71話

71話

 ──フィアナを仕留めた後、人質を解放したつばき達。


「ふう……。もう亡くなっている人だけど、なんとか解放したね~」


「ええ、そうね。さて、フードを外すわね」


 つばきは人質のフードを外した。しかし、いたのはまだ脈のある女性。凪の予想は外れた。


「ウソでしょ?!」

 つばきは目を丸くする。


「え……。本当に人質だったの……。僕としたことが」


「……つばき、天羽さん。ちょっと言いたい事あります」


「まさか、怒っている……よね」

 つばきは恐る恐る聞く。


「当たり前だろ! つばきや天羽さんのせいで、人が死ぬところだったんだぞ!」

 彼は即答だった。


「ごめんね、司咲くん」


 凪が謝る。だが、司咲の怒りは収まらない。


「ごめん……。もし人質が殺されていたら同じこと言っているんですか?」


「……」

 黙り込むオレンジ髪の男。


「幸い、あいつの銃に弾がなかったからいいんですが、弾が入っていたらどうしていました? あんだけ煽っていたら撃たれる可能性もあったんだ……」


 司咲の説教に、つばきは恐る恐る口を開く。


「……私たちのせいで、被害が増えていた」


「ああ、そうだ。みんな私情があるのはわかっているし、実際、自分もムカついている」


 感情を大きく高ぶらせた司咲。呼吸を整え、冷静になる。


「これは自分の指令ミスなのもある。だがな、煽るのは絶対ダメなんだ! 授業で教わっただろ!」


「ごめんなさい……ごめんなさい……。その時、惺夜くんのことが心配で」


「……ああ、自分も心配だ。わかっている。だからこそ、冷静になるんだ、冷静に」


 司咲が二人に説教していると、飛鳥はなだめるよう止める。


「あんまり、つばきちゃんに強く当たらないでね〜」


「伊藤先輩、そうですよね。怒りすぎました」彼は我に返る。


「でも、煽るのはよくない事だよね〜。気持ちわかるな〜」


 紫髪の少年をフォローする先輩。すると誰かが話しかけてきた。


「彼女のことを責めないで」


 人質だった伽耶が話を割り込む。


「……聞いていたんですね」と、司咲は言う。


「あんだけ、感情出していたら、誰でも聞いちゃうよ」

 元人質の女性は少し呆れながら話す。


「すいません、あなたの前で怒ってしまい……」


「別にいいのよ。私から願った事だし」


「願った……。もしかして自分から人質を?!」


「ええ、フィアナっていう人が、言っていたんだけど、彼女は憎たらしく死にたがっていたのよ……」


「うそ……あのテロリストがそんなこと」

 つばきが話を割り込んで驚く。


「だから、私自ら人質を選んだの。彼女は最初反対していたわ」


「最初から彼女の思惑通りだったことか……」


 悔しそうに表情を浮かべる司咲。思惑通りだったことに衝撃を受けている。


 すると、つばきは突如、声を上げた。


「?! 学校の方から禍々しいオーラを感じる……」


 彼女も能力覚醒のおかげで、嫌な気配がわかるようになったのだ。同じ覚醒者のつかさも薄々察していた。


「俺も感じていた……。つばきはどうする?」


「いくに決まっているでしょう! この謎の力で惺夜くんを助けるのよ」


「惺夜……! 私の息子です!」

 伽耶は焦るように言う。


「!? つまり惺夜くんのお母さん!? 初めまして西園寺つばきです」


 突然自己紹介をする少女。何故か、いままで伽耶と会ってなかったみたいだ。彼女も同じ行動をする。


「あら、みんなあの子のお友達? 初めまして惺夜の母、柊伽耶です。いつも息子がお世話になっています」


「本当は自己紹介したいのですが、ここの救助活動と惺夜のことが心配なので後でいいますね」



 司咲は丁重に断る。

 自己紹介それをしてもいいが、今は人々の命が優先だからだ。


「わかりました。つばきちゃん達、息子を助けてください。お願いします」

「わかった。みんないくよ!」


「いや、つばきだけ行ってくれ」

 司咲は彼女たちを呼び止める。


「え、どうして」


「俺はテロリストの女に、能力を奪われて失った。伊藤先輩達に至っては、能力を持ってない。さっき覚醒したつばきの能力で、あいつを助けてやれ」


「私の力で……。なんで覚醒したのか、わからないのに、いいのかしら」


「ああ、いいんだぜ。推測だが、俺がお前を回復したからだと考えられる」

 憶測を伝える司咲。


「回復したおかげで細胞が活発し、能力を分与できるようになったとか」


「それはわからんが、原理は一緒だろ。あいつにも傷治したから、同じことが起きているはず」

「だとしたら、このオーラはボスの力ね。惺夜くん、力に目覚めているといいけど」


「……長く話しすぎた。いけ、つばき。お前しかいないんだ」


「わかった、その前に言いたいことあるの」


「なんだ?」


「私のことを叱ってくれてありがとう。おかげで気持ちが切り替えたわ」


「それはどうも」


