50話

 司咲の口が開き、声を出す。


「……そいつは天羽さんがやってくれたと感じるよ。なんだかそんな気がする」

「天羽さんが? どうして?」


「わからない。だけどグラウンド方面かな? そこでぼんやりとした気があって天羽さんらしい魂が今も残っているから」と司咲は感じとる。


「抽象的でよくわからないけど、無事ならよかったぜ。実際見てないからわからないけど」と惺夜は察する。


「だったら天羽さんのところに行くか? まだグラウンドにいると感じるから」司咲は提案し。

「……あのうざったい態度は苦手だけど。命に別状はないか心配だからね。行くわ!」とつばきはそう話す。


「なぁ、司咲、つばき。話してもいいか?」惺夜は真剣な表情で言う。

「どうした? 今のところ危機は迫ってなさそうだし。いいぞ」

 紫髪は返答した。


「ありがとうな。なんか久しぶりにお前らとラーメン食べたくてさ。これが終わったらラーメンに……」

「……おい! 戦場にフラグを立てるな! いいか、それを言ったら大体誰か死ぬんだぞ! 二度とその言葉を言うな!」


 司咲は過剰にキレる。無理もない彼はなんとなく惺夜がこの戦場で命を落とすと思っていたからだ。紫髪の男の子にとって正義感の強い少年は親友。絶対に言わせないようしていた。


 「別にフラグでもいいじゃない。私たちと一緒にラーメン食べたいことはフラグでもなく願望だからね。いいわよ。一緒に食べよ?」

 つばきはニコッと笑う。


 質問を答えるように、ゆっくり声を出し、口を開ける司咲。


「確かに、この戦いが終わったら、ラーメンを食べてもいいと思っている。でもつばき、こいつは絶対に自分を犠牲に誰かを助けようとしているんだ! だからこれを言ったら惺夜は死んでし……」


「大丈夫よ、私がそうさせない。テロリストを倒したらラーメン食べましょう。でも先にドーナツ屋さんにも行ってもいいかしら? 最近できたばかりの店をみんなと食べたくて」


 つばきの提案にうんうんをうなずく惺夜。


「……お前らと食べられるのなら、ドーナツ屋でもいいぞ。昼にも話したしな」

「それじゃ決まりね。この戦いが終わったらドーナツ屋さんに行く! 約束してね」


 つばきはウインクしながら、ニコッと笑う。天真爛漫な笑みだ。


「あぁ、わかった約束するよ」


 惺夜はそう言うも、内心戸惑っていた。


(本当は死ぬつもりで誘ったが、逆に約束してしまったな。まぁいいか、なるべく生きてお前らとの約束を果たす……。難しい要望だけど)


 惺夜はそうふける。つばきと司咲はそれを知っていた。彼女は悲しげな表情で。


(惺夜くんなら、絶対自己犠牲にこの学園を守るかもしれない。なんとか阻止しないと。私が守らなければ……)と考え込む。


 司咲も同じこと思っていた。


(あいつなら、自分を失っていても他人を守る性格だ。あの言葉フラグを言うってことは、マジで死ぬ気だ。俺らが守らないとあいつは死ぬ。つばき……それを知って約束したんだ。だったら俺も約束を守る権利はある)紫髪は胸に拳を当て握る。


 その彼は手をパンパンと叩いて仕切り直す。


「……さて! 死に際の約束は終わったか? そろそろ天羽さんを助けに行こう! 気があるとは言え無傷ではないかもしれないから」


「ダンディ厨二なら平気だろ。ウザさは殺したいレベルだが、実際に殺そうとしてもあいつなら華麗に避けて逆に拳銃を構えるさ。つまりあいつはそんなにやわじゃないということ」


 惺夜はなだめているのか、馬鹿にしているのかわからないが、凪のフォローをしている。


「あの人なら無傷だと私も感じる。でも急ごう。そうだ、惺夜くん言いたいことあるの」

 つばきは何か言いたそう。司咲も同じ気持ちだ。


「俺も言いたいことがある惺夜。耳かっぽじってよく聞けよ」紫髪の少年は少し口悪く話す。

「あぁ聞いてやるよ。短めにな」


 親友同士の声が重なるように。


「死なないで、惺夜くん」

「死ぬなよ、惺夜」


 ……と心配そうに伝えた。それを聞いた惺夜。


「……わかった。それもできるだけ約束しよう。さて行くか」


 一瞬ほほえんでいるようにもみえた。

 三人は凪がいるグラウンドへ向かうことにする。

 司咲とつばきは心配そうに惺夜の方を向く。


(惺夜くん、貴方は何考えているのかわからない。けど私たちのために自己犠牲やめて。そんなことしても何にも解決しないよ)


 つばきは冬空に浮かぶ寒風のように寂しげに感じる。

 その風が心臓かんじょうに刺さる。


(私も自己犠牲なところがある。SATに入部したってことは戦死する可能性もある。これは私のわがままだけど、もし生きてられる可能性があるなら、貴方せいやくんは生きていてほしい。もし神様がいればお願いします。私もSATのために戦うから)


 つばきは祈る。そして胸に込み上げるものがあった。


(……なんだろう。目が覚めた時から、なんだか胸の奥が熱く感じる。なんだか鼓動早くなっていくような)


 赤髪の少女に何か違和感があった。司咲の能力に似た何かが目覚めそうな勢いだ。

 彼女はまだそれを知らない。


 運命の鍵を握っているとも知らずに。

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