49話
惺夜は司咲の顔を見て、少し間を置き、決意する。
「……回復させよう。もしダメだったらそれでもいいさ。俺はつばきの思いと共に戦い、この学園をテロリストの墓場のつもりで行く!」
彼は本気だ。それは紫髪の親友にも心で伝わった。
(とても辛い決断だが、今の惺夜にはそれができる覚悟だ。俺は惺夜のため、千木楽さんのため、SATのために絶対つばきを助ける!)
だが青髪少年の内心は違った。
(つい嘘をついてしまった……。そう言わないとお前が心配するからな。本当は今すぐに自殺したい気分だ)
ぐっと拳を握りしめる惺夜。
(つばきだと知らずに、あんだけ傷つけてしまったからな。なんで俺はサバゲー感覚で入部したんだろう。この覚悟がなかったからかもな)
司咲とつばきの逆方向に向く惺夜。
(つばき……、俺はお前に感謝している。守れなくてすまなかった。そんな俺に生きている資格などない。俺は自分自身を犠牲にしていてもテロリストのボスを倒す)
自殺願望の少年はゆっくりと目を瞑る。
(俺はいらない子だったんだ。そのぐらい神様は許してくれるだろう……。だから俺は死んでもいいんだ)
そう、惺夜はふけると、つばきの手がピクっと動く。
「……回復した。成功したんだ! やったぁ!」司咲は大きく喜ぶ。
それを見た惺夜は優しく微笑む。
「……あれ? 私生きている。どうして」つばきのまぶたが開くと惺夜は喜んだ。
「つばき、お前はな……」
「ううん、知っている。洗脳されたんでしょう?」
「なぜそれを……!」
「なんとなく、そんな気がしていた。惺夜くんと戦っていたこともわかっていたよ」
「つばき……。傷ついて辛かったよな」
惺夜は心配そうにつばきの目を合わせる。
そして、赤髪のショートヘアはゆっくりと話した。
「ううん、辛くないよ。1番辛いのは惺夜くんや司咲くんの心が傷つくことだから。別に私が犠牲になってもSATという組織が無事ならそれでいいの」
「……そうか、そう思っていたんだな。それも正しい判断だ。だけど、お前は生きていていいんだぞ。お前には世話になっているからな」
「フフ、仲良くなってから日は浅いよ。惺夜くん。優しくしてくれてありがとうね」
「こっちもありがとうな。生きて俺は本当によかった。お前を親友以上に大切な人だから」
「親友は司咲くんでしょ。惺夜くん」
「あいつは腐れ縁みたいなものだ。まあ親友でもあるな」
「やっぱり親友じゃないの」
つばきは惺夜の方を向き、天使のように微笑む。
それを見た惺夜はドキッとして、照れていた。
「やっぱりお前は笑うと可愛いよ。性格はサイコみたいで怖いけど」
「性格は余計じゃないかしら? でも褒められるのは照れちゃうな」
「褒められ慣れてないんだな。テロリストを倒したら、どんどんつばきのこと褒めるよ。かけがえのない女親友だからな」
つばきは少し悲しげな顔をする。
「……でも、私は惺夜くんを傷つけてしまった。身体も、心も。ごめんね、私がヘマしなければ」
「いや、俺が悪い。俺はつばきの方に行けばよかったんだ。なのに、お前の熱量に押され、そっちに行けなかった。ごめんな」
「でも、洗脳した司咲くんを倒せるのは、あの状況の中では惺夜くんしかいなかったよ。司咲くんも助けてくれてありがとう。ありがとう……!」
つばきは自分の非力のせいで、抑えていた感情が溢れ出し、泣いてしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。私が非力だからこんな目に。テロリストの罠にハマらなければ」
みぞれのように泣いているつばきを見た惺夜。
「つばき、ちょっといいか?」
惺夜は“つばき”をぎゅっと抱き寄せる。まるで赤子をあやす聖母のように。
「……つばき。お前にお願いしたいことがある。お前は笑うと可愛いんだ。だから泣かないでずっと笑っていてほしい。それが俺からのお願いだ」
しゃっくりをするつばきを、なだめる惺夜。
少しずつ泣き止むつばき。
「惺夜くんって本当に優しいのね。非力な私をフォローしてくれるなんて、いっぱいありがとう。私、弱くても頑張るよ」
「あぁ、無理しない程度に頑張れ。お前は俺にとってのNo.2なんだ。自分に自信を持てよ」
惺夜は抱き寄せるのをやめ、彼女の方を向く。
そして、笑顔になりながら。
「俺の友達でよかった。本当にありがとうな」と、嬉しそうに言う。
「こちらこそ、惺夜くんの気持ち伝わったよ」
つばきも、くしゃっとした笑顔で返した。
それを黙って見ていた司咲は、少し苛立ちそうにみる。
「おっほん! つばきが生き返って良かったが。別にラブラブっぷりを、俺に向ける必要あるか?」
紫髪少年は咳払いをした。惺夜とつばきはキョトンとする。
「え? 別に俺はつばきのこと恋人だと思ってないぞ。ただ無事で良かったなー、と」
「私も惺夜くんのこといちばんの友達だと思っているから」
司咲はニヤニヤと笑いながら。
「あぁ、知っているよ。ただ、からかっただけさ。少しどんよりとした空気を変えた方がいいだろ?」親友の言葉に納得する惺夜。
「ま、まぁ確かに。テロリストが潜入されてからそろそろ1時間近く経つからな。目まぐるしく活動していたから」
「そう言うこと。とりあえず、つばきの件は終わったことだし。テロリストのボスを倒すかショッピングモールにいる生徒たちを助けよう」
「待って! あのテロリストの女は……?」
つばきは焦りながら話す。
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