46話

 惺夜とケルビムが校舎外で戦っている頃。


 襲撃により崩壊した廊下で司咲は彼らを探す。


「惺夜! つばき! 一体どこに戦っているんだ!」


 辺り一面を探す司咲。しかし一向に見当たらない。


 こうしている間にも、惺夜か凪がつばきを殺してしまうと不安になる。


「アイツなら洗脳装置を絶対外す。だけど誤って殺してしまう可能性もある。今すぐ“つばき”だってことを言わないと」


 血眼にして探すと、なにか気配を感じる。


(なんだ……? 何故か、つばきと惺夜の場所がわかる。そっちだな!)


 司咲は急いで惺夜たちが戦っている場所に行く。


 何故わかったのかは、司咲に芽生えたサナティオの影響。それで居場所がわかったのだ。




 サナティオの能力は人間に不可解な能力ものだ。閃光の攻撃、飢えた傷を癒す、探知能力、白黒映る両目オッドアイ。まるで神を護衛するような能力。


 研究している専門家はこう述べる。


 『この力は、まるで神や天使のように我々を癒してくれる能力。心の悪魔を排除し、人間の本能とは違う。天からの贈り物』と。


 そして。『この人々の平和を願ってくれる力をラテン語で癒しという意味をこめて “サナティオ”と名付けよう』専門家は命名する。


 ただ別の研究であることを知る。サナティオとは似ているようで違う能力が存在すると発表された。その名はカロルナ。由来はラテン語で熱と月という意味のカロルとルナから取られている。




(……ここは)


 薄暗い意識の中、つばきは目覚める。


(確か激痛と共に私は……)


 つばきは首に手をやるも、チョーカーのものらしきものはない。


(……? どうして? あの女性にチョーカーをかけられそこから記憶が薄れている)


 赤髪の少女は朧げな意識の中、惺夜の姿を見る。


(あっ、目の前に惺夜くんがいる……)


 だけど彼女は冷静だった。


(……それもそうね。だって洗脳されているんだもん。ごめんね……惺夜くん)


 意識の中で悲しむ、つばき。


(私は、もう安心して死ねるのね。私がヘマしなかったら、惺夜くんと戦うハメにならなかった。だけどそれは結果論。今の身体では手を動かすこともできない)


 彼女の意識せかいが消えていく。


(絶対に私を仕留めてね。惺夜くんのこと心の中で応援しているから……)


 再び、目を瞑るつばき。少し満足そうな表情をしていた。惺夜なら確実に少女を殺すことができる人だと思っているから。


 そしてケルビムの正体がつばきだと言うことも、惺夜は知らないのだから、なおさらだ――。




 惺夜は殴りながらあることに気づく。


(……ちょっと待てよ。永瀬先輩、こんな強い立ち回りしていたっけ? 流石に違くないか。別人の可能性もある)


 彼はケルビムが永瀬春花ではないことに気がついた。


(……仮にコイツが“つばき”なら、力強い体術と最低限の動きはしないはず。それなのにコイツがつばきを殺しやがった!)


 だが、、惺夜はSFが肉体強化できるってことを知らない。このまま、つばきを傷つける。


ケルビムこいつの正体って誰だ……?)


 考え込む青髪。


(……いや、そんなことはどうでもいいかもな。誰であってもチョーカーを外して助けるだけさ。だけどつばきを殺したことを償って欲しい。それだけは許さない)惺夜はふける。


 ケルビムは一方的に殴る青髪少年の攻撃に慣れてきたのか、平手で防御するようになった。

「どうした……攻撃がとろくなっているな。さっきの威勢が消えているぞ」


 防御しながら惺夜の攻撃を受け流す、フードを被った敵の少女。


「ははは、そうですか。俺にも考える事だってあるんだぜ? 終わったらあいつらとラーメン食うか、とか、お前をどうやって助けようかな……とか」


「助ける……なんて虚しい言葉なんだ」


「救命行動を虚しいというのはお前だけだよ。ケルビム。どこか虚しいから言ってみろ」


「だってお前はこの戦いで何か守った? 関係ない一般人を見殺し、君の仲間を傷だらけにして、なにが助けると吠えるのか。現実を見なよ、君は誰も助けてない」


 惺夜はわかっていた。誰も助けてない自分の姿が愚かだってこと。つばきを間接的に見殺してしまったこと。そのことに目を背けていた。


「……今からケルビムの洗脳を解くことと関係あるのか? 単なる時間稼ぎにしか見えない」彼は言葉を吐く。


「あぁ、勝手に時間稼ぎと思っていても良いよ。君の言い訳も聞きたくてさ。どんどん攻撃して良いよ。君の攻撃少しずつ弱くなってきているし」


 惺夜の体力はどんどん落ちていく。ケルビムに勝てるのかまだわからない状況。


「言い訳じゃない! お前は知らんが、俺はつばきと一緒に生徒を守って、テロリストの一員を始末した。そして仲間の先輩を助けた。それ以外の理由なんてないだろ!」


 少年は動揺しながらガンカタを決める。ケルビムも同じように拳銃を持ちながら踊る。お互い別方向に銃弾を飛ばしながら話す。


「それは“一人で守った”というのか? 学園に残っている生徒や先生を探しましたか? 君の仲間の遺体を見ましたか?」


「生存者の一般人は見てないし、仲間の遺体はみてないが、犠牲者の遺体は見た」


「それは君が守るのに遅かったから、犠牲になったんでしょう? ほら守っているわけじゃないじゃん」


 惺夜は少しずつ口数が減っていく。


「どうしたんです? 守る、守る。とか言っといて、生き残りの人を守ってないし、見つけてもいないじゃないか。護衛するのは建前で本当は別の何かがあるんじゃないの?」


 ケルビムは冷たい言葉を発する。青髪はその発言に鋭く突き刺さる。


 (……確かに、俺は誰も守ってない。なんで俺は人を守ることに執念しているんだ。心の奥底で別の感情が動いているのか?)


 (少し過去を遡ろう、答えは見つけられるはず)


 惺夜は家族のことを追憶する。

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