65話

「だからと言って、西園寺さんを見殺す訳にはいかないよ」

 いくら、凪でもそれには答えられない。


「でも、私は惺夜くん達に、迷惑をかけた……。あのテロリストの女を倒さないと、一般の人に迷惑をかけてしまうわ」


「たしかに、あのお姉さんを殺さないと被害がどんどん大きくなる。だったらあの人を倒すのは司咲くんや僕でもいいんじゃないのかい?」


「さっきから言っているでしょ! これはSATのケジメだって! 私は散々やらかしてばかりでSATの兵隊として無様な成績を残してしまった! だからいい加減にして私に死を渡してほしい……!」


 彼女はいままでの情けない出来事を浮かべ、感情がはじける。


「死を渡す……? はぁ?」と、凪は呆れた。そして彼も感情を爆発させるかのように吐いた。


「いい加減にするのはお前の方だ!」


 人格が変わった彼は、つばきに対して怒鳴る。


「つばき! お前は本当に自己中だ! お前が死んでも誰も悲しまないと思っているのか? ちがうだろ! あんだけ、惺夜達と仲良くなって、いざ命の危機に迫ったら迷わず自分の死を渡す……。必死に生きている奴等に対して無礼な態度だろ!」


 つばきはいつもの態度の凪じゃないことに驚く、しかし彼女の肝がすわっていた。


「無礼な態度……。じゃないわ。ケジメって言っているでしょう」


「それはケジメなんかじゃない。ただの自己満だ」


「勝手に私のこと、幼馴染だと思っていたくせに? そっちこそ自己満じゃないかしら?」


「それとこれとは勝手が違う。君は死に急ぎすぎる。人のことを考えないで……。つばきも惺夜の事を死んでほしいのか?」


 お互いの正義や思いがぶつかり合う。瞬間、沈黙の時間が作られた。


 それを破ったのは自己犠牲を願う少女の方だ。


「……それは違うわ」


「そうだろ? なのに、君はケジメという自己満足で間違っている行動を正当化している。僕は君も守りたいし、他の人も守りたいとも思っている」


「……あなたは本当に、私以外守りたいと思っているの? じゃなんで守る?」


 彼に対して疑問を言う。


「さっきも言ったけど、僕は何も守れなかった。だから今度は惺夜くんや司咲くん、千木楽くん、シンジくんやそして西園寺さんにも……」


 凪の口調が、どんどん元に戻る。いや、偽りの姿に変わっていった。


「……まさか、他の人にもモカちゃんのことと重ねて、『守る』と吠えている訳じゃないわよね」


「そ、そんなことない。僕はちゃんと自分の意思で……」


「本当に自分の意思かしら? まるで何かに取り憑かれているように守ると言っているわ」


 少し煽るように言葉を吐く彼女。


「……別にいいだろ?」


 その発言に聞いた直後、ピリッとした空気が流れる。


「だったら私以外を守って欲しい。このショッピングモール内で被害にあっている人達だらけよ。貴方はその人たちを助けてあげてちょうだい。テロリストのことは私に任せて」


「本当に死にたいらしいね……。西園寺さん」


「ええ、私よりも惺夜くんや司咲くんの楽しんでくれる顔が見たいから……」


「彼と重要なことでも約束した?」


「……! なんでそれを!」


「いや、僕は知らない。ちょっとカマをかけただけさ」


 空気が変わるかのように、ふふっと微笑む凪。


「……そう。すっかり騙されたわ」


「実は惺夜くん達とドーナツ屋に行く約束していたの。戦場にこの約束は死ぬ時って知っているわ。だけど、惺夜くん本当に死ぬんじゃないかと心配で」つばきはいう。


「私は惺夜くんの死ぬ姿なんて見たくない! それだったら自分が死んで惺夜くんの遺体を見なくても済むと思い、そう考えていたのよ。もちろんケジメもあるわ。私にとって死は救済に近いのよ!」


 どんどん口を動かすつばき、凪は少し機嫌悪そうに話す。


「死は救済なんかじゃない。死んでも何とかなるわけでもない。自分から望んだ死は単なる自己満足な行為だ」と凪は深刻そうな表情で睨みつけていた。


「もし自分が死んで、標的が生きていたら意味がない。だから西園寺さん。戦っても良いけど『生きてくれ!』僕は生きているだけで充分だ」と、凪は泣きながらいう。


「ごめんなさい……。ついカッとなって、あなたが年上なのに当たってしまったわ。本当は惺夜くんの死が怖いから、逃げていただけなの。あなたのおかげで気づけたわ」


 つばきも目をウルウルさせながら謝る。


「それはありがとうね、西園寺さん。僕も強い言葉を言い過ぎてしまった。申し訳ないよ」

 彼女は柔らかい表情になる。軽い笑いも出てきた。


「ふふっ、実はね。私は、あなたと態度や行動は、ストレス溜まるほど苦手なの。だけど、私に対して一途なところは好感持てるわよ」


「それはいいことを聞いた。それじゃ生きていたらデートでも誘えるのかい? とても嬉しいよ〜」


「……。それとこれとは話は別かな? 恋愛対象じゃないですもの」


「そうか……。まぁいいでしょう。僕たちはあと人を倒すことに集中しないと、一般人は他のメンバーがやってくれそうだし」


「そうね、今はそうするしかないわ」今までの態度を反省するつばき。


(さっきはいつもの天羽さんじゃなくて、びっくりしたけど、あれが本当の彼なのかしら? トラウマから逃れるために)彼女は申し訳なさそうに謝る。


(ううん、今は考えなくてもいいわね。さっきあんなこと言ったけど、今度誘おうかな?)


