45話
「ころ……した? おい、どう言うことだ!」
「もう西園寺つばきと言う名前はこの世にいない。ケルビムの名を残すためにね」
「テロリストに、無理やりつけられた名前を残すために? ハッハハハ、それは長年にわたる名作だな」
惺夜は気持ち悪いぐらいに笑う。倫理観が失った人のようだ。
──刹那、表情が急変する。
「ふざけるなよ……永瀬先輩! 洗脳されているからと言って許されるとは限らないぞ。お前のことは先輩とは思わん、ただの殺人鬼だ!」
「あぁ、永瀬は殺人鬼だな。ぼくもそう思う」
二人は駆け寄り。惺夜がケルビムの胸に向かい、右手で殴ろうとすると、ケルビムが左手にある拳銃の銃弾で、彼の右腕を撃つ。
その隙を惺夜の左脚で、空中を舞い蹴り飛ばす。動きを止めたケルビムの腹に、体重を乗せたミドルキックをする。威力は強烈で重さを感じた。
そして青髪の少年は尽かさず拳銃を持った拳で胴体部分をひたすらラッシュする様に殴り続ける。
恨みを乗せに乗せた連撃。ケルビムはそれに耐え、カウンターを狙うもなかなか隙が見えない。
怒りの乗せた拳は熱くなる。
(……ついカッとなって強い言葉を言ってしまった。永瀬先輩に悪いことしたな……ごめん。俺は、俺は……)
ケルビムを殴りながら、つばきとの出会いを思い出す。
惺夜とつばきの馴れ初めはSATに入学してからの出来事。入学式が終わり、帰ろうとしたところ。
誰もいない教室で、男子生徒にいじめられる少女を見つけた。それが西園寺つばきだった。
どうやら、いじめている生徒はつばきの腹部を殴っているようだ。惺夜は急いで教室を開けた。
惺夜が来る前の様子。つばきはチャラそうな男子生徒達合わせて四人に囲まれていた。
「おいおいおいおい、アンタSATメンバーなんだっけ? こんな雑魚に守られる俺らって不遇だよな? お前ら」
チャラそうな男子生徒とその取り巻きが笑う。
つばきは何も言えなかった。事実だから。
「私、雑魚じゃないもん。必死にガンガタの基礎の拳銃の使い方や体術も勉強しているし」モジモジするつばき。
「勉強だぁ? 笑わせるな。だったら俺にガンガタを見せつけろよ。さぁ早く」
「
「失礼だな、コイツの模擬訓練だよ。いやぁ、この前、映画見てこのセリフ吐いてみたかったんだよなぁ!」狼というチャラ男はウザそうに話す。
「あはは、実は狙っていたりして。あの映画面白かったよな! 狼。」取り巻きAは笑いながらいう。
「……私は絶対にやらない。あなたを傷つけることはさせない」
「ふーん。んじゃストレス解消でもしとっか」
チャラそうな男子生徒の狼は、つばきの腹部を殴る。
「くっ!」必死につばきはお腹をおさてる。
「俺はな、二つフェチがある。まずはお腹フェチ。そしてリョナフェチでもあるんだ。お前はその両方へ選ばれた。大人しくサンドバックになっとけ」
狼はひたすらつばきの腹を殴り続ける。
「やっばぁいわー。爽快感半端ねぇ!」
ガラッと扉開く音が聞こえる。
「おい! 何やっているんだよ! お前ら!」
チャラ男が殴り続けていたら、後ろから惺夜が現れた。
「なんだよ、お前もSATメンバーか?」
「ああ、そうだ。この子を殴るのやめてくれ。代わりに俺を殴れ」正義感の強い少年は交渉する。
「はぁ? 俺はな、男を殴る筋合いはねえ。お前が女なら殴ってもいいが、逆に俺自身を殴ってもいいけどな」
「そうかわかった、ちょっとこの子借りていいか?」
「あ? 今、快楽の湖に溺れているんだから借りられるわけねぇぞ! まぁ情けの斧ぐらいなら投げてもいいが」
「あぁ、その斧を投げるつもりだ。この子と本気で戦ってみるという金の斧さ。悪くないだろ?」
「……悪くねぇ。殴る方も好きだが、殴られる女を見るのも大好きだからなぁ」
「交渉成立だ。アンタ何も言わずに俺と戦ってくれ」
「わ、わかったわ。よろしくお願いします!」
惺夜とつばきは間合いを見る。
そしてお互いの体術を狼の一味に見せつけた。
閃光のような動き。そして重い拳。軽やかな足蹴りをじっくりと見る狼達。
十五秒後、つばきの方が優勢になる。
惺夜は淡々と赤髪少女の攻撃を受け続ける。
(え?! なんで? 相手の方が強いのに私の攻撃が通る……? だけど当たっている感覚がない……)
それを見た狼はつまらなそうに見る。
「なるほどな。助けたお前も強そうだけど、この女はそれ以上にめっちゃ強かったんだなー。サンキューな、俺は大満足した。じゃあな」
「えぇ! 狼! このまま下がるのか?!」
「ああ、ある程度殴ったし、元々弱そうな女を貶めるようにしようとしてから、なんかもう飽きたわ。帰り道で別の女に会えたら殴るようするよ」
クズ発言をしたチャラ男に対して怒りを覚える惺夜。反論するように彼はこう伝える。
「あ、もう飽きた? それは良かった。だけど、お前らSAT生徒が一般市民に暴行してもSATは動くからやめた方がいいぞ。俺だけじゃない。千木楽さんも参加するからな。それでもいいならどうぞご自由に」
「……いくぞ、お前ら。今後から女殴るのはやめておく」と言いながら教室を去る狼と取り巻き達。
「よし帰ったぞ、とりあえずお腹は大丈夫か? 無理そうなら俺が肩を貸すぞ」
「お腹の方は大丈夫です。心配していただきありがとうございます。助かりました!」
「いいってことよ。ところで当たっている感覚なかっただろ?」
「え? えぇ、全然なかったです」
「それはまぁ単純に当たる瞬間、紙一重で避けているからね。当たったフリと言うわけ」
「そうなんですね。無事解決しました! ありがとうございます」
「それとアンタ近距離戦苦手そうな割には、結構基礎できているからいい感じだ。あとは筋力と大きな動きを減らせば俺より強くなるぞ……やべ! 説教臭くなった!」
「大丈夫ですよ、気にしていません」と、つばきは、くすくすと笑う。とても楽しそうな表情だ。
続けて赤髪少女の口が動く。
「……名前はなんで言うんですか? えーと」
「……惺夜、“
(
「おーい、聞いているかー?」
「……え?! き、きいていますよ! 私は西園寺つばきです」
「西園寺つばき……素敵な名前じゃん。名付けた親に感謝した方がいいぞ! それじゃ俺はダチを待たせているんでね」
「待ってください! 私も一緒に帰ってもいいですか!」
「ん? 別にいいぞ。帰り道ラーメン食おうかなと思っているが、それでもいいなら」
「ありがとうございます!」とつばきは笑顔で惺夜の方に向かう。
その様子を教室の外から見ていた人がいる。
“
(……僕が助けようとしたけど、遅かったか。まぁいい、モカに似ている人を助けられる時に助ければ。モカ……)
凪はモカのことを思いながらスタスタと別の方に歩く。
――秒針は少しずつ動き出す。
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