58話

 全てがどうでも良くなった少年の見た目が、天使のように神々しく。オレンジと水色のオッドアイ。後ろには天使の羽のオーラが見える。


「さて破壊するか……」


 惺夜が変身したのは【カロルナ】。


 何で惺夜がカロルナになれたのか。それは洗脳されて、千木楽にやられた青髪の少年を助けるために治した司咲のせいだ。


 SFスレイブファイターには人をサナティオにする能力がある。だが不完全なサナティオにより治した人は高確率でカロルナになり暴走する。


 惺夜は喉を潰すような叫喚で、龍康殿を威嚇。


「な、なぜ生きている」


「さぁな。お前自身知っていることじゃないのか?」


「私は知らない! |Not a sheep・Oracle escape《ノットアシープ・オラクルエスケープ》ではないからだ!」


 龍康殿がさんざん言っているNaSOEとはサナティオのことである。

 彼自身、追い求めている覚醒者はこれのことである。しかし、惺夜が持っているモノはNaSOEとは反する力。闇の力だからだ。


 龍康殿は知らなかった。負傷した場所が回復していることに。表情はとても険しく痛そうだ。

 それを初老の彼が震え止まらず見る。


「――こいつは何をやっているんだ?」


 次の瞬間、惺夜は拳銃を両手に取り、弾丸の雨が降る。

 龍康殿はそれを防ごうとするも。なかなか避けられない。


 その刹那、龍康殿の目の前に立ち、銃舞を見せる。

 ボスも拳銃を取り出し、お互い拳銃を持ちながらまわる。


「一旦、能力を外すしかないですね……」


 龍康殿は千木楽につけた能力を外した。限られた能力で、惺夜を確実に殺すために。


 まずは風でかまいたちを作り。攻撃を当てる。


 惺夜は軽々と避けた。その刹那、龍康殿はニヤリと笑う。かまいたちは細やかな尖った砂利を巻き込み青髪少年の方に命中する。


 硫酸のせいで能力を封じ込めたのうりょく。しばらく使えなくなるとは言っても、小さいモノだったら少しは使える。ただ弱体化したのも含め攻撃面にはお世辞にも強いわけではない。


 ただ、相手の隙を与えることはできる。龍康殿はそれを狙っていた。


 命中したのと同時に、スーツ姿の男性は攻撃を仕掛ける。

 惺夜は初老の彼を目で追っていた。

 惺夜は子供騙しな攻撃されたのにも関わらず、隙を与えず龍康殿の首を掴み。顔面を殴る、殴る、殴り抜ける。


 ケラケラと笑いながら、ひたすらボスが吐血するまで殴り続けた。


 能力を発動させる暇も与えない。


 ――惺夜は暴走している。


「も、もうどうでもいいな。今はとても気持ちがいい。こいつをボコボコにする時が楽しい! 俺の手がもがれても、足が折れても、指がなくなっても、心臓が動かなくても。俺はこのまま殺すすすむ


(形勢逆転だ、このまま殴り抜けたら勝てる)と異様な空気が流れる中、千木楽は確信した。


「やったな! 柊! このままいけば勝てるぞ!」


 ──惺夜は気持ち良く思っていなかった。


(なんだ? 後ろに声が聞こえるぞ。邪魔だ。いらないな。どっか行けよ。ゴミ虫)


 惺夜は龍康殿の後ろにいる千木楽の方を向き、一直線に向かう。


 そして暴走している青髪の少年は衝撃なこと行う。




 千木楽の右腕を取ったからだ。




 チョコレートシロップのように黒い血が宙に舞う。そして腕がドスンと地面に叩きつけられる。


 千木楽は激痛により叫んでしまう。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何やっているんだ! 柊!」


 千木楽の声を聞いた惺夜は、嫌悪感を抱く。


「うるせえよ。喉を掻っ切るぞ。お前の声が目障りだ。最初に片付けてやるか」


 暴走した天使は、サラッと自然に言う。彼にとって千木楽は邪魔な存在だったからだ。


 と言うよりも全員邪魔に見えていた。全てを壊す。全てを殺す。全てを邪魔だと。そう目に映るものが排除範囲内だからだ。


 惺夜は千木楽を鼻めがけて殴り、腹部に蹴りを入れ持っていた拳銃を千木楽に向けて撃つ。


 黒髪の少年はギリギリに避けて逆に弾丸をお見舞いする。弾丸は惺夜の足にあたる。だが痛みは感じてないようだ。


(なんか当たったようだ。めんどくさいことするな。ウザいわ。さっさと片付けよ)


