年ちぎらしん担ぎ、惺夜がいるところまで持って行く。




 その頃、惺夜達は学園の屋上まで連れていった。スーツの男性を投げ捨て、惺夜は銃を筒先合わせて睨みつける。


「どうだ、まだ俺の方が優勢だな。」

 ニヤリと笑う。


「何という屈辱……何という敗北感……。許してはおけない」


 龍康殿にとって屈辱的なのは、さっきの暴走天使にやられただけじゃなく、今の形態の忌子さえ勝てないことが屈辱。


 悔しくて、悔しくて、たまらない。歯を食いしばるほどに。

 すると龍康殿はキレながら意味不明は発言をした。


「お前は死ぬべき忌子、私がカインになり、お前は羊を放牧とするアベルのような結末を送ってやる」


「あー、はいはい。そう言うことね、コインかシャベルなのか知らんが、俺は俺だ。忌子かどうかをお前が選ぶ権利はねぇよ」


 と、言い放つ。第二ラウンドのゴングが鳴ったようだ。


 両者の銃口がキラリと光り、ガンマンのごとく、早撃ちを決める。

 銃弾のデュオが奏でる音、鼓膜に伝わる。耳障りは良くない。


 ――先手は龍康殿だ。少年は弾が体に当たり、ゆらりとフラつく。

 そのまま、ガンカタを舞い、惺夜の目に焼き付ける。


 ドスンと重厚な拳の一撃と蹴り、それに加え、火炎の能力で強化した弾丸の飛雨ひうが惺夜に降り注ぐ。


 かろうじて、せいやは真似るように攻撃するも、ダメージは大きくなるばかりだ。


(くっ、調子に乗りすぎた。早く仕留めなければ――――)

 と迷っている間に、龍康殿の拳が目の前に迫っていることに気がつく。


 少年は軽い脳震盪のうしんとうを起こす。後ろに倒れるように“ガタン!”と体が強く叩きつけた。


「ははは、ほんのお返しですよ。惺夜くん」

 スーツの男性は煽るように言う。


「お返しね……俺も何かプレゼントしないとな」


「別に返さなくてもいいんですよ。学生ですし、お金がないじゃないですか?」


「そうか? 大事なのは気持ちだぞ。まぁ、お前は人の心なんて知らないから金で解決だろうけど……」


「いえいえ、例えば病院の贈り物なら千羽鶴よりも寄付金の方がいいでしょう?」

 と、パァンと乾いた音と一緒に発砲し、少年は目をつぶる。


 しかし、何者かが惺夜の前を通り、所持していたナイフで切り落とすようにはじいた。


「私も気持ちがあれば充分かな、入院していてもね。もちろん大切な人からだけど」

 正体は、つばきだ。彼女が助けてくれた。


「つばき……いくらなんでも遅すぎだろ」

 彼は笑みが溢れて、吹き出すように笑う。


「ふふっ、女の子は遅いのが普通よ。でも、この場合はナイスタイミングじゃないかしら?」


「ああ、本当に助かった。さて、次の攻撃に備えないとな」

 惺夜は立ち上がり攻撃体制をとる。


「さあ、今までの罪を懺悔しなさい。天使さん」

 つばきは龍康殿に向かって言う。


「そうですね。私も懺悔したいことがあります」

「あぁ、今すぐ反省しろ」

 惺夜はキレ気味に言葉を吐く。


「私は千木楽さんのことを裏切り者と言い、仲間はずれにしてしまいました。私はなんてこと……」


「わかった。俺が悪かったよ。お前が一般人に懺悔することなんてねぇよな。つばき、行くぞ」


 彼女は「えぇ」と返事をして、銃を持つ。

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