48話

(俺はもしかしたら、誰かを助けたい、守りたい、と思っているが。死にたいとも思っているんじゃないか? 俺のせいで誰かを不幸にしているなら、自分の犠牲のおかげで幸せにすればいいと)


 黙り込んだ惺夜を見たケルビムは、痺れを切らした。


「どうした? もしかしてぼくが正論言ったから、黙り込んじゃった? それは失礼なことしてしまった」


 惺夜の重い口が開く。


「そうかもな……俺、本当は誰かを守りたいんじゃなくて、俺自身を犠牲にしたかったんだ」

 少し微笑みながら言う。


「まぁ遠回しの自殺って訳だな」


 そして、ぶっきらぼうにも言う。


「つまり、人を守るという口実で、死にたかった。いるべき存在じゃなかった。だから命を犠牲にしてでも、俺の存在価値を壊すつもりだった。だけど、俺は死ぬつもりで人を助ける。身体がボロボロになっても。それが俺の生き様だ」


 ケルビムはマジックミラー越しでつまらなそうな表情をする。


「ふーん、もう言い訳は終わりかい? 結構楽しかったんだけど、呆気なかったな」


 惺夜はピンチになり、無意識に内ポケットを触る。


 そしてSAT特製のグレネード弾があることを思い出す。


 心の中で微笑む、惺夜。


「言い訳? 違う、これは時間稼ぎだ!」


 彼は内ポケットに入っていたSAT特製のグレネード弾をケルビムの方に投げる。


「なっ!」


 ケルビムはすぐさま、改造爆弾を避ける。


 そして、惺夜の前に行き、アーミーナイフを構える。


 青髪の少年はニヤリと笑い。


「引っかかったな! これは囮だ!」


 とケルビムを掴み、SFのある首を触る。


「ここだな? 洗脳装置は。ありがとうな、引っかかってくれてそれじゃこれで解いてやるよ!」


 グレネードの爆発音と共に、惺夜は彼女のSFを外す。




 SAT特製のグレネード弾は爆発音と威力を各5段階調節でき、威力を低くしたり高くしたりできる。


 今の攻撃は威力も『いち』にしており、控えめになっている。


 爆発音:威力で5:2、3:3、4:1にもできる。


 これは囮の爆弾なので、洗脳されているケルビムを比較的傷つかないようにしたのだ。

 


 火薬の匂いとボイスチェンジャーの声が響き合う廊下で惺夜はホッと一息を入れ座る。


(ふう、やっと倒した。さてどう言うやつがケルビムか見てみるか)


 フードを取ると、惺夜の見たことある顔だった。


 惺夜は必死に戦っていた相手が、つばきだと今頃知ったのだ。


「つ、つばき! お前だったのか! やばい。殺してないよな……」


 惺夜は焦る。だけど大事には至らなかった。


「よかった、よかった。結構傷ついているけど、死んではないな」


 彼が安心していると、つばきは立ち上がる。


「おっ、つばき起きたか! どうだ調子は……」


 惺夜は殺気に気がつく。これは尋常じゃないと。アーミーナイフを持ったつばきは奇声を浴びながら暴れる。


「射守矢様、射守矢様、射守矢様射守矢様射守矢様ァァァ!!」


「嘘だろ……つばき」


 狂ったように言葉をくりかえすつばき。


「敵を仕留める、敵を仕留める、敵を仕留める、敵を仕留める。殺すのが私の使命、殺すのが私の使命、殺すのが私の使命」


 どんどん状況は悪化していく、つばき。


「敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵。てきてきてきてきてきてきてきてきてきてきてきてきてきてき!!!」


 ケルビムもとい、つばきは過剰にいじったSFによって暴走してしまった。惺夜はじっくり赤髪少女の目を見る。とても正気ではない。化け物を見ているようだった。


「どうする?! この状況初めて見た……! 考えろ、考えろ!」


 このまま話し合いで平和的解決できないと悟る。悩みに悩み悔しそうな表情する惺夜。

 そしてある決断をする。


「……つばき、おまえはよく頑張ったよ」


 顔が曇る表情をする。覚悟を決めた少年。


「俺のいないところに一人で戦って、テロリストに洗脳されて仲間撃ちをしながらも必死で生きて……」


 惺夜は銃弾を拳銃にリロードする。


「ありがとうな。今の俺には、これしか浮かばなかった」


 青髪少年は、銃口をつばきの胸や腹に向け、構える。


「安心しろ、つばき……。絶対に助けるからな。俺のことを恨んでもいい、今はゆっくりと休め。じゃあな」


 そう言いながら、鉛のように重い引き金を震えている手で引く。すると弾丸が光のスピードでつばきの胸や腹に数発当たる。


 撃たれたのか後方に倒れる暴走した少女。彼女は今にも天に連れて行かれるように瀕死な状態。


 惺夜はつばきを撃った。ただし、彼にも少し考えがある。


(すまない、つばき。司咲が来るまで待っていてくれ……。司咲のなにかの能力なら、お前を回復させると思うから)


 そう、司咲のサナティオで生き返らせそうと企んだのだ。人任せであるが今はそれしかない、と。


「司咲……早くきてくれ! そうしなきゃつばきが……」



「つばきがなんだって?!」


 惺夜の背後に司咲が現れる。突然のことなのでびっくりする青髪。


「うわぁ! お前いたのかよ! びっくりさせやがって!」


「悪りぃ、悪い。言いたいことがあるが、一応聞く、つばきと戦ったんだな」

「あぁ、そうだ。胸糞悪いがな」


「辛いよな。それと千木楽さんが戦っていたのは永瀬先輩だったってことは?」

「それは知らなかった、それで永瀬先輩は……?」


「……亡くなったよ。戦死だ」


「そうか、なんやかんだでいい先輩だったんだけどな。」

「まぁしょうがないよ。守るってことはそう言うこともある」


「今は永瀬先輩を、お悔やみたいが、今はそう言う状況じゃない。つばきと戦ってどうした?」


「簡単に説明する。つばきを殺した、だからお前の謎能力で助けてほしい」

「そのことか……参ったな」


「ど、どうしてだ? 回復させるだけだぞ」

「実はな、さっき永瀬先輩を助けようとしたらダメだった」


 惺夜は驚く、司咲に“冗談だろ”と言う表情で訴えた。


「俺の能力らしきものは回復できても、生き返るか、どうか分からんぞ。惺夜。それでもつばきを回復させるか?」


 戸惑う惺夜。また選択肢が増えた――。

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