 千木楽は心底絶望する。


「う、嘘だろ。柊……。何で俺を狙うんだよ……」


「……しらねぇよ。お前が邪魔だからだ」


「俺はSATのために戦っている! お前はそのテロリストのボスを倒すんだ!」


「あぁわかった。最初にお前を殺してから、あいつを殺すよ。両方邪魔だからな。目の前から消えろ」


 と言うと千木楽の左腕も取られた。


「あぁ! あああ。痛い、痛い、痛い、痛い! 助けて助けて助けて助けて」


 悲痛な叫びが廊下中に響く。龍康殿は恐ろしくとも思っていた。


「耳障りの声が聞こえる」惺夜は弾丸で千木楽の喉を潰す。


 千木楽の声は、まるで死にかけの十日目の蝉のような声だ。


「すこしらくになった、少し楽になった。さて次はお前だ。偽りの無神論者」


 龍康殿も絶望していた。


 全く見たことのない形態だからだ。今まで余裕ぶっていた態度が嘘のようだ。


 冷や汗を掻きまくる龍康殿。その場から逃げ出すように惺夜と反対方向に向かう。


 しかし青髪の天使は追いつき。スーツ姿の男性の足をへし折る。


「うっ!」龍康殿は情けない声を漏らす。初老の彼は命乞いするように言った。




「わ、私が、この名前をつけるなら『cerebrum_regnum世界快楽、泥を啜れ』と名付けよう」




 龍康殿はカロルナをそう命名する。


「皮肉にもいい名前だな。だからどうした? お前を殺――」


 龍康殿は、惺夜の脳天目掛けて、弾丸を放つ。


 こうも簡単に、脳天貫き、青髪の天使は倒れる。これも痛みがないようだ。あっさりと倒したので、龍康殿も驚いていた。


「ハァ……、ハァ……。やっと憎き忌子を倒しましたよ。これで世界は救われた。多くの犠牲者が出ましたがこ……」


 龍康殿が『これは世界を守るための生贄です』と言う前に殺したはずの惺夜が立ち上がる。


「あが……あがががが。ぶごっ」


 奇声を上げながら脳天に飛んだ弾丸を筋肉で押し外れる。まるでどんどん回復しているみたいだ。


「殺さなきゃ……俺が邪魔だと見なしたからな。邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ。俺だけの世界を作らせろ」


 龍康殿はまた冷や汗をかく。そして筒先合わせて撃ちまくる。

 何度も惺夜に命中するも彼が撃たれては回復するのを繰り返す。


「世界世界世界世界世界世界。邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔。骨骨骨骨、肉肉肉肉肉」


 よくわからないことを言う惺夜。それはまるで狂犬のようだ。


 龍康殿は精一杯の声で罵倒する。



「お前は生まれてきちゃいけない存在だ」



 彼はたった一言でしかいえなかった。


 龍康殿の言葉は惺夜の耳に響く。


「生まれてきてはいけない……? ありがとう褒め言葉だ。気に入った。お前は徹底的に心を壊してやろう」


 惺夜は、一瞬で龍康殿の背後に回り、首をへし折る。


 (な、なんだ……視界が変わって、息ができない)


 龍康殿はそのまま倒れる。惺夜は初老の彼に勝ったのだ。しかし、暴走天使は龍康殿をカロルナの能力で治癒行動に移す。


「い、生きている……。な、何で治した……?」


 ──次の瞬間、惺夜はまた龍康殿を殴る。


「なんで治したかって……? 何度もお前を殺すためだ、無神論者。血肉通うサンドバックのようにな」


 青髪天使は、ボスの額に弾丸を重ねる。普通なら即死だろうが、初老の彼は違う。まだ生きている。


 そして、また回復をさせ、再度ボコボコにする。


 惺夜は気持ち悪い笑い声をしながら。


「そして、お前の心がへし折れるまで痛めつけるためだよ。『早くあなたに殺されてください』と言うまで」と言う。


 龍康殿を何度も回復させてから、どんどん痛めつける。暴走した青髪が攻撃するたび、龍康殿は怖気付く。


 同時に惺夜にもカロルナの効果で内臓は破裂し、手足の骨は折れ、どんどん吐血していく。だが強制的に回復させられていた。


 痛みは感じない。ただ動いている。


 彼自身、体力的にきつい状況だが、禁じられた覚醒カロルナのせいで体が疲れを感じさせられない。単なる殺戮兵器となっている。


 龍康殿を殴り続けて蹴りをして、そして心が弱くなった男性が小さな返り討ちされても、また自分自身を回復させられる。


 皮肉にも初老のボスと同じ状況。


 治したら弾丸で半殺しにし、治したら龍康殿の足の骨を折り、治したら目を潰す――。


 短い間ずっと繰り返していた。もう十分近く経つ。


 ゲラゲラと笑い声が学校中響く、響く。それは天使の仮面を被った悪魔だ。


「……確か惺夜、だったよな。早く私を殺してくれ……。殺して、お願いだ。私をもう苦しめないでくれ」


 龍康殿は弱々しい声でそう願うも、惺夜は聞いてすらなかった。そして攻撃を与えながらこう言う。


「さて、この龍康殿を殺したら次はショッピングモールへいるつばき達に会おう」


 惺夜は最高の笑顔になる。しかし、同時に疑問にも思った。


「まて、つばき……? 誰だ、そいつは」


 惺夜はカロルナの効果で、つばきが誰なのかわからなくなってしまった。


「そうか、つばきってやつを殺せばいいのか。司咲も、凪も、テロリストの女もショッピングモールにいる人質も全員処刑しよう。俺の邪魔するものだらけだからだ」


 もう手遅れだ。惺夜はカロルナに支配されている。もう抜け出せない、もう戻らない。ただ破壊の快楽の渦に巻き込まれる。


「俺は何も守れないなら壊せばいいんだ。もうあんな綺麗事は必要ない!」


 滑稽な姿の龍康殿を回復させながら言う。


「世界は俺のものになる。もう誰も守らねぇ。俺は俺の本能のままに動いてやる」


 彼の思考が破壊と惨殺のことしか考えてないとき、突如、誰かが惺夜の後ろから抱きつく。

振り向くと、そこには……。

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