41話

 グラウンドで、どんよりとした空気が流れていた。

 理由は凪が洗脳させてくれと、自分から言ってきたからだ。


 キザな少年の一言にフィアナは頷く。


「ええ、いいわよ。ただし、先に貴方から洗脳させてから、シンジくんを助けるわ」


「あぁよろしくね、美人なお姉さん。洗脳している僕の瞳が魅力的だからといって不意に唇を奪わないでくれるかい〜? 僕の唇は予約している先客がいるのさ〜」


「はいはい、わかったから。ちょっと待っていて、今、洗脳させるから」銀髪の女性は凪を冷ややかな目で見る。


 ドブネズミを見るようなそんな感じだ。


「いやいや〜。こんな美人な人に洗脳されるって、僕なんてついているんだ〜」


 凪のキザなセリフに、我慢の限界か赤いドレスの女性は堪忍袋の尾が切れに切れすぎて、もう袋ではなく絹に近い布のように怒鳴り散らす。


「……うるさいわよ。さっきからさ! 貴方はなんでそんな気持ち悪いこと言えるのよ!!」

「え? それが僕の姿だから……」彼女は凪の顔を抑え地面に叩きつける。


 血だらけになったオレンジ髪の少年の顔を見ながらフィアナは言葉を吐く。


「今までずっと黙っていたんだけど。もしかして自分の本性を隠しているかしら? ずっと偽りのお前を見て、イライラしているわよ」


「ハァハァ、何言っている。それが僕の性格って言っている……」また銀髪の女性は凪の顔を何度も、何度も、何度も、叩きつける。


「いい加減わかんないかな? 私はね、偽っている人が嫌いなのよ。自分を含めてね。貴方を見ていると痛めつけたくなるのよ」


「そ、そうか、僕はなんて罪深い……」今度は彼の顔面にフィアナの拳が強く殴る。


「そう、それが本心ならいいんだけどね。さーて、そろそろ首を切りつけますか。短刀を出すわね」


 テロリストの女は短刀を出し、凪の首筋に切られ、流血。


(も、これで良いよね。モカ……。俺はもう疲れた、疲れたんだよ)凪は目をうつろ目でフィアナやケルビムの方を向く。


(これでやっと、やっと終わるんだな)


 赤いドレスをきた銀髪の女性がSFを取り出し、凪の首に巻こうと瞬間。銃弾がSFに掠る。

 銃弾の先を見ると惺夜が立っていた。


「いーや、また知り合いを救って、俺はラッキーだ。まぁダンディ厨二病が無事でよかった……じゃないけどな」呑気なことを言う惺夜。


 と束の間、表情を変えて、「やられている一般生徒がいたのか……SATの一員として悪いことしてしまった」と正義感の強い少年はポツリと呟く。


「遅かったじゃない惺夜君〜。ヒーローは遅れて見参ってわけ? 僕の真似しているってことは尊敬しているんだね〜」


 惺夜は「るっせーぞ!」と少し怒鳴る。


「貴方ね、三十分ぶり。どうしてここがわかったのかしら」


「普通に勘だけど? まぁ良いか、そこのテロリストの女! 今から痛い目に合わせるからそこを動くなよ!!」惺夜は戦闘体制に入り、フィアナ目掛けて走る。


(まだ日の浅い子供のくせに、簡単とイキれるわね。若さって怖いわ)と半分呆れている彼女。

 惺夜が拳銃をフィアナの胸元めがけて叩くと短刀で防御するテロリストの女。


「まだまだお子ちゃまね。君、子供だから特別に後で私の胸を揉ませてあげる」


「黙れ!! ガキ扱いしているんじゃねえぞ、テロリスト! お前は頭がピンクの象まみれかよ!青髪少年はブチ切れる。


「すまなかったな、ダンディ厨二病! 遅れてしまって申し訳ない! 今からこいつを片付けるからな!!」


 凪は戦っているの方を向きながら。


「まって! 今怪我している一般の生徒がいる! その子を助けてやってくれ!」


 惺夜は銀髪のテロリストの女と戦闘しながら話す。


「助けてやれるが、どうやって怪我を治すんだ? 傷薬は持ってねぇぞ!」

「このお姉さんが、怪我を治す道具を持っている。それを奪え!」


「おう! わかったよ。有能なダンディ厨二病!」

 目がキリッとした惺夜がまた攻撃をする。


(私一人でも十分だけど、一応つばきちゃん呼ぶわ)


