53話
目の前には平然とした凪の姿だった。遠くから「おーい」と声をかける司咲。
「いたいた! どうやら大丈夫そうだね。無事でなりより」
「無事で良かった。テロリストの女も倒してくれたのね。ありがとう天羽さん」
つばきたちを見つけた凪は深刻な顔をしていた。
(良かった、西園寺さんは無事みたいだね。ありがとう惺夜くん。恩に着るよ)
何も喋らないオレンジ髪のことを不思議そうにみている二人。紫髪は声をかける。
「……ど、どうしたんですか? 天羽さん。そんな顔をして、何かまずいことでもあったとか」
続けて、つばきも、「何かやらかしたとかですか? 天羽さん」と恐る恐る聞く。しかし凪らしい返答をした。
「……いや、西園寺さんの美しい顔が確認できて良かったな〜、と思っただけさ」
「なんだ、いつものことね。心配して損した! でもSATのために戦ってくれて感謝しているのは本当よ」
「いえいえ、僕は西園寺さんのためなら、偽りのピエロを演じることだってできるのさ。そのぐらい朝飯前を通り越して、
「……天羽さん。全く意味がわかりません」
「おや? 司咲くん。つまり演じることが簡単ってことさ」
「え? 演じている? それ素じゃないんですか?」
「もちろんこれは僕の本来の姿だよ。でも好きな人のためなら、なんだってするのさ」
そのキザっぽいセリフにつばきは呆れながら。「そう、だったら痛々しい発言はやめてほしいですね」と彼女はジト目で凪の方を向く。
「おやおや? 照れ隠しかい? しょうがないよね。僕に惚れているとそういう感情になるよね。そういう照れている顔も素敵だと思うよ」
「私はそう言うことする為に来たんじゃありません!」とプイッとそっぽを向くつばき。
(……良かった。いつも通りの彼女だ。さっきまで傷つけてごめん。だけど君がいれば僕は……、俺はどこへでも飛べるよ。椿色の羽のように)
ぼーっとしている彼に対して少女は声をかける。
「何、考えているんですか? 天羽さん」
「えー、何度も言っているよね〜。君の顔を見ているって、よく見ると、ほっぺが、むにゅとしていてまるで小動物みたいだ」
「今度はセクハラ発言ですか? エッチ! 変態!」
つばきは嫌そうに目を瞑り、左右にゆする。
「そうかもね。僕はピエロだから」凪は微笑むように言葉を返す。
流石の司咲意味分からない発言だったか、
「それはどう言うことですか! 天羽さん。流石に痛々しくて見てられませんし、全然わからないです」
と彼は冷静に突っ込む。
──数秒後、惺夜から連絡が来た。
つばきと司咲がグラウンドに向かっている時。廊下にいる惺夜は龍康殿に質問をする。
「確かテロリストの最終目標は、俺らSATメンバーを洗脳させて世界の軍事を乗っ取る計画だけど不発に終わったな」
「確かに。それは不発に終わりました。W・Aの目標としては。でも私の最終目標は私たち兄弟の絆を壊した柊家を始末することなので。大丈夫なのです」
「何が大丈夫なんだよ。意味わかんねえ」
惺夜のイライラが止まらない。
「そういえば、お前は最初名前を言わないと言っていましたよね。なんで自分から名乗り出たんですか? やっぱり君は呪われた子だから矛盾を言うのかい?」
「名乗るつもりはなかったが、言わないとあいつらに危害を加えると思っていな。致し方のない手段だ。元々お前の声を聞いた時から、何か気に食わなかったしな」
「ほほほ、そうですか。呪われた子らしいですね」
「あと、お前さ、二億欲しいとか言っていたよな。軍資金ということか?」
「いえいえ、二億は脅し文句みたいなもので、本当は人々を神にしようと」
「ちっ、あれは演技だったのか。なおさらムカつくな、ジジイ」
「ジジイ? まぁいいでしょう。私にだって言いたいことがあります」
龍康殿は震えた声で青髪の少年に今の心情を伝えた。
「お前は神になろうとしている人たちを、脅かす悪魔使いや堕天使のような存在だ。だから天使としてお前を殺す」
「……はぁ、もうお前は喋るな。喋るたびに人間として、薄っぺらく見える。神とか天使とか言っとけば、賢くなっていると思うなよ。エセドン・キホーテ」
惺夜は本当に呆れていた。初老のボスは懐からトランシーバーを出す。
「少し待っておくれ。射守矢さんに報告しなきゃいけないことがあるから」
「待てるわけないだろ!」と言いながら龍康殿の方に突進するも、戦闘経験豊富な彼は片手で、惺夜の動きを止める。
