43話
十三時三十三分――。とある教室で千木楽は目覚める。
「良かった! 目を覚ましたんですね!」と司咲は大喜びをする。
「……お、俺は一体」
戸惑う正気に戻った少年に司咲は事情を伝える。
「簡単に話しますと、千木楽さんは洗脳されて、私たちと戦っていました」
「そうか……それはすまなかった。ウッ……」
「無理しない方がいいですよ。今、負傷していますから」
「あぁ、そうだな。洗脳されていたのか……」
悲しげな千木楽の表情に懐疑の念を抱くが、司咲は首を軽く傾げる。
「……ところで西園寺の行方はわかるか? 俺と戦っていると思ったら、そうじゃなくてさ」
彼の発言に目を丸くする紫髪の少年。
「え?! 千木楽さんは、つばきと戦っていたはずじゃ……」
「……俺と戦っていたのは永瀬だ。そして、この手で殺した」
司咲は驚きを隠せない。
「つまり、天羽さんが戦っているのは……」
「……! いま天羽と戦っているのか!」
「えぇ、その増援のために惺夜が向かっています」
「まずいことになったな。俺たちもいくしか無いな」
「……待ってください! 確か永瀬先輩は戦死しましたよね? もしかしたら私が治せますよ」
千木楽は目を丸くする。
「……本当か? 柊には悪いが、まずは戦力を増やすために、永瀬を助けるぞ」
「千木楽さん。私が詳しく言ってないのに、理解できるって柔軟性に長けているんですね」
「だって何かの薬を持っているんだろ? よくわからんが」
「それじゃ無いですよ。私に新たな能力をもらったって感じです」
黒髪の少年はよくわからなかったが、とりあえず春花のいる教室まで案内する。
(そうか……春花が助かるんだな。ありがとう朝霧。恩に切るぜ)
二人は春花のいるところまでついた。
司咲は春花の死体を見る。
「……脳天に一撃、千木楽さん。SATの一員を殺すのはとても躊躇ったんでしょう。とても辛い目に遭っていたんですね」
「……あぁ、とても辛かったぜ。でも、洗脳装置の外せなかった俺にも責任はある。俺が無能だから一員が失ってしまったのさ」
「だ、大丈夫ですよ! 私が治しますので、千木楽さんは無能じゃないです! ほら! 指令はとても適切なものですから」
と喋りながら春花の体を触れてサナティオの能力で回復させる。死体から流れている血はなくなりまっさらな状態。しかし永瀬が起きることはなかった。
「あれ?! なんで、私の能力が聞いてないどう言うことだ。永瀬先輩起きてください! もう回復しましたよ!! 起きて!」
千木楽は司咲の肩に手を置き、震えた声で伝える。
「もういい、もういいよ。ありがとうな、朝霧。お前はよく頑張った」
一呼吸置いてから。
「俺からの命令だ、天羽と柊の方に迎え。そして西園寺を助けてやってくれ。俺はそれしかできない」
トップは今にも泣きそうな勢いだ。司咲は察する。
「わかりました、力になれなくてすみません。それじゃ私は天羽さんと惺夜のほうに向かいます」
司咲は凪と惺夜のほうに向かう。
千木楽と春花しかいない教室で、彼は時が止まるように動かない。そして彼女の手を取る。
「春花……春花。お前も頑張ったよ。少し期待していたが生き返らせなかったよ。今まで生きてくれてありがとうな。朝霧のせいじゃ無いからな、悪いのは俺だ」
春花の手を黒髪少年の額に合わせる。
「俺はお前を愛していた。だけど、また助けられなかった。こんなダメな俺でも、少しだけ勇気を与えてほしい。生意気な態度で悪いと思っている」
千木楽は涙が止まらなかった。春先に溶ける山の雪のように。
「ほんのちょっぴりでいい。俺に勇気を与えて、テロリストのボスを倒せるぐらいの勇気と力が欲しい。だから冷たい身体だけでもいいから、俺に力と勇気を……」
総長の背中に安らぎの気配を感じる。
まるで千木楽の不安を包むような優しい気持ち。
彼はなんとなく察する。
「そこにいるのは……春花だろ? 勘違いだったらすまない」
千木楽がそう言うも金髪少女は何も答えない。
ただ黙って彼を抱き寄せる。
「……いや違うか。俺の幻聴だよな」
春花の魂は、沈黙を破る。
「……今いうことは、シンの幻聴でもいいわ。ぼくも貴方のことを愛していた。ぼくが死んでからも、泣かないでと言ったのに泣いてしまった貴方のことが、とても愛おしい」
幽霊となった彼女は、からかい半分で言う。
「それと貴方も生まれてきてくれてありがとう。ぼくはそれしか言えない」
春花の魂も泣き震えながら言う。
「どうかしら、ぼくの空っぽの身体だけじゃ満足できないでしょ? だから魂も応援してあげる」
千木楽は泣きじゃくる。そして。
「シン、ぼくの方を向いて」
千木楽は春花の方を向くと、彼らの唇が重なる。それに満足したのか、少女の魂は上へ上へと向かった。
それが千木楽の幻覚かはわからない。だけど確かに黒髪の少年へと勇気と力を与えていた。
「……春花。俺、頑張るよ。いやSATトップとしての責務を全うするさ」
千木楽は春花のいる教室を去る。凪たちを助けるために向かう。遺体となった金髪少女の表情は喜んでいるようにみえた。
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