 つばきはドキドキさせながら、心に感じる。


 胸の鼓動の正体が、勝運を分けることだと知らずに……。


 突如、凪はさわやかそうに微笑んだ


「……ふふふ。さっきの西園寺さん。必死すぎてキャラが変わっているように見えたよ~」


「え? そんなに変わっていた?」


 全然考えてないのか、軽く一驚する赤髪の少女。


「そうそう、だけど、西園寺さんならどんな姿でも可愛いよ」


 その言葉にほほを赤らめるつばき。


「か、からかわないでください。天羽さん!」


「そういうところも可愛いんだから」


「う、う……」


 彼女は、恥ずかしいのか、どんどん弱い声になる。

 鼓動はまだ止まない。




 その頃、能力者とドレスの女性が、まだ戦っていた。

 彼はガンカタを披露。撃ちながら体術を魅せる。


 動きを加速させ、彼女の短刀すら、かすらないよう攻撃。

 何発も撃つ。何発、弾の限界まで。


 司咲はガンガン攻めて、疎雨そうの如く降り注ぐ銃火薬を女性に浴びせる。

 全身、小さな風穴だらけになったフィアナ。それでも、耐えている。


「……少し遊び過ぎたかし……ら!」


 彼女は拳銃を取り出し、能力者に向かって火薬の接吻をするよう撃つ。


 司咲は高速で弾丸避ける。避けきれないモノは、右手で火薬弾を全弾つかみ取る。


 とったモノを手のひらから離し、銃弾と地面が駆け落ちするよう重力に従い、バラまく。

 そして、フィアナに近づき、肋骨目がけて殴りかかる。


「どうだぁ!!」

「くっ、なかなかやるわね。だが!」


 フィアナは、電化製品のコードを使い、司咲の右腕に絡ませた。


 そして、彼女の体まで近づかせる。

 若い能力者は、色気のあるフェロモンで、酔いしれそうになった。


「そういえば、私の名前って言っていたかしら、多分言ってないわね。私は射守矢フィアナ。スリーサイズ上からB89W59H87。みんな私のこと、モデルをやった方がいい――」


 ドレスの女性が言う前に司咲の弾丸が彼女の頬に掠る。


「なんだ? ハニートラップを仕掛けたわけか? 健全の男子をもてあそびやがって」


「そうかもね、つばきちゃんってほどじゃないけど貴方も可愛いから」


 彼に頬ズリをするフィアナ。彼女は舐めた態度をする。


「いい加減にしろ! テロリストの女ァァァ!」


「いい加減にしているわよ」ドレス姿の女性は司咲の身体を自分自身に寄せ付ける。


 柔らかい場所に当たる感触。彼の心臓から激しい動悸をし、頬を赤らめる。


「ここからは大人の時間よ」


 フィアナは自分の豊満な胸を、彼に触らせながら、口づけをする。


 その行動に司咲は驚きながらもっと照れる。


「な、何やっているんだ! テロリストの女!」


「つい、君が可愛くてチューしちゃった。 もう一度チューするわね」


「あぁ、そうかい。それじゃまた能力を解放するしか……!」


 司咲は体中振り絞って能力サナティオを出そうとする。しかし……。


「なんだ? 力が」


 彼から気を感じられない。まるでただの一般人みたいだ。


「私、聞いたことあるの。あなたの力を奪う方法を。それは心臓を置き、キスをすること。これであなたの力は私のものになったわね〜」


「……う、嘘だろ」


 司咲は冷や汗をかき、心にどんより黒い影が現れるぐらい絶望する。


「この行為のことをAlae albaeアルエ・アルバと言うわけ。直訳は白い両翼、意訳は平和の口づけよ」


「いい名前だな、お前らテロリストに似合わない名前さ」


 フィアナは司咲の腹部をおもいっきり殴る。


「がはっ……!」


「この奪略行為もW・Aと呼ぶわね。なんだか、私の組織と気が合うみたい」


 殴られた彼は意識を失いそうになるも耐える。


「ふーん、まだ戦えるのね。でもこれならどうかしら?」


 突然、彼女はとんでもないことをした。


 司咲の右腕を切り落としたのだ。奪った能力で強化した短刀を使って。


 能力を取られた能力者まけいぬは狂いもだえるように遠吠え。


 生命危機が訪れるのか喉が潰れるぐらい叫ぶ。


「大丈夫? 治してあげるわ」と、フィアナは彼の腕を治癒させる。


 その女性の狙いは司咲を戦闘不能にさせること。


 能力は傷を治せるが、切られた部分までは元に戻らない。


 回復させることによって、拳銃を持たせないようにしたのだ。


 彼女はさっき読んだ本で知識を蓄えた。


「……! 嘘だろ。俺の腕が……」


「あらあら、これじゃ戦えないわね~。とりあえず私の勝ちで良いかしら?」


「……なわけねぇだろ!」彼は使える左腕で銃を取って構える。


 彼女は、鼻で笑いながら、司咲の顔まで近づく。

 そして、相手の拳銃を色っぽく持つ。


「貴方は負けたの。もう攻撃しないほうがいいわ。なにか行動したら、命はないからね」


 鉛のようなトーンで彼に対して警告を促す。


「これは、一生懸命戦ったご褒美」


 フィアナは司咲の頬にキスをする。


 元能力者は残った腕の拳を強く握る。とても悔しかった。


「さて、彼の始末は終わったわ。次はつばきちゃんとキザ野郎だったわね」


 銀髪の女性は司咲の方を振り向く。


(……ごめんなさい。私にはやるべきことがあるからこうするしかなかった。本当に戻れないところまできたのね)


 そう感じていると、彼女はつばきたちがいる場所まで向かう。

 奪った能力サナティオを使って。

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