「ケルビムちゃん! 援護して!」


 黙って見ていたフードの少女が動き出し、惺夜と妨ぎ、戦う。


「マジか! もう一人仲間がいたのか!」彼は驚く。


「ええ、そうよ。この子はね、洗脳した永瀬さんよ」


「永瀬先輩だと! クソ! 少し大変だけど、行くしかねぇ!」


 ケルビムが回転しながら足蹴りをすると、惺夜は空中へ飛び、ぐるぐるしながら避ける。

 そして最低限の動きをした銃舞スイーパーを決める。


(……あの男の子は私と比べて別に強くない。だけど、何か秘めたるものを持っている)セクシーな女性は冷静にみている。


 ケルビムと戦っている惺夜を見て気づく。

 あの回し蹴りの癖、囲まれた時のブロー。カンフーさながらの動き。腹部の蹴るタイミング。


 そう全てがフィアナの想い人の“千木楽海斗”の動きや癖だったからだ。

(?! なんであの子が海斗の戦術を持っているの……? あの人はもう……“死んだはず”なのに)


 ドレス姿の銀髪女性は、今にも泣き出しそうな目をしていた。

(なんで、なんでよ。あの人はもういない。思い出したくないのに、また思い出してしまうじゃないの……)


 テロリストの女は、ふけっていることに気がついた惺夜。彼はケルビムを無視してフィアナのほうに向かう。


 そして押し倒して、ドレス内にある塗り薬を取る。

 不意に押し倒した衝撃で、気絶をするフィアナ。


 取った薬を目の前にいたシンジの傷口を塗りまくる。

「雑に塗ったが、これで治るだろう。ダンディ厨二……めんどくせぇ!! 天羽さんが言った通りならな!」


「やっと、僕の名前を言ってくれたね〜。感謝するよ」


「前にもいったろ。まぁ、ダンディ厨二病が異常に長いからな。めんどくさくなってきて。まぁそんなことはどうでもいい。お前も塗って回復させてやるよ」


「……いや、君はあのお姉さんと戦ってくれ。僕が回復したら、シンジくんを連れ出し、無事に学園内から脱出しなければならないからさ」


「……まぁいいが、傷だらけだから、あんまり無理すんなよ」惺夜は凪に向かって塗り薬を投げ渡す。


「あぁ、わかっている」


 彼は柔らかい表情をしていた。


「ところでもしこのテロリストのボスに勝てそうなら『Nice Fight』と言ってくれないかい?」


「……ナイスファイト? 何でそれを言わなきゃいけねんだよ……。アホ?」


「三十分前ぐらいに言ったことだよ。リフレッシュ法さ。もう回りに回る出来事で疲れてきただろ?」


「……あぁ、言えるときあったら、行ってみるよ」真剣な目で見る惺夜。


「そうだ! これあげるよ」


 惺夜はブレザーの内ポケットからSAT特製のグレネード弾を三つ取り出し、キザ野郎に上げる。


「こ、これは?」

「まぁお守りさ、こんなにいらないから三つ上げるわ」


「……そう、わかった。あと今戦っているケルビムっていうやつの正体は永……」凪が言う途中でケルビムが銃弾で威嚇する。


「少しのおしゃべりは過ぎたかな? 今度は、ぼくと戦う番だ」


 彼女はマジックミラー越しで、惺夜たちを睨みつける。


「このケルビムってやつ、強ぇーし、面倒だな。俺よりは強いけど、凪は戦えんし、俺が行くしかねぇな」


「ま、まって! 僕が戦うから、君はあのお姉さんと……」


「あぁ、そいつと戦っても良いが、永瀬先輩も助けないとなと思ってさ。容態が回復したらテロリストの方は任せた。あの洗脳装置を壊せるのは、俺でもいけるからな」


「でも……」凪は何か言いかけるも、惺夜はそれを妨害する。


「何が言いたいか、わからんが、多分“つばき”のことが心配なところだろ? 大丈夫だ。千木楽さんと戦っていただけど、どこにいるのか今も不明だ。お前はあの女を倒したら、つばきを探してくれ」


 凪は本当のことを言いたいけど、体力が限界で何も喋れない。


「つばきは、お前の愛しい人だろ?! 赤い糸で見つけてくれよな!」と惺夜は冗談半分で言い、ケルビムを連れて、グラウンドから離れ、学園内に行く。


 ケルビムの正体が“つばき”とも知らずに。

 その言葉に凪は感情を振り切った。


(なんでこんなにウジウジしていたんだろ。モカのことを思いすぎて、いじけてしまった。僕は勝手にシンジくんをモカだと思って接していたんだ。それは絶対にダメだ。)


 塗り薬を塗りながら、彼はこう考える。


(だれもいねぇし、そろそろ、本来の“俺”を出すか。あのクソみてえな女をボコボコするために)

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