39話

 しばらく考えているフィアナ。思いついたのか口を開いた。


「──あなたの息の根を止めることね。SFの貴女、預けていたブツを返して」


 SFの一人が彼女の拳銃を渡し、フィアナは一般の男性を射殺した。


「あなたはもう用済みよ……。さてシンジくん。私についてきなさい 動けないと思うから持ち上げるからね。ヨイショ!」


 フィアナはうつろな表情で、(……私も堕ちる所まで堕ちたわね。これでよかったのかしら、海斗さん)と追懐する。


(ごめんよ……キザみ海苔。俺は逃げられなかった、女狐を疑っていたのに判断を誤った。俺はダメな奴だ)シンジは意識を徐々に失う。


「さて、学園内戻るわよ、そして罠にハマってくれたシンジくんにご褒美ね」


 男子生徒の頬にソフトなキスをする色っぽい銀髪の女性。


 彼にとっては屈辱のキスだ。フィアナは凪とケルビムがいる場所まで戻る。



 凪は敵の拳銃二丁をやっとの思いで奪った。


「ハァハァ、これで君は何もできなくなったね〜。次はどのダンスを踊ろうか?」


「そう、ではぼくの演舞でも見せようとしますか!」


 また同じように真正面から向かうケルビム。それを見た彼は呆れている。


「演舞、演舞言っているけど君はそれしか言えないのかい? この戦いの後に僕とお茶を嗜みながらゆっくりと勉強会でもしましょうか?」


「うるさい! うるさい! うるさい!」フードの少女は凪の安い挑発に乗ってしまい怒鳴り散らす。


(この調子で行けばチョーカーまでの距離が近くなる。その時に外せればいいけど……)


 オレンジ髪の少年はケルビムの方を見ながら長考する。


「フフ、悔しかったら素手で武器を取り返してく……」


「取り返す必要はないわよ、ケルビムちゃん」


 彼女の玉を転がすような声が凪の鼓膜にも響く。


 銀髪の女性は髪をなびかせながら、「これからこのキザ野郎と交渉するからね〜。さてとりあえずこれを見てくれるかしら?」フィアナは担いでいた首を斬られているシンジを持って凪に見せた。


 キザな少年は驚いた表情だ。まるで過去の彼が見たモカの姿のように。


「なん……だと。どうして?」


「この子は雑なハニートラップに引っかかって負傷したわ。どうする? あなたの選択肢はシンジくんを助けるか、ケルビムちゃんを殺すか……ね」


「そんなの決まっているじゃないか! 助けるよ! ほかの選択肢が……」


「ちなみに助ける方法は“あなたが犠牲になって死ぬ事”よ。そうすればこれはあげるわ」

 赤いドレスの女性は胸元からW・A特注の塗り薬を見せる。


「どう? セクシーに取れたかしら? まぁあなたはキザだから好きなタイプじゃないけど、どうする?」


 凪は数十秒真剣に考える。


(くそ! 僕が守らなかったばかりに、シンジくんがやられてしまった……。シンジくんも助けたいけど、かと言って西園寺さんも助けたい。でもどちらか一つじゃないとシンジくんは……)


 フィアナは、(ケルビムちゃんは、絶対死なせないようにしているけど、このキザ野郎の反応が見たいからつい言っちゃったわ〜 こいつは必ず犠牲になる事を選択する)内心クスクスと笑っていた。


「まぁわかっていると思うけど、早くしないとこの子を処分するわよ」

「そんなことは、お姉さんがまだ倫理観ある時代から知っていたさ」


「……私はまだ倫理観あるわよ。んで決まった?」


(時間稼ぎもダメか。早く考えないと、この状態で両方助けるのは不可能。憧れのあの人との沈黙のキスよりも、深く深く考えないと……)


 凪の脳裏にはあの事件が蘇る。とても苦しい思い出だ。


(どうすればいい……モカ)


 オレンジ髪の少年は歯を食いしばりながら。


(……やっぱりこれしかないよな。モカ、本当にすまない)彼は提案を思いついた。それはあまりにも残酷な考えだ。


「まだまだ迷っているわね〜。ゆっくりでもいいわよ。でもそろそろ始末しようかしら……」


「ねぇお姉さん。三つ目の選択肢ってありかな?」


「……私たちに利得がある条件ならいいわよ」

「良かった、ありがとうね。それじゃその選択肢に」


 凪の震えた唇が少しずつ開き始める。


「“僕をその装置で洗脳させる”と言うのを加えてくれるかい……」


 凪は(ごめんよ、モカ。今の俺にはこの選択肢しかなかった)と辛く意中する。


 只今の時刻は十三時三十二分――。




 十三時三十二分、惺夜達は千木楽の攻撃で倒れていた。

 しかし、司咲の手がピクリと動く。


(なんだ……なんだか体が熱くなり、冷たくもなっているような感覚だ……)


 心臓から流れる血潮がまるで少年を奮い立たせるような鼓動聞こえる。


 少しずつ、司咲の身体が自然治癒よりも早く回復していく。心臓の鼓動が少しずつ上がって彼は血湧き肉踊る。


 ドンドン、ドンドン、ドンドンドンドン、ドンドンドンドン! 心拍数が上がり、身体が動き出す。


(本当になんだこれ?! 熱い熱い熱い! 助けて助けて助けて助けて!!)


 司咲の脈が最高潮まで行きガバッと立ち上がる。


「あああああああぁ!! 熱い熱い熱い!」


 司咲の身体から少し眩い光が溢れる。


 その声に気がついた千木楽。少年の方を振り向くと紫髪の少年の顔が少し変わっていた。

 司咲の目が黒と白のオッドアイになり、目の下には涙のよう流れる模様が見えた。そして余裕そうに立っている彼の姿が千木楽のガラスのような瞳に映っていた。


 敵になったSATトップは驚く。


「この姿はなんだ……? 司咲答えろ。お前の好きな命令だ」

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