42話
──フィアナは瞳を開ける。目の前には群青が煌めく、雲一つもない空。銃砲の煙が薫る。そして傷が治っている凪の姿がみえた。
「よぉ、お目覚めか? おとぎ話をバカみてえに信じているシンデレラ様よォ?」
「貴方は確か私の嫌いなキザの子……かしら? 飛んだイメチェンね。高校生デビューとしてはもう遅いわよ? もしかして大学生デビューかしら?」
彼女はそういうと凪は銀髪女性の顔を持つ。そして膝を顔面めがけて打った。何度も、何度も、何度も。
女性は一瞬の隙を掴み、抜け出す。
そして拳銃ではなく、短刀を持ちながら。
「ちっ! まさかとは思うけど、これが貴方の本性かしら? 生意気な子供ね。私が教育してあげるわ。そろそろ今の相棒とも仲良くしないとね」
「さぁて、さっきから本気はだしていたがぁ。ここからも本気だ。もちろん俺の眠っていたクソみてえな人格でヨォ〜」凪はオラオラしながらニヤリつく。
「まずは鬼ごっこだ。多分おばさんは、もう体力が劣化しているから、若さのスピードに追いつけないんだろうなァ」凪はシンジを連れグラウンドから逃げ出した。
「いちいち癪に障る子なこと。でも本性出したのは良いわ……」追いかける銀髪の女性。
凪とフィアナは別の場所まで行かされる。
本性を見せたオレンジ髪少年の姿は眠れる獅子のようだ。
校門近くに着いて、シンジを学園外に置く。彼はその場から離れる。
「おやおや? 追いついたんだなおばさん。ただ刀を持って走る姿は、バカみてえだったぜ」
するとフィアナは短刀を持ちながら、凪の皮膚を切ろうとした瞬間。凪は拳銃で防御した。
「いい加減、大人をバカにするのはやめたほうがいいわよ? 貴方!」
「おいおいおい、どうしたんだよ、お前。さっきの威勢はないのか? やっぱり脳が上がって磯辺揚げ状態にしている女はクソだな」笑いながら喋る凪。
少年が発砲するも、彼女は短刀で銃弾を切る。
「女性差別主義者なのね? そんなことが頭に残ると、次は男性差別や職業差別とかするからそれもやめなさい!」
短刀で返しに返すセクシーな女性。
「はぁ? なんだよそれ。だったらお前は一般人差別主義者だな。勝手に学園を襲ってヨォ〜。一般人を虐殺しやがって!」
「意味不明なことに返す言葉が、意味不明な言葉とは。全く呆れてものが言わないわね」
「てめえから始めたものだろうが!」
オレンジ髪の彼は発砲をやめた。その隙をついて
肺の中に穴が開いた感触だ。そのまま左右に殴りつけ、銀髪の女性を押し倒して顔面をボコボコにする。
「さっき俺に対してお前がやった事だ。どうだ?」
「くっ、とても痛い……。でもだから何って感じよ。貴方の本性が垣間見られて良かったわ」
「そりゃどうも」ニヤリと笑う凪。立て続けにこう言う。
「もしかしてさ、お前、俺と一緒で重要な本性を隠しているわけじゃないよな?」凪は煽るように言う。
フィアナは目を丸くし動揺していた――。
彼女の脳裏の鉄格子には“千木楽海斗”の
今から語る話はフィアナの話だ。
この女性は元々SATトップ。実力があったのもそうだが本人は全く認めてなかった。
それはフィアナの想い人であった“
海斗の方が彼女よりも実力がある方なのに会長は認めなく、銀髪少女はいつも悔しい思いをしていた。
彼女が総長になってから数年。海斗に呼び出される。何か伝えたいらしい。ついていくフィアナ。その内容は、W・Aとは別の“テロリストへの勧誘”だ。
一瞬、戸惑ったが、彼女自身「貴方のためなら地の果てへ繋がる業火に焼かれてもいいわ」と伝え、組織の一員となる。
でもなんで海斗が、こんな堕ちたのかわからなかった。そしてフィアナは組織のために働いていた。
彼女が二十五歳の時に、テロリストのボスから、どこかの倉庫に呼び出された。海斗と一緒にその場所までいくも、後ろから殴られて意識を失う。そうフィアナ達はボスに裏切られたのだ。
理由は特に無い。ただ空虚の裏切り行為に海斗は激怒するも、返り討ちになってしまう。
彼女はもうダメだと思った瞬間。倉庫に誰か来る。上品な臙脂のスーツを着て髭の生えている男性だ。
その男性はテロリストの一員の煽りを受けるも、それを気にせず
その初老の名前は『龍康殿徹平』これはW・Aの結成する前の出来事。フィアナと海斗は龍康殿に誘われてW・Aという名前をつける前の組織に勧誘される。二人はNo.2とNo.3として活躍し、彼女達で仲間を集めていた。
しかし
何故なら――。
No.2の千木楽海斗はもうこの世にいないからだ――。
「なんで私が演じているってこと知っているのよ……」
「なんだ? 図星だったのか? 単なる出まかせだったが、逆にラッキーだったぜ〜」
「うるさい! これが私だって偽らなきゃ……、私が悪だってことにしなきゃ、海斗さんに目を合わせられないわ!」
「タコだかカイトだが知らんけど、つまり自分は悪だと思っているわけで。アハハ、その通りだな」
テロリストの女のことをからかう凪。
「私は七〜八年前、海斗さんと共に地に堕ちたのよ。でもあの人のことを愛しているから満足はしているわ。それで偽るのよ」
「ふーん、俺も好きな人はいるぜ。お前さんの好きなつばきちゃんだよ」
「私もあの子は好きよ! だって素質があるもん! だから海斗さんやつばきちゃんのためにも私は戦う!」
フィアナはオレンジ髪の少年に向かって短刀の剣先が無名作品のセンスの如く光る。
しかし凪は軽く避ける。女性は動揺しているのか、いつものような調子ではなかったからだ。
「危なっ! トンチンカンなこというなよ。逆恨みか?」
「ええ逆恨みよ。だったらどうする?」
「どうもこうもねぇよ。“
二人の戦いはヒートアップする。フィアナの短刀が、右斜め上から左横。フェイントかけて前に押し倒す。
しかしオレンジ髪の元不良はそれを避けに避けまくる。もうパターンは見切ったのだ。
「……終わりか? それじゃあこっちの番だな」
凪の戦闘スタイルはステゴロ。まるで凪の本性を見ているようだ。テロリストの女は彼の拳が当たりまくって痛そうだ。さっき飲み薬で傷が癒やされたとしても、体力は回復しないようだ。
凪は最後の一撃を喰らわせ、フィアナは後ろに倒れる。
「最後の一撃は俺のものじゃねぇ。西園寺……さんのものだ」
「フフ、つばきちゃんの一撃って、あの子に似て可愛らしい攻撃ね。私は嬉しいよ」
「あぁ、可愛いよな。俺の幼馴染とそっくりだ」
(……海斗さん。貴方は私を組織に誘ってくれてありがとう。私はもうある程度満足したわ。でもまだやり残したことがある。龍康殿様の命令に従うという貴方の約束を……)
フィアナは目を瞑る。今起こっている現実から背けるように。敗北を認めないように――。
(さて、あいつらが戻ってくる前にキャラを戻さないとな。モカが理想としているキャラを)
凪は偽りのキャラを演じる。いつもの彼自身だ。
「さ~て、惺夜くんの方は大丈夫かな~?」
初夏の優しい風が透き通りとても気持ちいい――。
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