「忌子のくせして生意気ですね。こんなやつは片手で十分です」と惺夜の体術を華麗に防いだ。
龍康殿は持っていたトランシーバーでフィアナに繋ぐ。
──その頃、彼女は意識を取り戻す。頭の中はクラクラしているが、まだ動ける。
少し深呼吸したら、トランシーバーから連絡が来た。
「すみません、射守矢さん。今からショッピングモールに行ってくれませんか? そして教師につけているSFを発動させて、そのモール内の人間を神にしていただくと、ありがたいのですが」
「わかりました、龍康殿様。只今負傷していますが今から向かいます」
「ふむ。負傷しているのなら、ゆっくりでもいいですよ。元々一時間まででしたので。到着したらSFを発動させてもいいですし、射守矢さんが直接神にさせてもいいですよ。痛い!」
「?! 龍康殿様。通話越しに誰かいるんですか?! だったら私が処理を……」
「射守矢さん! こいつは私、龍康殿徹平にお任せください。こいつだけは殺さなきゃいけない存在なので。貴女はショッピングモールの人たちを助けてやってください。この忌子のせいで苦しんでいるはずです」
「……わかりました。とうとう見つけたんですね。良かったです。では私は任務を遂行します」
とテロリストの女は傷ついた身体を塗り薬で回復しながら、ショッピングモールの方に向かう。
「龍康殿様が危険な目に遭っているのに、私はショッピングモールに行くことでしかできない。こんな不甲斐ない私を許してください」と呟くフィアナ。
学校からの距離はそこまで遠くない。フィアナの足ならすぐ着きそうだ。龍康殿はトランシーバーをしまう。
「さて、私も用事が済んだことですし、冷静に淡々と始末してあげましょうか」
初老のボスは息を荒くして発言と異なる行動をしていた。
「やべぇ、俺もあいつらに連絡しないと!」
惺夜もトランシーバーを出す。しかし少年の右太ももに弾丸が掠る。
「くっ、急がなきゃ」
トランシーバーの電源をつけ、ボタンを押す。
「おい! みんな聞いてくれ。あのテロリストの女はショッピングモールに向かっているぞ! 司咲! つばき! そしてダンディ厨二病! 急いで向かってくれないか!」
──事情を聞いた三人。司咲が惺夜に向け言う。
「……惺夜。わかったすぐ向かうよ。お前はテロリストのボスを頼む」
その発言に、彼女はハッと驚く。
「え?! 惺夜くんの方に助太刀した方がいいよ! ショッピングモールは2人だけにして……」
つばきはそういうも凪はこう説得する。
「西園寺さん。ここは惺夜くんに任せよう。心配なのはわかる。だけどあのテロリストのお姉さんはとても強く、僕でギリギリだ。多分あの薬を使い、回復し向かっているだろう」
「でも惺夜くんが!」
「僕は西園寺さんと二人っきりで、ショッピングデートを望んでいるけど、それだけじゃ僕達はお姉さんに勝てない。だから三人でなんとかやるしかないんだよ」
「……わかった。わかったけど、腑に落ちないわ」
納得がいかないつばきに、司咲は彼女の肩を叩く。
「惺夜を守りたいのはわかる。だけど学園内には千木楽さんがいる。だから安心して人質がいる建物にいる人達を助けに行こう。つばき」
「そうね。そろそろ十四時近くなってそうだしそっちに行くわ。ところで今何時だろう……?」司咲は携帯で時刻を確認する。
「……十三時四十一分だ。急ごう」
「ええ、行きましょう」
──三人は学園外に出て、ショッピングモールに向かう。
何か感じたのか、司咲は走りながら、二人に話した。
「携帯があるなら、本当はツーシンで連絡とかできたらいいけど。惺夜は攻撃を受けている可能性があるから、トランシーバーじゃないとすぐ連絡はできなかったかもな」
「それ今気になること? どう考えてもそう言う理由以外ないじゃないの」
つばきはつっこむ。謎の疑問を持っていたからだ。
「なんか気になっていてさ。携帯あるのに、トランシーバーなのかなと。でも携帯だと手間がかかるのかなと思ってさ」
「なんか急に変なことを言うよね。司咲くん」
赤髪の少女は突っ込む。それを凪はフォローする。
「んっん〜。別に僕は気にしないよ。そういう時もあるよね」
と、三人はよくわからない会話をしながらショッピングモールに向かうのであった。
つばきたちの緊張は少しほぐれただろう。
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