「それともう1つ。弱い私に能力を与えてくれてありがとう! これで誰かを守る力が手に入った」つばきは彼に感謝をしていた。


「俺もつばきに分与できて嬉しいよ。俺の代わりに惺夜を守ってあげてくれ。俺からの命令だ」

「ふふっ、ありがとう。司咲くんと友達になって良かった」


「ああ、俺もだ。出会いを与えた惺夜に感謝だな」


 何気ない感謝の言葉。この瞬間が無駄だという人もいうが、感謝というものは人と人とが触れ合う最優先な掛け合いなのだ。


 感謝をしないものは人間として倫理観こころが欠如しているとも過言ではない。


 けど、司咲の場合、自己紹介を行なってないので、人として欠如しているところも、否定はできない……。


 すまない、物語を続けよう。


「そうね、行ってきます。あ、そうだ。天羽さん」

「ん? どうしたんだい?」


「今まであなたのこと、嫌っていてごめんなさい! 天羽さんのこと、なんにもわかっていなかった」


 体を九十度に曲げて謝罪をするつばき。過去の行いや発言、思考も全て反省している。


「……大丈夫。わかっていない方が、僕は嬉しいかな」


「よかった! 私は、天羽さんにとって、救世主で生きる希望だったかもね」


 ――――救世主。その言葉に心を打たれる天羽凪。


(ああ、つばき。そうだよ。お前は僕の……俺の心の救世主だ)


 その思いを心に秘めて、いつも通りの凪の口調で言う。


「そうかもね、西園寺さん。だからこそ生きて帰ってきて欲しい」


「ええ、生きて帰るわ。そしたら二人でどこか行きましょう」


「それって、つまりデート……」

 若干頬を赤らめる彼。少し動揺していた。


「なにをするかは秘密。帰ってきたら教えますね」


「そして、伊藤先輩二人を頼みました」


「わかったよー。ボク達に任せてね〜」

 のどやかな声で返事する飛鳥。


「そろそろいくわ……」


 つばきは秘められた力を解放。ジェット機のように真っ直ぐ速く飛んだ。

 一般人には見えない、音をかき消すほどの音速。それでも彼女を見送った三人。


「……天羽さん。一言言ってもいいですか?」彼女が去った後、つかさは何か言いたそうだ。


「ん? いいよ~。まさか! 僕が西園寺さんとデートを申し込んでくれたことに嫉妬……」


「いえ、違います。天羽さんのせいで、惺夜のお母さんが殺されるところだったんですよ。と、言いたいんです」


「……それもそうだね。間違った推理でごめん」


「――さっきは感情的になっていたけど。その人は無事だったのでいいのですが、気をつけて下さい」


「わかったよ」

 凪は申し訳なさそうに言葉を吐く。


 少し深呼吸をする司咲。そして、キザな彼に向かって話した。


「ねぇ、天羽さん。私は役に立ちましたでしょうか?」


「……どうしたんだい? 司咲くん。急に言い出して」


「……私はただ、SATのために任務を遂行していました。けれど今回の出来事はやらかしたことが多い。本当に役に立ったのかわからなくて」


 精神が追い詰めそうになる司咲。凪は先輩らしくアドバイスを伝えた。


「……そんなことか。僕の言っていることをそのまま受け取ってくれる? 君の心の中に手を当てて思い出してみて。嫌なことじゃなく良かったことだけ浮かべたら活躍したか、わかるよ」


 「思い出す……」司咲は自分の心に手を当てる。


 それは洗脳された千木楽を助けたこと。未知な能力に覚醒したこと。そして惺夜の本音を聞けたこと。それを思い出す。


 側から見たら大したことじゃないが、それでも活躍できた場面が浮かぶ。


「少し考えてみたら、急な出来事に対処できていた、と感じています。新米の私にとって、冷静な判断を下していました」


「そうだね。僕もよく出来てきたよ。滅多にないことだからね。司咲くんは頑張っている方だよ。ありがとうね」


「……こちらこそ、アドバイスしていただき、ありがとうございます。ここの建物の処理は私たちに任せて、千木楽さんと惺夜とつばきには、あとボスを倒してもらいましょう」


「うん。それじゃ救助でもしてヒーローになりましょうか。なんとか戦隊みたいに子供達の人気者になるかもよ」


 また、キザっぽく言う凪。


「……ハハハ。いつも通りですね。そこが天羽さんのいいところですよ」

 司咲は喜ぶように笑う。


 (いいところ……か、まだ僕が本性を偽って演じていることを知らないんだよね)


 凪はしんみり心浸る。

 ――――いつか、みんなに自分の本性を明かせていたらなと、ふと考える彼であった。




 覚醒したつばきは、SAT学園の方に戻った。


 まだ校舎には入ってないようだ。


「……火薬の匂いが充満している。惺夜くんと千木楽さんは無事かしら」


 外でもわかる、火薬の臭い。彼女の鼻腔に伝わった。


「……行かなくっちゃ」


 校舎に向かう。覚悟は決めている。

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