66話

 フィアナはそこまでたどり着き、二人の会話を遠くから聞いていた。


「そうか……。まぁいいでしょう。僕たちはあと人を倒すことに集中しないと、一般人は他のメンバーがやってくれそうだし」


「そうね、今はそうするしかないわ」


 銀髪の彼女は少女達の方まで、ゆっくり進む。


「どうも~、つばきちゃん達。元気にしていた~?」


 手を左右に小さく振りながら、挨拶したフィアナ。


「きたわね、テロリストの女……!」つばきはテロリストの女を睨む。


(なんだか、オーラが違う。さっきまでと別人のようだわ)


「あらあら、そこの二人はデートしていたのかしら? とてもいい判断よ、だけどあなたにそのキザ野郎と付き合うのは勿体無いわ。つばきちゃん、私とデートしてみない?」


 テロリストの女に向かって攻撃をする凪。


「悪いけど、僕たちは楽しいトークをしていたんだ。未来に明るい学生たちのデートに大人は邪魔しないでくれるかい?」


「ふふ、ますます生意気な子。いいわ、一発で終わらせるよ」


「やれるものならなってみ……」


 刹那、凪は倒れてしまう。理由は不明だ。

 彼は咄嗟に惺夜から貰った爆弾を、懐から取り出そうとする。

 だが、見当たらない。疑問に感じた。冷や汗が垂れ、焦りに焦る。


「もしかして、これ探している?」


 フィアナは、SAT特製爆発物を所持している。キザ野郎から盗んだのだ。


「な、なんで……」危険物をその場に捨てる彼女。


「私は説明やあなた達と会話するのが大好きだから言うわね。『強化された彼の能力を奪った』それだけよ」


「なんだと……」


「……! つまり、司咲くんを?!」


「さて、つばきちゃん待っていてね。このキザ野郎にお仕置きしてくるから」


 フィアナは彼の背中に攻撃し、拷問する。

 痛みつけた者の悲痛な叫びをショッピングモール内に響き合う。

 その地鳴らしのような声は他メンバーにも聞こえた。近くには伊藤飛鳥も。


「こ、この声は天羽さんの……! 場所は近いみたい直ぐに向かおう!」


 飛鳥は洗脳された人を解除しながら向かう。


「どうかしら、少し反省した?」


「……僕は何も悪くないのに反省なんかするわけないでしょ?」


 銀髪女性の攻撃は、もっと痛みが増す。


「うがぁぁぁぁ!」

「さっきまでと力が違う。なんでこんなに強くなったんだい……?」


「ふふっ、面倒だけどもう一回いうわね。朝霧くんの能力を奪った。それだけよ」

「もう一度言う暇あるのかい? お姉さん」


「全然ないわよ、もう一度言うのも言わないのも私の勝手……でしょ?」

「なるほど、それを敵の僕達に説明してもよかったのか?」


「何言っているの、私は人と会話するのが好きだから言っているわけ。これを話してもあなたが私に勝てることなんてないわ」


 黙ってみているつばき。彼女の心臓の鼓動が高まっていた。


(なんでこんな残酷な光景を黙ってみているの私……! 早く助けないと)


 しかし、つばきの足は動かなかった。フィアナの得体の知れない恐怖がつばきの身体に教え込まれた。


(どうする、どうする、どうする……)


 つばきはドンドン心臓が高まり、何かに目覚めそうな感覚になっていく。

 彼女は確信した。これを使えば勝機になると。

 しかし、まだ一歩も進めてない。


 ――――勇気が足りてないのだ。


 赤髪の彼女はある提案をする。一つの賭けだ。


「ねぇ! 天羽さん! あなたは今死にたいと思っている?!」


「ど、どうしたんだい? 西園寺さん。急にそんなこと言って」


「私はいま、足がすくんで、天羽さんを助けられない。私はあなたを救いたい! だから天羽さんの心の声を聞かせて欲しい。『助けてくれ』と言って欲しい!」


「はは、そんなこといわないよ。だって君が傷つくじゃないか?」


 凪はそういうとフィアナは話に割り込んできた。


「別に私自身、つばきちゃんを殺したいとかはしないわ。またSFで洗脳つもりだから、彼女を死なせないよ」


「そ、そうか。つまり僕を殺したら西園寺さんを洗脳させるわけね」


「ええ、そうよ。だから大人しく死んでもらって」


 つばきはそれを聞いて、一気に焦る。

 早く心臓の覚醒ゆうきを貰わなければならない……と。


「天羽さん! お願い『助けて』と言って! そうしないと天羽さんも死んじゃうわ! 私に『勇気を教えて!』」


「――わかった」


 凪は言うと、深刻な空気が混ざる。


「お言葉に甘えて、西園寺さんに勇気を教えてあげるね」


 一回、深呼吸をする。そして、今までの悲惨な出来事を思い出すかのように言葉を吐いた。


「助けてくれ! 西園寺さん! 僕はまだ生きたい!」


 少年の必死になる声がまた響く。


「さっきまでカッコつけていたけど、死ぬのは怖い。もう二度とこの痛みを味わいたくない。痛みを知ると、あの光景がまた思い出してしまう! だから……助けて欲しい」


 光揺らぐ蒼い水晶のような雫を流した凪。


 つばきの決意しんぞうが加速させる。


(天羽さん。今まで嫌がっていてごめんなさい……。今回も迷惑をかけてしまったわ。でも、大丈夫。心配しないで)



(私が絶対に守ってみせるから!)



 つばきの心臓の高鳴りが頂点に達して、彼女は一瞬意識を失う。


「あっ……」


 そして、立ったままその場から動かなくなる。


「あれ? どうしちゃったかしら? つばきちゃん……」


 すると、赤髪少女の身体が光り出す。


「熱い、熱い、熱い、熱い! ダメだ、熱くて、とても辛い……」


 ――瞬間、つばきの見た目が変わった。


 彼女は薄赤い天使サナティオに目覚めたのだ。


「ありがとう、天羽さん。あなたのおかげで勇気をもらったわ。これで私は、天使のように飛べる……」


 ――――少女は胸に手を当て、凪に感謝する。

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